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書評日記  パペッティア通信

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Feb 25, 2006
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カテゴリ:歴史
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日本のモンゴル史研究の状況について、ある人は某誌でこう述べていた。

総論 杉山正明 各論 その他研究者

実に言い得て妙。失礼ながら、大笑いさせていただいた覚えがあります。
それくらい、杉山正明氏の一連の著作がブイブイ言わせている世界。そこに、チンギス・カン研究に考古学からアプローチするという、たいへん意欲的な新書が、このたび中公新書から上梓されています。モンゴル、帝国、軍事…このような問題系に興味のある方は、ぜひご覧いただきたい。

本書を簡単に要約しておきましょう。

● 「カン」(国王・部族長)と「ハーン」(唯一無二の君主)はまるで違う
● モンゴル族の古郷は、モンゴル東部・ソ連・中国の国境が接する
   森林と牧草が交錯する地帯


冬場には、-50度にもなる、極寒の地で放牧という生計を立てていたモンゴル族。10世紀後半、気候寒冷化で南下を始める。このときモンゴル族は、契丹勢力に阻まれてしまい、モンゴル高原におけるトルコ系遊牧勢力(突厥やウイグル)の衰退に乗じて、モンゴル西部に進出していったという。このモンゴルの戦国時代を統一したのは、12世紀初頭、「カムク・モンゴル」国を創設した、チンギス・カンの曾祖父にあたる人物。チンギス・カンは、父を失いながらも、あるときは他人に臣下の礼をとり、あるときは金とむすびながら、機転と武勇で、1206年、ウイグル以来のモンゴル高原の統一を達成。クリルタイにおいて、「大(イエケ)モンゴル国(ウルス)」の初代君主に推戴される。チンギス「ハン」のハーン(カガン:可汗)は、4世紀末後半に出現した呼び名(鮮卑まで遡るかも知れないという)であるが、チンギス・カンの死後、尊称として付けられたものらしい。

● 西域侵攻しないと繁栄できないよう配慮された、子供達への所領地の分配
● 草原に出現した巨大な鉄製武器工場


チンギス・カンは、統治にも冴えをみせているという。「千戸制」は、遊牧民の氏族・部族集団を解体して、有効な軍事組織に再編させるものであった。また弟たちには、東部の牧草地をあたえ、息子ジョチ・チャガタイ・ウゲデイ(オゴタイ)たちには、西部のシルクロードの幹線道に沿って新領地をあたえたという。また、軍事的優越を手にするため、鉄鉱山の支配をとりわけ重視した。騎馬集団における1ヶ月の旅程、ほぼ600キロごとに、巨大な兵站集積基地を建設。かの有名な「交易使節団惨殺事件」をきっかけにして始まったチンギス・カンのホラズム遠征も、準備万端の上で開戦していたという。モンゴル高原のアウラガでは、1300キロも南にある山東省の鉄山で採取された鉄を「延べ棒」にしてわざわざ運びこみ、武器を作っていたことが分かる、武器製造所遺跡が発掘されているというから驚きではないか。

● 即位後も、遊牧民と同様、移動生活をおくり、羊肉を茹でた汁に、米・うどん・
   野菜を入れ、岩塩で味付けたものを食べたと推測されるチンギス・カン
● モンゴル帝国に大きな禍根を残すことになった、チンギス・カンの息子、
   トルイとウゲテイの継承者争い
   


遊牧民は、夏は風通しの良い水場付近、冬は風の弱い山の中腹で薪や建材がえられる森林のソバに暮らす生活をおくる。チンギスの直轄遊牧地は、夏営地と冬営地の距離だけで、現代の平均的移動距離の8倍にあたる200キロに及んでいた。その広さは、岩手県よりも広い。チンギス・カンの宮廷「大オルド」は、後宮兼生産基地であって、かれの后たちも、織物・手工業・農業の管理に従事していたという。そのチンギス・カン時代の宮廷は、17m四方のテントという、意外にもたいへん質素な宮廷であった。落馬によって死んだチンギス・カンの墓所は今も不明であるが、それは棺の他には埋葬品も乏しく、また牧草地を掘り返すことを好まない、遊牧民の埋葬習慣によるものらしい。

