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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() ▼ ケインズは革命児ではない! ▼ マーシャル以降のケンブリッジ学派の発展的継承者でもあったのだ… ▼ 現実を見失なわない。それでいて現実の事後的追認ではない理論的彫拓が求められる経済学。本日ご紹介するのは、アルフレッド・マーシャル以降、ケインズ出現までの、錚錚たるイギリス・ケンブリッジ学派とその流れを描いた一冊です。現在、アメリカに制覇されている、経済学。今では、ほとんど忘れられたA・C・ピグー、D・H・ロバートソン、R・G・ホートレーなどを丁寧に追い、「ケインズ革命」の「虚と実」を明らかにします。これが新書とは、とても思えない大著で、なかなか面白い。 ▼ アルフレッド・マーシャル。限界革命の時代、実践と古典派経済学の乖離に対して、独自の時間概念を駆使して総合を試み、古典派の継承的発展、「新古典派」を作り出した人物。帰納的な経験科学を志向し、部分均衡分析の創始者。マーシャルは、生産費説と効用価値説の調停をおこない、物理学ではなく生物学になぞらえることを好んだ。また、「貧困の再生産」を問題視して、その克服のため「高賃金の経済論」を唱え、教育による社会改良をもとめた。さらに、有機的成長のヴィジョンに体現される社会改良の思想の持ち主で、3生産要素に4つ目として「組織」を加え、自然条件下における収穫逓減を覆す、キーとしての位置づけを与えたという。とはいえ、「完全競争」&「収益逓減」は、現実には企業の「収益逓増」と矛盾している。これを「外部経済」を導入することで妥協させようとしたマーシャル経済学の体系は、スラッファによって崩れ去ってしまう。スラッファは、完全競争の仮説を放棄、「市場の不完全性」、独占理論によって収益逓増論を構築する。一企業にとっては外部的であっても産業全体にとっては内部的である「外部経済」は存在しない…この後、不完全競争分析に向かうケンブリッジ学派。そんなマーシャルの体系は、理論的精緻化の道が閉ざされたもので、1890年代以降、アングロサクソンの経済学はマーシャル体系への注釈であると言われていたらしい。 ▼ アーサー・セシル・ピグー。スラム街の貧困に胸打たれ、人間生活の厚生の増大に一身を捧げた経済学者。厚生経済学3原則(A 国民分配分の平均量が高いほど、B その貧者帰属分が大きいほど、C 年較差の小さいほど、経済的厚生は大きくなる)の提唱、「租税」を通して介入することで、私的生産物(費用)と社会的生産物(費用)の乖離を埋め、社会的厚生を増大させる…こうした実践の反面、スラッファとのケンブリッジ費用論争では、「外部経済」―――企業の個別限界費用と産業の総限界費用の差額―――にこだわるあまり、「光明と果実」の舵取りをうまく果たせず、マーシャル経済学の一般均衡分析、理論的精緻化に没入してしまう。とはいえ、知識の役割を重視する実物的景気循環論、失業分析、マーシャルの現金残高数量説の定式化などにおいて、伝統をふまえ次代に引きつぐ役割を果たしているという。当初、ケインズ革命を理解しなかったピグーは、後にその評価を変えることになる。しかし、「経済分析の武器庫に非常に重要な、独自なまた貴重なものを附加した」として最後まで「革命」とは認めなかったというのは、たいへん興味深い。 ▼ デニス・ホルム・ロバートソン。古典派を修正しつつその「現代版」を提示しようとしたマーシャルのひそみにならい、伝統的マーシャル体系を引きつぎつつ、その「現代版」を提示しようとした「最後のマーシャリアン」。ケインズの弟子・友人であり、また後に激しく敵対することになる人物でもあった。マーシャル経済学では、例外的現象として扱われたため手薄だった景気循環論が研究テーマ。過剰投資とその反動=不況をもたらすものは、彼によれば、供給側要因として「投資の懐妊期間」「投資の不完全な分割性」「扱いづらさ」「資本財の寿命の長さ」、需要側要因として流行・戦争・関税・農業政策という。その際、大陸経済学の影響も受けつつ、実物的波及過程を描くため、実物的景気循環論=「貨幣なき実物」というアプローチがおこなわれた。あたかも、近年のキドランド&プレスコットの実物的景気循環論とは表面上同じ様に見えるとはいえ、1910年代から既に不況対策に公共事業を提唱したロバートソンとは、ヴィジョンそのものがまったく違うものらしい。彼は、ケインズとともに「投資-貯蓄アプローチ」を行い、「強制貯蓄」概念を提出して、「投資-貯蓄」が一致しない状況を論じる一方、物価安定を目指す銀行政策と、資本形成のための資金を供給する銀行政策、この2つが両立しないことを明らかにしたという。 ▼ ラルフ・ジョージ・ホートレー。大蔵省金融研究局長などの官庁勤務。直接マーシャルの謦咳に接したことのない、ケンブリッジでは傍流。とはいえ、古典派にみられる貨幣ヴェール観を徹底的に批判して実物ヴェール説を主張。実物よりも貨幣・信用を重視した彼は、不況下にあっても財政政策よりもスピードに優る金融政策を重視、金融的景気循環を唱え、ロバートソンとは激しく対立した。ホートレーは、商人重視でひときわ異彩をはなつ。貨幣数量説(貨幣量と物価の機械的比例関係としての)を批判して、商人の抱える在庫がバッファーとして働くことをのべただけではない。商人在庫の存在は、数量調整の方が価格調整よりも先であることを意味する。またホートレーの経済理論では、マーシャルからロバートソンまでの産業主導の経済理論という伝統に対して、金利感応度の高い商人(故に金融政策が重視される)が決定的な役割を果たすモデルが提示されていて、今見てもたいへん面白い。 (長くなりましたので、<2>に続きます。暖かい応援をおねがいします) 評価 ★★★☆ 価格 ¥819 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 3, 2006 02:32:37 AM
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