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テーマ:お勧めの本(7501)
カテゴリ:サブカル・小説・映画
![]() ▼ 大ファンなのにレビューを書くのが辛い作家、というのは、確かに実在するらしい。かなり前に出版されたのに、なかなか踏ん切りがつかない。そんな作家・漫画家は、みなさんの心の中にもいるでしょう。茅田砂湖先生の作品というのが、不肖、私にはそれにあたる。 ▼ なによりも、私はファンタジーを読んでいない。『ゲド戦記』も『指輪物語』も読んでいない。『スレイヤーズ』すら読んでいない。読んだものといえば『アルスラーン戦記』『風の大陸』ぐらいしか思い浮かばない。「剣と魔法」のお約束は、まったく分らない。 ▼ これが、ミステリーのように肥大化しすぎて、そもそも全体が「読める訳がない」ジャンルのファンならば、蛮勇をふるって感想のひとつでも書けるかもしれない。ところが、こちらは辛うじて読めるジャンルである、SFファン出身だからたまらない。つい最近まで、ジャンルSFの分野は、読破冊数の多寡で発言力が決まってしまう、なかなかハードな体育会系のノリがファンを覆っていた。大森望が「バカSF」論をいいだす前の話である。皆さんは、想像がつかないかもしれないが、つい20年前までは「ファンタジーはSFの属領」「SFのFはファンタジーのF」といわれていたものだ。怖い先輩達は、ファンタジーも読んでいる。読まないもの語るべからず。こんな雰囲気で、ファンタジーなんぞ、読んでいられるかい。小生、ダルコ・スーヴィンの「ファンタジーはSFの堕落」に賛成する訳ではないのだが、「堕落していない」SFばかり読んでいたものだ。いや~、モフィット、ウォマック、カンデル、チェリイ……ハヤカワSFはツマランかったなあ。面白さが分らないのは、俺がバカだからだと思いこまされていたよ……青春を返せ!金を返せ! ▼ …………いかん、話を戻そう。そう、だから他の作品との比較なんてできない。SFファンの私は、それだけで狂乱状態になってしまう。紹介していいのか、と。けれど、茅田砂湖『デルフィニア戦記』全18巻のシリーズだけは、蛮勇をふるってお勧めしたい。ちょっと例のないお話なのである。 ▼ 女の子の薦めもあって読み始めたのだが、これが無茶苦茶面白い。あっというまに引きこまれ、全冊読み終えてしまうほどの面白さだった。あれから何年もたち、久しぶりの『外伝』の登場という。 ▼ 「本編」の衝撃は、今でも忘れられない。中世ヨーロッパ的な雰囲気を残す世界。デルフィニア王国の王座を追われた青年に、異世界からやってきた超人的能力をもつ美少女(ただし異世界では男だった)が、王座をとりかえしてやるばかりか、世界全土を平定して、美少女は異世界にかえってゆく。この美少女というのが、もう例をみない程、凄まじい。なんというか、ヘタすればラブ・ロマンスどころか、ほとんど噴飯モノのホラ話のような豪快な作品だった。どこまで話が広がるのか見当がつかないまま、どんどん膨れあがった本編。読み終えたとき、騙されたような気がしないではなかったことを告白せねばなるまい。 ▼ かの西洋音楽の大作曲家ブルックナーは、ワーグナーのオペラを見て呟いたという。 「なんで女が焼かれなければならないんだ?」と。 ▼ まったく逆なのが、『デルフィニア戦記』といえば、お分りだろうか。そこには、「断念」と引き換えの「救済」のカタルシスがまるで存在しない。デルフィニア戦記は何一つ「断念」されることなく、カタルシスもなく、主人公たちはどんな危機もすりぬけて救済されてしまう。めでたい、めでたい。みんな笑顔で手をふって別れ、大団円で終わってしまうのだ。「こんなのありかよ…」。これほどの大シリーズで、どんどん暴走した挙句、この終わり方は、スキャンダルに近い。話題にならなかったのが不思議だが、ただのハッピーエンドと好意的に捉えられているようだ。 ▼ 外伝は、良くできていることは間違いない。デルフィニア本編の前史。本編で大活躍のバルロとナシアスの友情の発端が丁寧に描かれていて楽しい。王室の親戚にあたるバルロの不潔さ【笑】とナシアスの潔癖さの対比、バルロとナシアスの入り組んだ「依存」の関係が丁寧に描かれていて、ファンから見れば垂涎の作品になっているのです。 ▼ 『スカーレット・ウィザード』全5巻(中央公論新社 C・NOVELSファンタジア )もそうだったが、この人は強い女性を主人公にした作品の印象がことの他強い。『デルフィニア』の王女グリンダしかり、『ウィザード』のジャスミンしかり。むろん、男性だって女性に劣らぬほど強いのだが、あまりにも女性が強烈な輝きをはなち、周囲を衛星に変えてしまう。どうしても、男性は脇役に甘んじてしまうしかない。彼女の小説に多くの女性ファンがつくのは、そのためでしょう。ただ、そうなると男女差が作品世界から消えてしまう。茅田の世界は、目移りしてしまうほど美男美女揃いでヨリドリミドリなのに、性的には驚くほどモノトーンだ。我々が普通イメージする、ラブ・ロマンスなど、ほとんど見られない。茅田砂湖のテーマとは、性差のない世界にあって男女は何に惹かれるのか、ではないだろうか。むろん、これはなかなかの難問。ジャスミンとケリーの関係の描き方にも通底する、「あの男の望む自分でいたい」という結びつき方は、一つの回答として読むとたいへん興味深い。ある種「やおい」的感性を感じないこともないのだが。 ▼ どうしても女性ファンが多い本書。ぜひ男性の方も手にとってみてはいかがでしょうか。 (忙しく更新が滞りがちなのに応援してくださる方に感謝しています。ありがとうございます) 評価 ★★★☆(シリーズ全体評価 『スカーレット・ウィザード』は★★★★) 価格: ¥945 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 15, 2006 06:51:17 PM
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