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書評日記  パペッティア通信

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Nov 23, 2005
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カテゴリ:歴史


豪華絢爛の副葬品の存在によって、古代エジプトだけスポットライトがあたる古代オリエント文明。現代社会の原点は、書記や法制度などを完備させ、膠着語を話していた謎の民族、シュメル人にある! 本日、皆様にご紹介するのは、そのシュメル文明の興亡について、粘土板を手がかりにいざなってくれる、すばらしい新書です。悠久とテロの大地イラクに眠る、シュメル文明に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

簡潔にご紹介しておきましょう。

● 都市国家の「真の王」は都市神。王はその代理にすぎない、シュメル
● 紀元前3000年から続くエラム(イラン高原)とのイラン・イラク戦争


洪水の心配から「神」をもとめた、肥沃な大地。紀元前3500年頃から都市文明が成立して、都市国家間戦争がはじまる。紀元前2300年頃、南メソポタミアはアッカド人のサルゴン王(アッカド市の所在は不明)によって統一され、アッカド語が公用語となって、シュメル語はラテン語と同様の「話されない言語」になってしまう。紀元前2000年以降、ウル第三王朝の滅亡とともに、シュメル人は歴史から姿を消す。シュメル文明では、意外にも女王は確認できないらしい。またオリエントで有名な「戦車戦」も、どこまで戦場で使用に耐えられるかは微妙だという。戦車から降りて、徒歩で闘ったかもしれないと思うと、笑みがこぼれる。そんな「王」に求められることは、戦争での勝利と、豊穣な収穫。世界最初の「殉死」も、紀元前2100年頃の遺跡で確認できていて、支配-被支配関係を正当化する道徳の創出という、ある種文明的な営みも見られるという。

● 円筒形印章の発達したハンコ社会、シュメル
● 同害復讐法を採用していなかったシュメル「ウルナンム法典」


シュメル人は、元日が春分の日で、ビールを飲んで、平たいパンを食べていた。肥沃な大地での溜池灌漑農法は、排水をせず水が蒸発してしまうと、水酸化カルシウムによる塩害が深刻になってしまう。そのため、大麦が不作でも、栄養価が高く耐塩性の強い聖樹「なつめやし」を運河・河川沿いの果樹園で栽培して、飢えをしのいでいた。条播機つきの鋤での耕作、羊の放牧には山羊が不可欠である、というのも面白い。またヨーロッパは、品質保証などのため「封蝋」したのに対して、シュメルは「封泥」という手法を用いたため、「ハンコ」社会になったという。またイスラム社会にも影響を与えた同害復讐法は、遊牧民社会の掟であって、紀元前1700年代に成立するハンムラビ法典以降に表れるらしい。戦争捕虜には、遊牧技術を応用した、去勢が待ちかまえていて、債務奴隷など身分制のきつい社会だという。中華思想などもあったらしい。

● 一般的に読み書きができないメソポタミアの王
● 文武両道、新アッシリア帝国アッシュル・バニパル王(前668-627年)
   収集の粘土板コレクションの発掘から始まったアシッリア学


文字の前段階は、記録用の粘土球(トークン)だったらしい。シュメル楔形文字は、今のアルファベットの起源、エジプト聖刻文字から生まれたフェニキア文字に敗れてしまうものの、長らくアッカド語、古代ペルシャ語、ヒッタイト語などの表音文字に転用された。法律・宗教用語としてのシュメル語は、新バビロニア王国時代(前625-539年)まで使われていたという。日本人の研究者も、『説文解字』の六書の理論を楔形文字の分類に応用するなどして、シュメル研究に大いに貢献しているようだ。粘土板は、欧米の博物館を中心に40~50万枚も残され、解読はこれからだという。専門の書記養成学校が存在していて、世界最古の謎々・学園モノ文学・学習ノートが、粘土板として発掘されているというのだから、驚くほかはない。

粘土板から復元されたシュメル社会

そんな感が強いためか、各章が国際関係・文字・はんこ社会…などの各領域に分かれ、時代が前後に錯綜して、いささか読みづらい。その粘土板の紹介には、はたしてどんな意味があるのか? こちらがそれを見失ってしまい、読みすすむにつれて、辛く感じられる部分も多かったのも事実なんですよね。また、時代が時代だけに、通史的俯瞰がしにくいこともあるけれど、「はて?古代オリエントって、どんな歴史だったかな??」については、年表の域を出た説明がなされていないのは、明らかなマイナス。なにせ、シュメル史なのに、アッシュル・バニパル王が出てくるんだし…。それなら、アッシリア社会も知りたいのですけど…。シュメル社会を王朝ごとの断代史にして、触れた方が分かりやすいように思えるのだが、はてさて、いかがなものだろうか。

とはいえ、この本の「シュメルこぼれ話」としての面白さには、まったく影響を与えてはいません。バクダット市内を流れるティグリス川とは、古代ペルシャ語での「ティグラー」(矢)から来ているが、実はこれ、虎(タイガー)の語源らしい。戦時中、「高天原がバビロンにあった」「すめらの尊はシュメルの尊だ」という俗説に対抗するため、「シュメール」とわざわざ伸ばしたらしい。たいへんなご時世だったことに、心より同情してしまう。また、へび嫌いの西欧・ヘブライに対して、シュメルは日本とおなじく、へびを豊穣をもたらすものとして信仰していたらしい。またバビロニア神話に興味のある方には、たいへん参考になるのではないか。ウルクのイナンナ神は、アッカド語でイシュタル神となって、豊穣と性愛、戦争の女神になった。エテメナンキは、シュメル語の「天と地の基礎の家」という意味で、バベルの塔のモデル、ジグラットを指すらしい。シュメルでは、人々は神のために生きるものとされるものの、ミイラを作ったエジプトとは違い、現世利益を追求したという。

「起きるべきほどのことは、すべてシュメルで起きていた」
「シュメル語を読むことはシュメル人に経をあげることだ」


そう語る筆者は、あくまでシュメルを現代になぞらえることをやめない。われわれ全共闘世代の時代が終ろうとしている、だからこそ、とくに全共闘の世代の人に読んでほしい。そう呼びかける物悲しいあとがきは、胸を打つ。

この呼びかけに答えてあげて欲しい、と心よりそう思う。
この厚さ(熱さ?)が嬉しい、
そんな力作になっています。


評価 ★★★☆
価格: ¥987 (税込)

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追伸 

でもなにより驚いたのは、三笠宮崇仁が紹介文を書いていたことでしょう。
まだ生きていたんですね…中公『世界の歴史 第一巻 古代オリエント』読んでましたよ、おいら。





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Last updated  Dec 22, 2005 07:01:14 PM
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