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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() (承前) ● ラテンアメリカ化(発展途上国の市場経済化失敗)とソ連化(社会主義国の市場経済化失敗)のリスクにさらされる中国 中国版バブル経済問題は、過剰銀行預金による預貸利鞘の縮小から、不動産投資拡大によってひきおこされたものの、政治システムそのものに起因している。地方政府は、出世競争からGDPを引きあげたいため、自ら賄賂や企業経営をおこなっているため、中央に従わない。消費力の弱い中国は、銀行融資と国債による、投資主導型成長にならざるをえない。投資過剰による過剰生産は、企業利潤を直撃して、証券市場低迷から銀行依存が深まっており、銀行の不良債権比率は4割におよんだ。金融と財政は、今後も中国が成長を続けられるのか、最大の不安要因となっている。その半面、軽工業・化学・医薬品・電子・機械において、マイクロソフト、テトラパック、ミシュラン、ノキア、モトローラ、コダック(シェア5割)などにみられるように、外資の市場独占は独占禁止法導入が検討されるほど加速している。工業生産高の3割、輸出入の5割は外資系。中国産業の自主技術開発能力は、欠如していて、中国には全要素生産性の向上がみられない。 ● 民主化の模索 民主化デモこそ起きていないものの、自治意識が高まっている。行政の肥大化と腐敗の温床であった「請負」統治の末端部、居民委員会は機能マヒして、統治能力を失いつつあるためだ。共産党の推薦候補以外の自薦候補が人民代表大会に出現。人民代表の造反による不指名。郷鎮政府のトップを民選する動きや、5万件もの陳情などがまきおこっているものの、共産党が多数派を形成する方法の歪みは消えていない。 8000万ものインターネット人口とメディアの活発な活動は、世論を動かし、権力をおそれない体制内知識人なども登場しているという。中国社会は多元化しつつあり、硬直化した政治がもたらした「改革」の歪みをめぐって、左派(計画経済)と自由主義派(欧米型統治システム)の論争がまきおこっている。ただ、真の解決には、一党独裁放棄と民主化というダブーにふれないわけにはいかない。活発な「草の根」の抗議行動は、体制内民主派など民主化につながるかは、いまだ予断できないという。 これらの要約からみても、この本がどれくらい、中国社会の現実に対して、きびしく正確に分析ているか、みなさんも理解することができるのではないでしょうか。中国の比較優位は、あくまで、最終組立工程における低賃金と錬度の高い労働力にあるだけに、ラテンアメリカ化するのではないかという恐怖は、相当のもののようです。今では、かつての発展をささえた開発独裁は、制度疲労もはげしく、経済発展の足をひっぱりはじめているという。 ただ、いささか残念な点をのべるとすれば、楽観論と悲観論を棚上げにして中国の現実を見極めようとするあまり、中国イメージの分裂がおきる肝心な所が、ややボカされてしまっている感がある部分でしょうか。 「悲観的な材料が多いにもかかわらず、なぜ経済発展が続くのか」 「ひどい政治体制なのに、なぜ政治体制が永続しているのか」 悲観論は、なぜ「今」、中国経済が発展しているのか、なぜ「今」抑圧的な政治体制が永続しているのかを説明できない。だからこそ、その回答は、つねに外在的なものとして語られてしまう。 曰く、外資。 曰く、強権的な公安権力による弾圧と、愛国教育。 そして、いつかは中国の発展がとまり、中国が崩壊するんだ、と呪文のような言説がたれながされ続ける。あらかじめ、いつ、なぜ、どのようにその事象が起きるのかを言わないまま、そんな予測をすることに、いったいなんの意味があるのだろうか。(いつかは発展はとまり、崩壊するに決まってる) ここから見落とされてしまうのは、その一見非合理なことを可能にする原因は、つねに「内在」されており、一見「非合理」なものは、別種の「合理性」をもつものではないか、という視角ではないだろうか。民主化を阻害しているのは、共産党ではなく、中国社会そのものの特質から、生み出されたものではないか? 中国経済の驚異的な発展(楽観材料)を支えているのは、その農村の貧困そのもの(悲観材料)に由来しているのではないか?本書では、2つのイメージを生むものが、分裂した形での言及にとどまってしまい、深くふみこめていないのが、いささか気になる所でした。 とはいえ、現代中国分析には、必見の書であることは確かです。 ぜひ、本棚の片隅においてみてはいかがでしょうか。 評価 ★★★★☆ 価格: ¥819 (税込) 人気ランキング順位 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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