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書評日記  パペッティア通信

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Mar 28, 2006
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世界は、こんなにも、陰謀で覆われていたのか…
一読後、深くため息をついた人も多いのではないか。

平凡社新書から、「秘密結社の世界史」と銘打った本が出版されている。朝日朝刊広告では、さっそく「忽ち重版」となっているから、人気を博しているのだろう。簡単にまとめて紹介しておきたい。

本書によれば、秘密結社は、古代からあるものの、ルネサンス、18~19世紀の激動の時代に盛んに結成されているらしい。宗教的、政治的、犯罪的。様々に分類されているが、過去の遺物となることなく、今では盛大に復活しつつあるというのだ。法や慣習の危機の時代、秘密結社は復活を遂げる。

本書によれば、現代のカルト宗教のようなものは、すでに古代の秘密結社オルフェウス教あたりから現れているらしい。富裕な人々のための、現世ご利益・来世の救済を願う、秘密結社。近代的秘密結社の先駆けは、アサシン(イスラム暗殺教団)とされる。アサシンは、政治的武器としてのテロを計画的・組織的・長期的におこない、信義と自己犠牲を可能にするイデオロギーがあった点で、類例のない組織であるという。中世ヨーロッパは、マニ教の影響を受けたカタリ派キリスト教の出現を除けば、秘密結社が少ない時代だった。ただ、テンプル騎士団は、頭目を殺しても組織が崩壊しない点で、かの「アサシン」さえ恐れる秘密結社だったらしい。武士と僧侶を兼ねた修道会、テンプル騎士団は、巡礼保護のために銀行業務を兼営し、莫大な寄進をうけ、絶大な財力を誇ったものの、14世紀初頭、フランス王フィリップ4世によって壊滅させられてしまう。

ルネサンス期、地域共同体をこえて、地縁血縁を超えた友愛団。もう一つは、同業組合という結合が生まれてくる。同業組合から出発してオープンに開かれていったのが、近代的秘密結社フリーメーソンであるという。とはいえ、古代・カタリ派・テンプル騎士団の系譜が流れこみ、後のフリーメーソンへの道筋をつけた鍵となる秘密結社は、16~17世紀の「薔薇十字団」であるらしい。彼らは、秘密結社の存在を印刷技術で宣伝。今のインターネット的な、「幻影」としての秘密結社の先駆けであり、またフリーメーソンからロイヤル・ソサイエティにまで影響を与えているという。しかし、本書のキモは、やはりご存じ、フリーメーソン。アメリカ建国の際、全国組織を持っていたことから、非常に大きな影響を与えたらしい。また、フランス革命時、ルイ16世処刑に賛成した王族、オルレアン公フィリップは、メーソンの大棟梁であったという。他にも、ユダヤ人とフリーメーソンの陰謀説は、19世紀末に出現して、ナチスに受け継がれていくという。

19世紀は「イルミナティ(啓明結社)、薔薇十字の復活、アメリカ」の世紀として描かれる。18世紀末出現して短命に終わったイルミナティは、1920年代、ネスタ・H・ウェブスターによって、フランス革命からロシア革命の裏で、世界転覆を図る一大陰謀組織として(書物の上で?)蘇らされた。ユダヤ人=イルミナティ=フリーメーソンの図式を初めて提出したのは、彼女だという。また、西洋科学の思潮に反発して、オカルティズム・魔術に近づく人々が現れ、それにともない、薔薇十字が復活する。「黄金の夜明け」のメイザーズは、カバラ・錬金術・タロット・占星術・薔薇十字伝説を総合し、それを引き継ぐような形でブラヴァツキー夫人は「神智学協会」を設立してゆく。一方新大陸では、中産階級プロテスタントの男性を中心に、成長過程での通過儀礼として、友愛結社の秘密儀礼を用いることが盛んだったらしい。そのため、アメリカでは、秘密結社が網の目のように張りめぐらされ、友愛運動の結社には男子人口の1/4が加入していたという。

