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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() 「悲観論」と「楽観論」。 極端な2つの議論が錯綜する、中国経済像。 これは、筆者によれば、「水準」(=社会主義体制)と「方向性」(市場経済化)の混同からくるという。筆者のまとめは、重厚で非常に参考になります。おすすめの一冊といえるでしょう。 ポイントは5点。 ● 統計に表れにくい「垂直的産業【内】分業」「工程間分業」 比較優位による分業体制下の日中経済関係。中国の経済発展は、日本に利益をもたらしている。中国の比較優位は、工業製品で人手を必要とする、「最終組立工程」にあるという。安価な製品の流入は、セーフガードの発動は競争力回復が可能なものに限るべき。空洞化は、構造調整を柔軟におこなえない、国内経済システムの問題であるという。 ● 色濃い「社会主義体制」と未成熟な「市場経済」 アジア経済危機で危機管理に大きな威力を発揮した、中国政府のコントロール力。中国が経済危機を回避できたのは、未成熟だったためだ。ところが、「市場経済」化によって、むしろ弱まりつつある。政府のマクロ・コントロールは、財政から金融へと手段が移りつつある中で、厳格な規制下にある、資本取引の自由化がいつになるのか?が課題だという。 ● WTO加盟による、国内経済構造改革における抵抗勢力の打破 「引き締め」「中央集権」「秩序厳格」と「緩和」「地方分権」「秩序寛容」が交互に展開する中国。WTO加盟は、短期的に不利益で、他の途上国を上まわる貿易自由化と市場開放を合意している。それは、非効率部門の抵抗を排除するためらしい。 ● 提携がすすむ四大国有商業銀行と邦銀 四大国有商業銀行は、商業金融のみならず政策金融をにない、三大政策性銀行に政策金融を移したあとでも、計画経済時代の「負の遺産」、国有企業貸出を中心に不良債権化している。国有企業は、社会政策的機能の切り離し、株式会社化、民営化がおこなわれているものの、遅々としてすすんでいない。インターバンク市場の中心、銀行間債券現先市場は、コール市場の5倍の規模をもち、中央国債登記公司の名義書換と口座振替で、受渡・決済がおこなわれている。そこでの公開市場操作は、指値オペ、相対取引、債券流通市場未整備、規制金利のため、金利波及・形成メカニズムが働いていない。そのため現状では、資本取引の自由化の前提となる、市場を通した中央銀行の有効なコントロールがおこなわれていない。また、金融市場の開放は、銀行はともかく、証券はあまりすすんでいない。銀行部門の参入も、信用リスクのみならず、人民元調達、外貨の人民元転換には困難がともない、主要国営商業銀行との提携がおこなわれているという。 ● 不可避の「為替の弾力化」と「セイフティネット構築」 「自由な資金移動」を犠牲にしてまで、「為替相場の安定」「独立した金融政策」を重視する、中国の金融政策。外貨預金は金利自由化され、人民元の金利自由化もすすむ。とはいえ、実需原則と為銀主義によって、対外貸出・証券投資は金融機関以外には禁止、人民元は外貨転換禁止で、1日の為替取引高は、たった3億ドルにすぎない。「自由化」には、先物為替・為替オプションなどの整備が不可欠だが、はやくても2010年だという。人民元切上論は、購買力平価でみると根拠に乏しい。人為的な為替介入は、ファンダメンタルズとは別の、人民元切上論による国内居住者の非合法な投機取引の拡大で余儀なくされたものだ。不動産バブルは、資金の農村誘導と引締政策でしか対応できず、為替弾力化では改善できない。 とくに、あまり知られていない中国金融システムに関する筆者の整理は、コンパクトにまとまっていて、たいへんありがたい。四大商業銀行の存在が大きすぎて、市場経済の深化に不可欠な金融市場は、歪んだままになっている中国。むしろ日本は、こうした歪みを利用した、自由な「人民元先物、中国株」市場を整備することで、アジアの中心的金融市場を維持するべきなのでしょう。長年、香港で金融実務に携わっていた、筆者の見識が光ります。 なにより信じられないのは、2年前の『中国発世界デフレ』の大合唱のときに、この書は反論として書かれたものだということです。類似の駄本が氾濫する中で、あまり修正を必要としない稀有の洞察力には、今さらながら驚かされます。 中国国内で、WTO加盟の期待感が薄れ、人々の間で不安と不満が高まっている中で、はたして最適な対応を中国政府がとれるのか。そもそも「最適な対応」とはなにか。さらには、投機的な資金流入が続く中で、人民元切り上げによって、中国経済は先行きどうなるのか。2年前に出された本である以上、そうしたあらたに登場している課題には、答えてはくれません。とはいえ、日中経済関係を学びたい人にとって、稀有の入門書と言えるのではないでしょうか。 評価 ★★★☆ 価格: ¥777 (税込) 人気ランキング順位 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 25, 2005 01:56:24 AM
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