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テーマ:社会関係の書籍のレビュー(95)
カテゴリ:社会
![]() 海峡をはさんでにらみ合う、台湾と中国。 現代台湾ハンドブックとしては、たいへん面白い書物が刊行されています。本日、ご紹介するのは、台湾在住の民進党シンパのフリージャーナリストによる、「下」からの民主化、市民の現場からの、民進党政権下の台湾の変貌の報告書です。これがかなり面白い。 台湾化が進む、台湾。 その主役、民主進歩党(命名者、謝長廷)。李登輝「上からの民主化」が民主主義として定着できたのは、民進党の台頭に代表される、反原発・環境・女性の人権・弱者の福祉・情報公開など、進歩的な社会運動・市民社会が支えているためだという。若くて活気があり自由で、オープンでまとまりがなく、人脈と理念で派閥があって…。台湾原住民の主流だった平埔族は、母系社会の影響でフェミニズムが強く、これに環境・人権をくわえた運動は、日本よりずっと活発というから驚くではないか。半面、意外と学生運動と労働運動が弱い。当初台湾独立は、国民党独裁政権との対決、台湾民衆に立脚する政治体制をつくろうとする民主的正統性の問題であったため、「独立して中華人民共和国と友好関係を」という主張すらあったらしい。90年代、台湾民主化の過程で、台湾独立が「一つの中国」を拒否する運動へ変容していったという指摘は、蒙をとかれる思いがする。すでに台湾は独立しているとして漸進的な「台湾本土派」(民進党主流派+国民党本土派)と、名実ともなった独立国家を作ろうとする急進的な「台湾制憲建国論」を唱える人びと=「台湾独立派」の潮流があるらしい。 このような民進党の誕生には、1970年代、国民党「党外」勢力が台頭して、1979年、人権保障要求デモをきっかけに起きた、「美麗島事件」が大きな役割を果たしている。民主化要求の高まりから、1986年、民主進歩党が結成され議会進出をおこなうものの、終身議員が多かった当時、民意に比べ議席占有率が低かった。そのため、シャンシャン国会を防ぐために、台湾名物「乱闘国会」が生まれ、「街頭抗議デモ」に走らざるをえなかったらしい。94年陳水扁台北市長誕生の頃から、「南北に厚い支持基盤をもつ国民党VS都市浮動票の民進党」の図式から、「北部=外省人=国民党VS南部=台湾人=民進党」という、「族群投票」の流れが開始される。一進一退を続けながら3~4割の得票率をもっていた民進党は、97年の地方選で国民党を逆転。00年の総統選挙では、無所属・外省人・保守派の宋楚兪と国民党連戦の一騎打ちで勝ち目がない、と思われていた所、両陣営の批判合戦の泥仕合と中国の威嚇で、クリーン陳水扁が相対的に浮上。ここに、政権交替は実現したという。 ただ、少数与党である民進党の改革は、なかなかうまく進んでいない。民進党政権の長所としては、自由、オープン、参加民主主義があげられるものの、短所はやはり外交オンチ、人心掌握ベタにあるようだ。2001年、李登輝の台湾団結連盟が結成して、側面掩護がおこなわれた。民進党とともに台湾団結連盟は、緑色陣営を形成しているが、そもそも支持基盤・思想がまるで違い(中道右派)、総統選挙以外では野党に等しいという。ただ、03年にはSARS騒動で中国の横車を受けたため、反中国・台湾主権意識が高まり、「正名運動」「(06年)台湾新憲法制定」発言が飛び出すものの、後者の新憲法制定は04年立法委員選挙での過半数獲得で失敗してしまった。とはいえ、五院制を三権分立、環境など左派要素の多い改憲潮流で、この辺、日本の改憲の流れとはまったく違うらしい。また国民党(青色陣営)といえども統一志向ではない。若手を中心に世代交代と脱中国化を求める若手台湾土着派が台頭。台湾には、韓国を民主化の同志として共鳴するものが多い。ポスト陳水扁は、民進党なら謝長廷・蘇貞昌、国民党は馬英九・王金平らしい。 なによりも、04年3月、陳水扁の総統再選は、「狙撃事件の同情票」という臆見をキッパリと否定しているのが斬新であった。票読みで定評の民進党直前調査よりも、実は票を減らしているのだという。選挙直後の「当選無効」「選挙無効」騒動での暴力行為で、国民・親民党連合は大きく支持を失ったらしい。また中国は、台湾の併合根拠として両岸の文化的共通性を掲げているものの、福建省南方方言を話すホーロー人(人口の7割)や客家(人口の15%)は、文化的に平地先住民の影響が強く中国語とはいえないという。台湾人にとって中台統一は、「貧しいから嫌だ」から「同じ豊かなら民主主義の方が良い」に変わっている。以前とは違い、中国に独自の魅力がまったくない。また「一つの中国」論は、アメリカ発案で、これによって中国を親米につなぎ止める一方、中台の緊張を高めて台湾に武器を売りつけ親米国家にできる、一石二鳥の策なのだという。完全に意表を突かれた。著者に深く感謝したい。 ただ、理論的なツメが甘いのが難点かもしれない。台湾環境運動は、参加民主主義志向と生態主義志向に分けられるという…分けられるのか、それ? 国民党の実態は、地方派閥連合体であるという指摘も、自民党とどう違うのかすら判然としない。一番理解に困るのは、台湾人は政党支持を変えやすいのか(05年地方選挙)、変えにくいのか(04年総統選挙)、筆者ですら一致していない点かも知れない。てか、流動性が高いのか低いのかは、台湾の政党支持が構造化しているかどうかという、大問題のはずなんだけど、矛盾していて平気らしい。これには、本当に参ってしまった。また、日本のメディアの台湾理解の浅さを嘆くのは構わないが、いささか度が過ぎたケチのつけまくりがあいつぎ、何が何だかというのも多い。馬英九はハンサムじゃないことまでケチをつけられても、それがどうしたというのだろう。「長期的戦略をたてることを嫌う」「忘れやすい」…民族性の列挙は、ほどほどにしておいて欲しい。 そんな様々な問題点はあるが、一読すべき著作であることは疑いがない。 ぜひ、お買い求め、否、お借り求めいただいて、台湾理解を深めてほしい。 台湾の明日は、日本の明日かもしれないのだから。 評価 ★★★☆ 価格: ¥714 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Apr 25, 2006 04:09:38 AM
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