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書評日記  パペッティア通信

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Jun 25, 2006
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▼  自称「保守」の堕落など、今さら声高に言うほどのことでもあるまい。
「弱き」「動物」の群れ。「愛国」をなのる、ゲスの集団。ここ15年、防衛的ナショナリズムの下、ひたすら、ジコチュー的に「右傾化」する日本。ところが、左翼陣営側からの反撃は、一向に見られない。これは一体、どうしたことなのだ…といった声が騒々しい。そんな中で、待望久しい、「反撃」を名のる書が、この世にあらわれた。かつてのメインストリーム、マルクス主義陣営ではなく、かつてマルクス主義者が保守以上に攻撃した「リベラル陣営」からの反撃表明であるのが、いささか残念ではあるが…。さて、その試みは成功しているのか。本書の概要は以下の通り。


第一章 保守リベラルから
政治家は「勇ましい姿」より「ちょっと待てよ」の気概を
真の保守主義再生しかない
自民党の≪変貌≫ と保守・右翼層の≪分裂≫
 

第二章 憲法改正
 「“護憲的改憲”を目指せ」「今の日本には護憲が得策」
日本の立憲主義よ、どこへ行く?
九条削除論 ――憲法論議の欺瞞を打つ


第三章 靖国と外交
戦後60年の日本・アジア・世界
靖国参拝が壊したアジアとの和解
眠れる外交
「靖国」の土俵から降りなければ展望は開けない



第一章は、3つ。

「久間章生×太田昭宏×仙谷由人」の対談では、自民党がタカ派的なポピュリズムに流されている様子が、生々しく明らかにされていて面白い。メディア選挙では、ポピュリズムに走らなくてはならない。若手政治家とのギャップを感じるものの、右傾化とまでは思わず、「慎重な選択」「ハト派の存在」を強調する久間。この対談で、意外に感じられたのが、リベラルの観点から見た仙谷由人の見識の高さか。国連憲章と自衛隊、改憲と国連改革のリンク。一国主義的な護憲批判。官からNPO・宗教団体・自治体に「公」を取り戻そう…単純な左ではない所に、新しさを感じる。

佐伯啓志「真の保守主義再生しかない」は、イラク戦争に賛成することで、ネーションの独自性よりも自由・民主主義を上位におき、アメリカ的なものからの独立を蔑ろにした保守主義の欺瞞が糾弾される。現実的観点からは、保守に飲み込まれてしまった左翼。理念を見失うことで現実主義になだれ込み、「広義のサヨク」と化した保守。これは、イラク戦争に始まったことではなく、社会主義の崩壊によって左翼が保守に投降するとともに、リベラリズムの勝利を宣言することで、保守が左翼進歩主義に回帰した、必然的帰結であるという。もはやリベラルも保守も、アメリカ的価値観の一部でしかない。今必要なのは、真の保守主義の再生である。「善き社会」をどのように構築するべきか。コミュニタリアンの立場から提唱される。

櫻田淳「自民党の≪変貌≫と保守・右翼層の≪分裂≫」では、戦後自民党を支えた支持層、「明治体制≪正統≫」「1940年体制寄生」「民族主義者」、3層の幸福な結合構造が、2005年総選挙によって解体されたことが示唆される。「1940年体制寄生」「民族主義者」による「明治体制≪正統≫」に対する不満こそ、自民党内の小泉批判であるという。この前2者の後者に対する巻き返しは、現実には期待できない。と同時に左翼層も、保守・右翼層を十把一絡げにしないことが求められるという。民主党は、狭隘な「政治活動家」の党から脱皮して、利害調整を任とする「政治家」の党になれるのか。また自民党は、安倍晋三に保守・右翼知識人が「政治活動家」を期待するあまり、旧来の社会党のような「政治活動家」の党に堕してしまうのか。


第二章も3つで構成されている。

大沼保昭×船曳建夫『「“護憲的改憲”を目指せ」「今の日本には護憲が得策」』の対談が、かなり面白い。「憲法9条」「平和憲法」は、従来、戦争責任に向かい合いたくない日本が、悪いことをしないことを世界に発信するための、「代替」的機能を果たしてきたが、本来、9条が果たすべき役割ではない。アメリカの世界戦略の中で、「押しつけ憲法を改正」することは、別種の「押しつけ憲法」をつくることに他ならない。日本の平和を守ったのは、9条と安保である。「憲法はシニシズムを生んでいるか」「9条は世界の流れを先取りしているのか」をめぐって、軍隊を持つことを認めている者同士が、細かい部分で激しい討論をおこなっていて楽しめる。

長谷部恭夫「日本の立憲主義よ、どこへ行く?」のエッセイは、読みやすくて秀逸。近代、価値観が多様化する社会。そこでは、個人の価値観を追求する私的領域と、社会のすべてのメンバーの利益について話し合い決定を下す公的領域の2つに、生活領域を裁断するため、立憲主義がもとめられている。価値観や道徳、心構えなどを入れようとする改憲。「義務」という法律ですむ話を、わざわざ憲法にのせようとする改憲。改憲するために何でもとりこんじゃえ改憲…これらの志や立憲主義を忘れた改憲論を批判し、「あまり面白みのない」地道な利害調整の政治に戻るよう求めるエッセイ風の文章は心憎い。

井上達夫「九条削除論」は、皆さんにはぜひ読んでいただきたい出来映えである。改憲派・護憲派双方の欺瞞が、一刀両断。改憲派とは、「押しつけ農地改革」を糾弾しない、「おいしいとこ取りの輩」であって、主体性のなさ、では護憲派と変わらない自己欺瞞にすぎない。「憲法のおかげで平和だった」とのたまう護憲派は、殺されても殺し返さずに抵抗して道義的なアピールをおこなう、絶対平和主義の峻厳な責務を引き受ける気がないまま、本来なら拒否すべき防衛サービスを享受しようとする「現実への倫理的ただ乗り」の輩である。9条は端的に削除せよ!!。護憲派は、その上で、自衛隊廃止と絶対平和主義に向けた真摯な努力をおこなえ!。この骨格といえる部分の他にも、この論考が論座に乗ったとき、護憲派の側から寄せられた批判への再反論が、補論として載せられており、痛快という他はない。


(長くなりましたので、<2>に続きます。暖かい応援をおねがいします)



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Last updated  Aug 4, 2006 11:55:59 PM
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