20世紀は、秘密結社復活の世紀である。なんといっても、1872年、ネイサン・フォレスト将軍を頂点に抱き、テロの疑いで解散命令を出されたKKK(クー・クラックス・クラン)が、グリフィスの映画『国民の創生』によって、「黒人を操り南部を攻撃する北部」から守るためと称して、劇的な復活を遂げてしまうのだ。19世紀末、神智学はドイツ・フェルキッシュ運動と結びつき、独特のオカルト結社を生み、ヒトラーの周囲には「新テンプル騎士団」を初めオカルト関係者がたむろしていたらしい。しかも、今もその流れは存在して、「アトランティス」だの「UFO」だのを秘儀に取り入れているのだという。現在、大流行なのは、「三百人委員会」による「新世界秩序」の陰謀、ウェブスター嫡流の「イルミナティ」。筆者によれば、メーソンやユダヤ人は攻撃するには具合が悪いので、攻撃しやすい空想的な敵として、イルミナティがもて囃されているんだそうな。真顔で、イルミナティは宇宙からやってきたエイリアンと主張する人たち…ここまでくるとさすがにさっぱり分からない。こんな話ばかりでは困るとでも思ったのだろう。最後は、ケリー&ブッシュの大統領選で有名になったスカル・アンド・ボーンと、カルト教団、テロリスト、マフィア、中国の秘密結社などを一通りとりあげてるとともに、「社会のカルト化」「カルトの企業化」に警鐘を鳴らし、秘密結社ブームとは「社会が透明化される一方で、肥大化する不透明さによるパラノイア」と断じられて、本書は締めくくられている。

やはりというか、秘密結社とは、基本的に男性のモノ、農耕民族のモノ、であるらしい。秘密結社は、カタリ派しかり、「秘密」と「秘密ゆえの階層制」を軸にして成立していることを改めて痛感させられた。一応総ざらいというだけあって、片っ端から秘密結社の解説書になっていて、あまり深く考えずにさらさらと読んでいくなら、かなり楽しめるのではないか。死海文書とクムラン教団。医学革命のパラケルスス。古代の密教的な知の集大成、グノーシス派キリスト教は、現世を悪・禁欲をとなえ、イエスを否定したという。ダンテ「神曲」は、グノーシス派・東方キリスト教・カタリ派など様々な秘教的要素を総合してキリスト教化したものらしい。1470年代、イタリアで誕生した私的アカデミーが、公的機関に転化していく過程で、裏アカデミーが秘密結社になっていったのではないか、という仮説の提示など、因果関係はともかくとして、前後関係については面白かった。『ダ・ヴィンチ・コード』についても丁寧な解説がある。

ただ、ひとつひとつ、本書を丁寧に理解していこうとすると、雑すぎてとても耐えられない本であることも、残念ながら確かなんですね。なによりも、結局、秘密結社が何なのか、さっぱり分らないというのが、本書最大の難点ではないだろうか。当たり前であるが、「秘密があります」と叫んでおけば、それはもはや秘密結社なのである。秘密結社が結局何なのか、秘密結社を単純に並べただけでわかるはずもない。社会儀礼・成人儀礼程度・クラブ・サークルから、カルト宗教・テロリストにいたるまで、筆者によれば「秘密結社」なんだそうだ。それではあえて、秘密結社が「秘密結社」を歴史において名のっていた意味(それは、普通のクラブやサークルが名のらない意味と表裏の関係にある)なんて、一体どこにあったんだろう。気をてらうあまり、歴史的に有名な「秘密結社」を社会に即して理解するという、もっとも単純かつ根気の必要な作業が、本書ではまったく見られない。

さらに、『トンでも本の世界』に出てくるような本と、一応真面目に研究してそうな本が並列して扱われ、何の留保もつけられていないのが多い。結局、その記述、信じるべきなのかどうかすら、読者はよく分からないのだ。何とかしてほしい。『トンでも本』を読んでいないと、信じかねないんで、非常に困るんですけど。

まあ、陰謀論総まくり、という感じになっているので、現代の陰謀論を知りたい人にはお勧めしたい。しかし、秘密結社を知ろうとする人は、読まない方がいいかもしれない。

評価 ★★☆
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Last updated  Jun 1, 2006 08:20:30 PM
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