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書評日記  パペッティア通信

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Jul 13, 2005
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上野公園に広がる、博物館群と桜並木。
それは、近代日本の宿願と「宿命」のシンボルといえるものなのです。
その創設者町田久成と「上野の博物館」の一代記。
なかなかお薦めの書物に仕上がっています。

町田久成は、島津家の遠戚。遣英使節団副使をつとめ、欧米へのキャッチアップにもえる、島津久光の死後、出家するくらいの薩摩藩の重鎮だったらしい。やがて、維新政府に出仕したものの、権力争いにまきこまれ、大学(文部省)の閑職へ異動させられてしまう。ウィーン万国博覧会事務局を仕切り、やがて「博覧会出品物を公開する博物館」をへて、勧業目的とはことなる「集古館」の建設に執念をもやします。

時あたかも、廃仏毀釈、「神仏判然令」が、新政府から出されていたご時世です。地方の仏閣は、つぎつぎと破壊され、大量の文化財が国外に流出していました。一刻の猶予もならない。目をつけたのは、上野寛永寺の広大な跡地と将軍墓苑。かれは、「文化財保護法」「遺失物法」などをつくり、博物館資料の収集につとめ、つぎつぎと課題をクリアしていきます。ところが、大久保利通暗殺後、後ろ盾を失い、あと少しで完成という時に、予算獲得のメドがたたなくなってしまう。そこで内務省の「博覧会会場費」から予算執行したのが運の尽き。あわや、内務省に取られる寸前に!! 町田の博物館の夢は、いったいどうなってしまうのか??

鹿鳴館建設を利用した一発逆転のホームラン。動物園構想との妥協。その栄光の裏で犠牲にされた、文部省の「教育博物館」構想は、やがて「国立科学博物館」へとつながってゆく。こうした詳細な博物館史と、実現までの困難な道程は、たいへん波乱に富んでいて目がはなせない。

そもそも、江戸期、平賀源内に発する、様々な「物産会」「本草会」の伝統。そこから、「大英博物館」を模した「上野博物館」が、その当時、同じようなものと思われていた「博覧会」とも袂をわかって、どのように構想され、出現してくるのか。近代とひそかに連続していた「伝統」の指摘は、なかなか感心させられる仕事です。さらに、殖産工業のための技術博物館などの分化に見られるように、この過程自身、近代日本におけるアカデミズムの制度的形成過程と軌を一にしていているのです。この著作、面白くないはずがありません。

博物館のその後もまた素晴らしい。「天皇大権強化」をはかり、民権運動を牽制したい岩倉具視との妥協は、建設された「博物館」そのものを蝕んで、「帝室博物館」へと変容させてゆく。広大な「御料」地の形成とともに、天皇に献上されることになった、上野の「博物館」。それは、美術史と考古学の分化などに止まらない、博物館の「理念と行政」の変容をさけられないものにしてゆく。

それは、市民的公共性が国家的公共性へと収奪されていく過程、天皇制国家の確立過程と軌を一にしているという点で、たいへん評者には興味深かった。明治初頭、制度的には保証されることはなかったものの、官と対抗する形で、広範に形成されていた市民的公共性の芽生え。それはいつしか、やがて天皇制国家体制の官主導ともいえる「国家的公共性」へと収斂させられてしまう。近代日本の「公共性」の宿命的な変容を許したものは、いったい何だったのか。それを考えると、現在の日本は、はたして「戦前とは違う」と確信をもっていうことができるのであろうか。

今も決してかわっていない、変容を許してしまう構図。
一見軽いようで、この書のつきつける課題は、あんがい途方もなく重い。
ぜひ、ご一読あれ。

評価 ★★★☆
価格: ¥819 (税込)

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Last updated  Aug 27, 2005 07:05:37 PM
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