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書評日記  パペッティア通信

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May 31, 2006
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カテゴリ:歴史
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▼ ご存知、中公新書の看板、『物語○○の歴史』シリーズの最新刊。今回の旅は、はるか歴史の彼方に消えさりながら、近年力強く復活した「中欧」、それもチェコへと足を踏み入れています。このシリーズは、記憶が確かなら、藤沢道郎『物語イタリアの歴史』から始まったはずだが、全体としては、玉石混交というイメージがありますね。どちらかといえば、文学関係者にやらせた方が、面白くなる傾向が無きにしもあらず、という印象を受けないではない。

▼ とはいえ、それはどうやら杞憂に終わったようです。内容は10章立て。中世と現代では、必ずしも連続していない、チェコというネーションの歴史をまとめるという難しい作業が、丹念におこなわれていて面白い。これをお読みの皆様のためにも、簡単にまとめておきたい。

▼ 第1章と第2章は、チェコの起源にスポットライトをあてています。第1章はモンゴル系遊牧民・アヴァール人支配下から独立した、スラブ系キリスト教国の中世モラヴィア王国のお話。モラヴィア王国は、自前の司教区として独立した教会をもちたいという念願を抱き、複雑な国際関係のアヤが絡んで、ビザンツ帝国に使節を派遣することになった。この動きが、めぐりめぐって、チェコ領内では断絶するものの(カトリック)、スラブ語典礼を生み、やがて現代につながる「スラブ語による典礼をおこなう教会」「キリル文字」の成立と普及の直接の端緒になったらしい。第2章は、中世チェコ王国の礎を築いた聖女アネシュカの話。王女の身でありながら、神聖ローマ帝国皇帝、シュタウフェン家との政略結婚を拒否。聖女アネシュカは、13世紀に盛んにおこなわれた、「清貧」を説くドメニク会・フランチェスコ会などの托鉢修道会運動に挺身する反面、教皇権・皇帝権のハザマの中で、出身一族プシェミスル家のために巧みにとりもってゆくという。

▼ 全盛期中世チェコ王国は、濃密に描かれていて心地よい。第3章は、ルクセンブルク家カレル4世の、チェコ王・ドイツ王・神聖ローマ帝国皇帝の物語。カレル四世は、これ以上のドイツの混乱を避けるため、諸侯分立の現状を追認する金印勅書を発布した。それだけはなくカレル四世は、現在のチェコ共和国を中心としてシレジアまで含んだ諸邦に、王個人ではなく「聖ヴァ-ツラフの王冠」と呼ぶ王冠に忠誠を誓わせることによって、フランスやハンガリーと同様に王国の取りまとめに成功したらしい。その「チェコ王冠諸邦」と新帝国の中核が、プラハ。第4章は、そのプラハ大学を中心とした、「異端」説教師ヤン・フスたちの教会改革運動が取りあげられる。教皇の大空位時代、堕落した教会への不満は、神学者ジョン・ウィクリフの影響を受けて、最高の規範=聖書を根拠としての、教会・聖職者批判を巻きおこした。ローマ教会を否定まではしないフスの処刑。それは、教会・聖職者に不道徳がはびこる場合、世俗権力が悪を追放する様にもとめていたフス派(のちのプロテスタントと共通)の憤激を買い、「フス派戦争」をおこしたという。フス派は、三十年戦争で撲滅されるまでカトリックと共存したものの、やがて忘れ去られる。近代に入ると、フスはチェコ民族精神の誇り・栄光として語られ、1999年にはカトリック教会が名誉回復までおこなうと言うのだから、驚く他はない。

▼ 近代のチェコには、多くのページがさかれています。第5章では、このフス戦争からハプスブルク期にかけて進んだ、居城を構え君臨する大貴族から、国王の宮廷に軍人として仕える地位へ転落した、モラヴィア貴族の一族史が語られています。また第6章では、フス派に近い出版業者メラントリフの活躍を通して、聖職者の独占から解き放たれ、ラテン語の読み書き、書籍を通じた知識・技能・教養がもとめられた、16世紀プラハの文化が描写され、たいへん興味深い。第7章では、チェコの「再カトリック化」の進行過程の検証。三十年戦争の発端地チェコでは、ハプスブルクの皇帝権とカトリック教会による絶対主義体制が築かれたという。だが、反宗教改革をめぐるイエズス会と既存修道会の主導権争いは、プラハ大学移管問題では、大学吸収を画策したイエズス会と「大学の自治」を守ろうとする大司教勢力の争い、として現れた。その過程で出現したカトリック派知識人たちは、チェコの文化・歴史・言語への愛着を深めてゆく。このように、「郷土愛」「郷土色豊かなカトリック」を通して、緩やかにカトリック化が推し進められていった様子は、改宗の暴力性を否定するだけでなく、受容側が普遍(カトリック)にいかなる役割を割り当てるかにもつながっていて、まことに興味深い。

