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書評日記  パペッティア通信

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Jul 5, 2005
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カテゴリ:歴史


面白い内容のはずなのに、なぜこんなにつまらないのだろう…
どのようにしたら、面白くなるのだろうか…

世の中、そんなことを考えて読んだ方が、本編より面白いことがたま~にある。
さしずめ、この本は、そんな本の代表かもしれない。

関東大震災前の防災体制。そして、関東大震災の消防体制と医療・救護の出動態勢についての分析。ボランティアは、どのように動いたのか。今後の災害出動体制に、どのような教訓を汲みとれるのか。本来、無茶苦茶、面白そうな本です。

実際、要点を抜き出せば、面白い。

江戸時代の初期消火は、荷物を道路に運び出さない、というものらしい。屋根に上がって飛び火を防げ!の教訓が忘れ去られて、大惨事をまねいたのだという。

消防車や医療救護班・ボランティアへの、ガソリンや食料供給をどのようにおこなうか。応援部隊をどう投入すべきか。水道断水の恐怖。人命の危機を周りが察知できるか。

阪神大震災で問題になったこうしたことは、いずれも関東大震災でも問題になっていて、全然かわっていません。公共施設の消火活動で、消防署などは手一杯。やはり、地域のボランティアにたよる所は大きく、内務省・青年団と在郷軍人会を基盤にしたボランティア活動は、関東大震災では大きな役割を果たしえたはずだった。それなのに、朝鮮人暴動の「流言(デマ)」によって、自警団活動へと向かい、その役割をになうことができなかった、という指摘は、とても面白い。そのデマも、地域外に逃げていく人びとを引き戻すため、住民がわざと散布した側面も強く、それが軍・警察など「公的機関」の出動によってフレームアップされ、数々の殺戮が行なわれることになった面があるようです。この「流言(デマ)」が信憑性をおびてゆく構造は、今後の自然災害において、救援・再建活動をかんがえていくうえで、決して看過できないでしょう。

ところが、こんなに面白い内容なのに、意味不明に記述が細かい。
ホント、往生させられてしまうのです。

まともな地図がつけられていないので、まず東京府内の出動状況がわからない。
本人だけが、大正時代の東京地理を分かっていても、仕方ないでしょう。なぜ地図がないのだ。しかも、消防・救護・医療ごとに叙述してあるので、時間軸も錯綜していて、状況が分からない。いや、トピックス内でも、錯綜しているのです。

そのため、他所でどんな救援活動が複合的に展開していたのか、全体像があまり見えてこない。えんえんと、描写が続いていて、その細部が何を意味するのか分かんない。細かいだけに、異様に読むのが辛い。せめて、時間軸に沿って別の整理をおこなった表をつける、索引をつけるなど、するべきではなかったか。

おまけに、震災時の警察署の評価は高い(97頁)と書いておきながら、警察・官僚は威信を失ったという。崩壊した都市の惨状を目にした都市住民。都市部においても、農村と同じように軍の威信が増してゆく。これが、昭和の軍部台頭につながる、という流れが、いかにも唐突に導きだされているのです。みんなが軍服を着ることで連帯意識を示し、出動した軍隊に安心感をもったことが原因らしい。

さすがにこれは、安直すぎやしないか。だいたい、震災以後、都市住民の前には、軍隊より「警察」が前面に現れてくるじゃないですか。こういうのは、デモクラシーの進展(軍隊の社会化)と、それと同時期にすすんでいった、在郷軍人会や青年団、町内会などの社会の組織化(社会の軍隊化)、これら2つの局面のハザマにあらわれた現象のひとつではないの??  デモクラシーの進展とともに、管理の名の下、「政府の介入」もまた「下」からもとめられていく。軍服をきて連帯を示すことは、警察や官僚との力関係ではなく、社会の隅々を政府がとらえていく過程の一つでしょう。ちと、筆が進みすぎのように思えます。

こうした分野には、大日方純夫『警察の社会史』(岩波新書)という良書があります。併せてお勧めしたい所です。

評価 ★★☆
価格: ¥756 (税込)



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Last updated  Aug 25, 2005 01:58:41 AM
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