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書評日記  パペッティア通信

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Jul 19, 2005
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カテゴリ:歴史


こんな本が、新書で可能なんだ、ということに驚いた。

「象徴天皇制」

戦争終結と占領政策に天皇を利用したいルーズベルト大統領のアメリカと、「国体護持」を至上命題とする日本支配層の合作として誕生。

その源流はこれまで、1942年~43年の国務省ラインにおかれてきた。これまでの研究は、とくに戦時下に顕著となる国務省の弱体化と、米外交の多元的政策決定過程を軽視しているのではないか。本書は、近年、機密解除された、国防総省、情報調整局・戦略情報局(OSS、のちのCIA)の調査分析部史料を駆使して、「国民統合」の象徴としての天皇制の起源に肉薄しようとします。

どこが凄いのか。
たんなる「史料紹介」にすぎないのです。
そして、戦略情報局史料を精査した結果、この「起源」とやらは凍結されて、お蔵入りしてしまうのだ。

な~んだ、と思うなかれ。ここからが面白い。
1942年6月、陸軍情報部心理戦争課起案、政府・軍・情報機関共通の心理作戦計画となった≪日本計画≫。それにまつわる、様々な草稿群の存在が、この本では丁寧に追跡されていくのです。同3月の情報調整局の草案と、同5月の英米共同計画アウトライン。≪日本計画≫立案者ソルバート大佐の草稿群。これに、戦略情報局の『日本の戦略的概観』などをはじめとしたさまざまな調査報告書や、『日本人の性格構造』『敵国日本』などの諸研究が、どのように参照され、影響をあたえたかが明らかにされていくのです。そして、プロパガンダ戦略として以下の方針が採用され、戦後の≪民主主義革命の見取り図≫が定められたという。

「天皇を攻撃してはならない」
「プロパガンダのため日本の天皇を平和のシンボルとしての利用すること」
「日本の真の伝統は孤立主義と平和と立憲君主制であって、
 逸脱していることをしめす」
「帝国憲法はナチス型ではないことをいい、ドイツときりはなす」
「天皇は軍事指導者の犠牲になっている」
「アメリカ民衆と日本民衆の友好の存在を想起させる」

≪日本計画≫は、情報機関同士の官僚政治にありがちな、足の引っぱりあいによって潰されるものの、心理戦担当者に基礎的な指針として影響をあたえる。マッカーサーの軍事秘書ボナー・フェラーズ准将も、米国心理戦立案の大立者だったという。他にも、コミンテルン顔負けの階級分析を駆使しての「日本の社会的亀裂」の摘出や、コールグローブやファーズの周辺にたたずむ日本人の面々など、たいへん面白い。

戦略情報局調査分析部。

反ファシズムのヒューマニズムをかかげて、アカデミズム総動員で政策を立案。本書64頁からの、協力者のラインナップの華麗さにはおもわず溜息がもれてしまう。ノイマン、マルクーゼ、ロストウ、レオンチェフ、パーソンズ、スウィージー、フェアバンク…。戦後かれらは、アカデミズムで絶大な影響力を行使していきます。ナチも日本も、ソ連もイギリスも太刀打ちできなかった、実証分析を重んじた組織的な情報戦。そのシンボルといえる事業は、文化人類学を駆使して「国民性」を抽出して、「想像の共同体」の構成員ではない≪他者≫の身でありながら、「国民の象徴=天皇」をイマジンして、「設計の共同体」をたちあげたことでしょう。

「戦後ではない」ことから、改憲をとなえる保守。
「もはや戦前である」として護憲をとなえる革新。
そこに、「戦争はなお続いている」≪情報戦という形で≫
と問題提起をおこなう筆者。

その観点は、まさに「知の権力」という文脈からかんがえると、同意せざるをえない説得力をもっていることが、理解できるでしょう。

「当時の日本人は本当に【天皇は平和のシンボル】と考えていたのか」

この筆者の問いかけは、あまりにも重い。非日本人アカデミズムによって想像された、「皇統」をカギとした日本社会・日本人像。そこからつくり出されたプロパガンダは、ポチ・反米を問わず、保守派の主張(つくる会の教科書内容にまで影響が見られる)の通奏低音に流れこんで、権力知に備給されることで疑いもされずに、反復されてゆくのですから。

米国占領政策研究に本格的に首を突っ込めるはずのないコミンテルン研究者。そのため、叙述は抑制が効いていて、丁寧な先行研究の整理もたいへんありがたい。記述の錯綜、実証と理論の乖離こそ気になるけど、お薦めできる佳作になっているとはいえるでしょう。

夏休みの読書のおともに、ぜひご一読あれ。

評価 ★★★☆
価格: ¥840 (税込)

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Last updated  Nov 7, 2005 11:09:47 PM
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