▼ 第8章は、生誕二五〇周年を意識したのか、モーツアルトのご登場! チェコとモーツアルトの、5年に満たない邂逅が描かれていて面白い。「啓蒙絶対主義」の下、社会の世俗化と強力な国家統合が推し進められたハプスブルク帝国。帝国政府による中央集権化に抵抗する形で、各領邦において「国おこし」「愛郷主義」の運動がもたげる。帝国の一地方都市へと転落したプラハでは、『フィガロの結婚』が空前の大ブームになり、モーツアルトを呼び寄せ、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』の初演も行なわれたという。モーツアルトとプラハの幸福な出会いは、必見であろう。第9章では、内国産業博覧会をめぐる政治が、民族的自覚を強めつつあったスラブ系チェコ住民と、ドイツ系住民と対立を深めさせてゆく過程が描かれています。「レオポルト2世チェコ王戴冠一〇〇周年」記念する博覧会は、最終的にドイツ系資本家がボイコット。その博覧会は、気球・噴水・世界各国の飲食店といった遊園地スペクタクルを人びと提供しただけではない。経済・技術の分野でも、チェコ人が他民族に劣らない存在であるか誇示する場を超え、他のスラブ民族の民族意識を高揚させるイベントになったという。

▼ 第10章は、かつてチェコに存在した、スロバキア人とドイツ人、ユダヤ人についての、あまり触れられたくない物語になっています。スロバキアは、「聖イシュトヴァーンの王冠」に忠誠を誓った、ハンガリー支配地域でした。彼らは、ハンガリー王国北方のスラブ人であって、チェコ人とは言語の違いもほとんどないという。第一次大戦後、「スロバキア語」を話す民として目覚めた彼らは、チェコ人とともに独立。ただ「チェコスロバキア人」とは名ばかりのチェコ人優位には、不満を抱かざるをえない。ナチス・ドイツの影響下での歴史上初めての独立国家、ならびにナチへのレジスタンスの経験は、スロバキア民族意識を高揚させ、「プラハの春」直後には連邦共和国制移行(1968)、やがて社会主義政権崩壊後における、現在の「チェコ」「スロバキア」の分離(1991)につながったという。またチェコ領内のユダヤ人の物語も、とても面白い。東欧は、西欧よりユダヤ人迫害は少なく、ユダヤ人を財産として国王保護下におき隔離する政策が採られていたものの、近世以降、ユダヤ人迫害は頻発した。啓蒙主義の影響下、職業・移住の自由がかつてなく認められたユダヤ人は、各地で「国民の創生」が行われると、チェコ人・ドイツ人に同化するものが急増する一方で、ヨーロッパ社会ではこれまでにない「異形」のものとして形象され、強力な「反ユダヤ主義」が生まれてくるようになる。1918年建国のチェコスロバキア共和国は、このユダヤ人に独立した民族として最初に公認した国家であり、そこでフランツ・カフカ、マックス・ブロードなど、ユダヤ人文学者・作曲家などの文化が華開いたという。

▼ もともとチェコは、20世紀半ばに、人口の1/4以上を占めたドイツ人を、国外に追放して今に至る国家です。かつてのドイツ語文化圏、中欧文化圏の名残は、大学、墓碑、シナゴーグ、オペラ劇場など、今も街角の至る所に、痕跡の形でそのまま残されています。痕跡が語る「不在」は、ドイツやカタルーニャ、アイルランドといった歴史を叙述することとは違った楽しさの反面、否応なしに記述の困難さに帰着するでしょう。その困難さの中で、まとめられた「物語チェコの歴史」。非常に面白い作品として、お勧めできます。

▼ ただどうでしょう。第8章のモーツアルトは……いささか反則技ではありませんか?  たしかに、モーツアルトの方が、はるかに人口に膾炙するとはいえ、生誕二五〇周年に媚びた軽薄な感じがしないでもない。モーツアルト・オペラとプラハ劇場建設の皮相な解説に走るくらいなら、「国民楽派」のドヴォルザークと、ウィーンの音楽界の柱石、ブラームスとの関係をオーソドックスに描いても良かったのではないか。別にありふれていても、いいんだし。スメタナもいて、モーツアルトはないでしょう。19世紀における、ドイツ周辺諸国の「音楽と劇場文化」が、ドイツ・ナショナリズムの中核であったドイツ音楽の流入と覇権の確立を前にして、どのように受容・排斥・変容をとげていったのか。国民楽派なる概念の再検討を含めて、ドイツ文化圏内の「周縁」音楽文化を知りたかっただけに、残念な感じがします。また、6章と7章は内容も入り組んでいるのだから、別の話を描いても良かったような気が、しないでもありません。それこそ、ドイツ文学とチェコ文学の相克なりなんなり、書いて欲しかったと思う。

▼ ワールドカップも近づいている今日。
  ドイツ文化圏をチェコから眺めるのも、一興。ぜひ、ご覧あれ。


追伸  断じて、ヤナーチェクを出さなかったから怒っているのではありません。
    念のため。


評価 ★★★☆
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Last updated  Sep 20, 2006 09:45:52 PM
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