● チンギス・カン崇拝と神格化は、正統性が揺らいだフビライ時代から開始
● チンギス・カンの子孫でないと国家の君主になれない「チンギス統原理」
   が支配したモンゴル高原
● 大清帝国は、「大モンゴル国」の正統後継者


2代目ウゲテイは、父をこえるべく、「ハーン」位につき、金国打倒を果たした。また、モンゴル東部から、古来から遊牧王朝の中心地で末子トルイの領地だった、オルホン河畔にあるカラコルムに、帝国の本拠地を置いた。カラコルムは、中国風都市、イスラム風離宮などが建ち並ぶ壮麗な都市であったという。トルイの孫、モンケとフビライ(第五代君主)は、ウゲテイ家からハーン位を奪還、大元皇帝位とともに「大モンゴル国」宗主に就任するものの、元々ウゲテイ家が正嫡とされていたため、ウゲテイの孫ハイドゥの叛乱、フビライ弟アリク・ブケの叛乱など、正統性の確保に非常に苦しむことになった。第14代君主トゴン・テムルの時、元の中国支配は終わる(1368年)ものの、モンゴル高原を引き続き支配する(北元)。第16代君主トグス・テムルのとき、アリク・ブケ家の子孫に殺され、北元は滅亡(1388年)したものの、フビライ家の王統が途絶えただけにすぎず、引き続きチンギス・カンの「黄金の血統」を引き継ぐものが支配し続けたという。元朝から伝わる「伝国の玉璽」は、満州族ホンタイジに引き渡された。清朝は、モンゴル東部からオルドスに移った、チンギス・カンの霊廟、「エジン・ホロー」を保護していたという。日中戦争期には、国民党・日本軍・共産党が、「エジン・ホロー」の奪いあいをしたというから面白い。

なによりも、考古学、文化人類学の知見にもとづき、遊牧民の生活がよく分かる概説書になっているのがすばらしい。モンゴル族にとっては、目を閉じない魚は、自分たちの様子を観察するために派遣された「神の使い」として捉えられていたらしい。また馬乳酒は、たいへん栄養価が高く、度数も低いので、子供に呑ませるだけではなく、夏場には馬乳酒だけ何リットルもの飲んで暮らす人もいるという。契丹や金も、「万里の長城」を築城していたこと。古代鮮卑族からモンゴルまで続く風習の一つに「伸展葬」(体を伸ばして埋葬)というものがあるという。西域の風習が「屈葬」であることと考えあわせると、日本の埋葬風習の由来などが窺えてたいへん興味深い。ハーンの住まいが、ゲルから、恒常的テント、石造りの建物への移行していく様は、モンゴル族の頽廃を表しているかのようで、なにやらちょっぴり悲しかった。他にも、「陶器の破片」「骨」や花粉の分析、万安宮の発掘、史料で最初に確認できるチンギス・カンの事績、「ウルジャ川の戦い」の戦勝記念碑の発掘…途方もない考古学努力の数々には驚く他はありません。

社会主義時代は、チンギス・カンは略奪者・破壊者扱いされ、チンギス・カン研究者は、次々と「反革命」「日本のスパイ」の罪名で粛正されていたという。近年、社会主義体制の崩壊によって制約がゆるみ、チンギス・カンが英雄として復権するとともに、モンゴル高原の本格的な遺跡調査は、今まさに開始されているのだそうです。やっと本格的に始まった、チンギス・カン研究。その<ルネサンス>に貢献する筆者の精力的な仕事ぶりには、感嘆させられてしまうことでしょう。

やや不満をいえば、もう少し筆者による、考古学の知見を用いた、「新しいモンゴル帝国像」があれば良かったかな、と思わないこともない。全体の見通しが悪く、それでモンゴル帝国って何?という不満もあるのですが、まあ調査が始まったばかりということなのでしょう。筆者によれば、チンギス・カンの墓所発見も間近、ということですし、見逃すことはできません。一読すべき概説書になっているといえるでしょう。

お試しあれ。

評価 ★★★☆
価格: ¥798 (税込)


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追伸 ジノン・イルテリシュのジノンって、フビライの名代としてモンゴル高原に
    派遣された「晋王(ジンオン)」の転訛らしい。  
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Last updated  Apr 10, 2006 02:16:26 AM
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