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書評日記  パペッティア通信

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Nov 17, 2005
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カテゴリ:社会


遠くにいきたい。
まだ見ぬ地へ、旅立ってみたい…

さわやかな読了感とともに、こんな気分に浸らせてくれる、素敵な紀行文に出会えることは少ない。そんな、希有の例外の本書。人の世に、なぜ差別があるのか。被差別部落出身者でもある著者は、世界中の差別されし者の食卓をめぐりながら、大地をさまよいます。被差別者の「ソウル・フード」の源をさがす旅は、すばらしい叙情をたたえています。

公民権運動の灼熱の大地、アメリカ南部をさまよう。

チトリングス(豚のモツ煮)、グリッツ(コーン粥)、フライドチキン、ナマズ料理。ザリガニ料理…。骨を気にしないで、おいしく腹持ちよく食べるための技法、「ディープ・フライド・チキン」にソウルフードの根源をみます。ムラで母親が作ってくれた菜っ葉煮そっくりの味、カラードグリーンに感激し、「母の味こそ、最高のソウルフード」であることを確信します。その大地では、KKK(クー・クラックス・クラン)の創設者フォレスト将軍の銅像と、ポリティカリー・ディスクリミネーション(政治的配慮を施した差別)に出会うのです。

カラードの存在によって不可視化された人種差別国家、ブラジルをさまよう。

そこにいる野生動物をデンデ油(パームやし)で調理するしかない、黒人奴隷。日本人移民は、1888年まで奴隷制廃止によって、奴隷労働力の替わりとして受け入れられたという。黒人奴隷のソウルフード、豚の内臓・足・尻尾などを入れた、料理フェジョアーダに舌鼓を打つ筆者。オクラは、黒人料理の素材として、アフリカから世界中に広まったらしい。誰も食べない部位でつくったフェジョアーダは、尻尾や足の希少性ゆえ、今では価格が高騰、貧民は食べられないという。何百年も前、逃亡黒人奴隷たちの作った漁村を訪れ、そこに漂うアフリカ文化の残滓と言語に感じ入る筆者。

ハリネズミのように生きる、流浪の民、ロマ民族をたずねてさまよう。

インドから西へ向かった、ジプシーのハリネズミ料理を食べにいきます。広島・長崎の被差別部落は、原子爆弾投下直後、部落民の集団蜂起を恐れた軍と憲兵に包囲されたという。まさか、イラク戦争後、被差別民ロマ民族は迫害を受けたのではないか? その筆者の予感は、悲しいかな、的中してしまう。フセインの保護を失ったロマ民族は、家と仕事をシーア派住民に奪われてしまったのだ。ゴムを食べているようなハリネズミの触感。美味しくないと、筆者は彼らに言い出せない。その繊細さが心地よい。

ロマと被差別部落のルーツ、インド亜大陸ネパールをさまよう。

不可蝕民を作り出したヒンズー教の思想こそ、「極東カースト問題」被差別部落を作ったという仮説をいだく筆者。1990年、カースト解放令が出たネパールで、差別されるからといって牛肉食を止めることにした、不可蝕民サルキたち。そこで筆者は、無理を言って、牛肉料理をつくってもらい、持参してきた「スキヤキ」と交換する。牛料理の共通法に驚きあう、筆者とネパール人。牛を食べることを禁止するため、見せしめにされた被差別民同士が、牛肉の煮物をつつきあう。その交歓のひとときには、なぜか涙がこぼれてしまう。


纏綿と綴られたさわやかな文章。抑制のきいたその語り口は、部落差別を未だに止めない日本人社会を糾弾するような姿をとってはいない。だから、一見、肩肘張らない、そのさわやかさに、甘い読者は騙されてしまう。しかし、その奥に秘められた、煮えたぎるような怒りは、何と途方もない熱さであろうか。仕事がなくその漁村という「楽園」に戻ってしまう黒人や、日系人女性の何気ない一言に、ブラジルの深刻な人種差別の体感して、傷つく筆者。サルキの夢を哀れみ、ロマの何気ないねだりに激怒してしまう熱さこそ、この本の真骨頂なのだ。繊細な筆者は、周到にそれを隠して見せようとはしない。隠しきれず吹き出してくる、その熱さはエロチックでさえある。

最後、筆者は日本に戻る。部落の食べ物、ふく(牛の内臓)の天ぷら、さいぼし(ビーフジャーキー)の秘伝をたずね、こうごり(肉ようかん)、あぶらかす(腸の輪切りを揚げたもの)をたずね歩く。母親を亡くした彼は、もはや2度とソウルフードを口にすることができない。永遠にたどり着けないものを求めてさまよう…手に入れられないことを知りながら、否、手に入れられないからこそ、かわる何かを求めてさまよい続ける。死をもって終わるしかない、不可能な旅路。それは、なにかしら、「差別のない社会」というユートピアを探す旅とオーバーラップしていて、寂寥感さえ帯びた味わいになっているのです。

熱さと寂寥感が不思議と同居した、ソウルフード紀行。
ぜひ、ご一読あれ。

評価 ★★★☆
価格: ¥714 (税込)


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Last updated  Jan 17, 2006 04:05:55 AM
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