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書評日記  パペッティア通信

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Dec 26, 2005
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(承前 <1><2><3>

ネグリ&ハート『マルチチュード』シリーズも第四弾。
実は、お忘れかもしれませんが、これまで要約だけしかやっていません。
評価は、これまで書いてこなかったのです。

本当は、3回でおわらせて、「めぐりあいマルチチュード」「哀戦士」と洒落こみたかったのですが、要約とレビューをあわせると、半角1万字を越えてしまうからでして…

それで評価なんですが…正直、ぬるい

ネグリ&ハートは、哲学書であって、行動指針ではない、といい、マルチチュード三部作の次回作まで予告されているものの、日本ではあまり言及されていない第三世界の「現状分析」以外、取りたてて見るべきものがあるとは思えない。

まず、「帝国」と旧来の「国民国家」の行使する、<権力>形態の違いがよく分からない。同意と服従を拒否する、特定社会集団を抹殺することができる生権力の担い手は、国民国家であって<帝国>ではない。<帝国>は、アメリカや他の国民国家を介してしか、「生権力」の行使をおこなっていない。であるならば、帝国とアメリカとはいかなる関係にあるのか。マルチチュードを抹殺できない<帝国>とは何なのか。この辺、議論と既述が錯綜しているだけにすぎず、純粋な「帝国」というモデルにおける、<権力>が不分明なままである。柄谷行人に、「グローバル資本主義(帝国)がどれほど深化しても、国家やネーションは消滅しない」と言われるのも、誤読っぽいようにみえて、ゆえないことではない。

また、政治綱領としてはたして魅力的なのか?についても、深刻な疑念を禁じえない。マルチチュードは、人種やジェンダーによって、権力の階層秩序が決定されない、問題にならない世界をめざすのはいい。その階層秩序の存在<そのもの>は、問題視されていないのは、いかがなものだろう。人種、ジェンダーにかわって、別の尺度で階層秩序が形成されるだけでは、ユートピアを喚起する能力に乏しすぎるのではないだろうか。もっとも、必然的に移行するというのであるならば、ディストピアでも構わないのだが。

さらにいえば、<帝国>と<マルチチュード>という概念の設定にも、疑念を拭いきれない。<共>によって、<帝国>と<マルチチュード>の次元が出現するのは、構わない。ならば、自己組織化するマルチチュードこそ、<帝国>のネットワーク秩序をささえているのではないか? このヘーゲル的「反対物の一致」という素朴な疑問に、筆者はどのように答えるのであろう。この潜勢力は、いかなる切断によって、<帝国の崩壊>に移行するのか。その<切断線>の提示がなければ、来るべき<帝国の崩壊>のためにたちあがる<マルチチュード>が存在するとはおもえないのだが。

そもそも、一番深刻な問題点は、国家と帝国では規模の違いからくる民主主義を理解していないと批判しておきながら、世界的レベルの<共>―――オープンソースでもいい―――がまったく伝わってこないことにあるのではないか。「公」「私」の間に出現する、世界的<共>とは何だろう。たとえばその一部、「インターネット」を考えてみよう。それらのインフラを支えるのは、通信会社と電力会社―――巨大資本であることは、言うまでもあるまい。未来の<共>的生産能力、マルチチュードの逆転した歪んだ姿と「金融資本」はとらえられているが、お茶を濁す程度で終わってしまい、「巨大資本」そのものの分析は、まったく疎かにされてしまっている。<帝国>と<マルチチュード>の分割を可能にした、<共>―――それ自体、巨大資本が提供するのだが―――そのものへの対決を抜きにして、<帝国>の崩壊はありえまい。ところが、<帝国>VS<マルチチュード>のハルマゲドンを描きながら、その「抵抗」するべき巨大資本については、遺伝子工学企業などの<共>を利用する側のみしか言及されておらず、<共>を創出する側については目配りが行きとどいていない。ほとんど、ブラックボックス、「消えた媒介」となりはててしまっている。

ということで、ちょっぴり辛辣に採点させていただいた。

とはいえ、小技については、たしかに面白い。
読み応えがあるのは確かなのだ。

左翼の思考になじみたい方、第三世界がいかなる状況に直面しているか知りたい方、などにはお勧めかもしれません。


評価:  ★★★
価格:   上巻  ¥1,323 (税込)
      下巻  ¥1,323 (税込)

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Last updated  Jan 23, 2006 09:20:01 PM
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