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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() ▼ 読売新聞中国支局を中心とした、総力をあげた中国ルポルタージュ。連載されていた途中、読まれた方もかなり多いのではないか。その取材団の成果が、1冊の本として中公新書にまとめられました。ひとまず、感謝しておきたい。 ▼ 章立ては以下の通り。 第1章 新ナショナリズム 第2章 揺らぐ社会主義 第3章 市場経済の虚実 第4章 きしむ周辺世界 第5章 米国との攻防 ▼ 第1章では、過熱する津波のようなインターネット世論や、競争が激化する新聞市場において発禁などの統制に苦慮する中国当局の姿が描かれている。1台4万円のパソコンが普及して、北京・上海・広東の三大都市圏以外にインターネット利用が拡大。中国大発展のチャンスに引かれて、以前とは違い留学する人間のほとんどが、中国に帰国しているのだという。豊かなものは欧米、貧しいものは日本に留学・出稼ぎに行くらしい。過剰な自負心は、過剰な民族意識をまねく。96年台湾総統選の屈辱から、日米の台湾介入を撥ねかえすために「大軍拡」を続け、「第一列島線(日本列島~フィリピン近海)」「第二列島線(小笠原諸島)」なる線を勝手に引き、アメリカ空母を迎えうつ準備をしているという。 ▼ 第2章では、権力と市場と資本がむすびついた開発独裁中国の社会が赤裸々に記されていて面白い。今の中国の富豪の6割は、不動産関連事業、いわゆる土地成金であるという。改革の重点は、農村から都市に移り、住宅バブルも発生。購入限度額が年収の数倍の日本とは違い、10倍でもマンションが売れるのだとか。「民工の都市流入」という人類史上最大の都市化は、「安い労働力」「富の農村移転」「農業労働力の削減」を担っているという。当局は、「民工」の労働組合に加入など、様々な体制取り込みが画策。1990年代半ば5%だった大学生進学率も、2004年には2割にまで上昇。大卒は、「普通の人」になってしまい「いい就職先」に苦労しているという。 ▼ 第3章では、人民元切り上げに直面する中国経済の虚実にせまる。切り上げ後も歯止めがかからない貿易黒字。「党の論理」での通貨管理は限界に近づいている一方、1993年に石油純輸入国に転落して以降、今では輸入依存度は4割、世界2位の輸入国になっているという。2010年度には輸入依存度は6割になるとみられ、中国石油・天然ガス集団(CNPC)のカナダ石油大手・ペトロカザフスタン買収を始めとした、資源外交を血眼で展開しているという。イラン、スーダン、ベネズエラ、中央アジア…石油だけでなく、石炭・原発も大々的に採掘・建設。恒常的な電力不足の一方、中国企業の海外進出は進み、04年の対外直接投資額は、前年比93%増の55億ドル。同年の受入額606億ドルとは比較にならないものの、日本の自動車部品メーカーはターゲットになっているらしい。日本を標的とした「愛国ビジネス」が栄える一方で、日系企業は、欧米や韓国系企業と比べても「中国人を見下す」ため、就職先としても魅力を失いつつあるという。台湾独立派の許文竜・奇美グループ会長の「転向」に見られるように、大陸に投資を呼び込み、「政経不可分」の強烈な圧力を加える中国。2003年頃を境として、香港経済は、完全に大陸の支配下におかれた。「台湾統一」の課題を果たすために、経済のみならず政治においても、香港は「金の卵を産むアヒル」になっているという。 ▼ 第4章では、周辺諸国に対する中国の影響力の強大さが描かれていて、背筋が凍る思いすらさせられる。毛沢東時代根絶寸前だった麻薬。今では覚せい剤「生産地&消費地」。中国と並ぶ麻薬基地・フィリピンは「覚せい剤天国」と化しており、中国マフィアのブラックマネーが、チャイナタウン・スラム街・政官界・経済界に流れこんでいるという。「中露蜜月」が演出される反面、極東ロシアにおける中国人とそのマネーの存在感は、「タタールのくびき」の記憶と嫌悪感を呼び覚まし、衝突が絶えないらしい。「改革開放路線」「3つの代表論」の移植など、「運命共同体」である中国・ベトナム両共産党が演じる「中越蜜月」。中国は、台湾海峡で海上封鎖を実施するため、ミサイルと潜水艦を増強しているのに対し、台湾では民進党政権誕生以降、外省人将校の退役後の大陸帰国が相次いでいるとのこと。国民党の妨害で、国防軍の装備刷新もママならない台湾。台湾当局の「南向政策」の掛け声むなしく、『中国時報』のように台湾メディアの「大陸資本による乗っ取り」が行われはじめているという。タイや韓国では、タイのシリントン王女や孔子学院を利用した、一大中国ブームによるかつてない「蜜月関係」にあるのだとか。 ▼ 第5章では、アメリカとの衝突の数々が描かれていて興味ふかい。ブッシュ政権は、「ステークホルダー」(利害関係者)を強調する国務省と、中国に「透明性」を要求する国防総省と、分裂気味に対応しているようにみえるが、対中国には「右手で棍棒、左手で握手」戦略で対処しているという。アメリカの大学・企業に潜む、中国人スパイ「赤い花」。大陸によるアメリカ議会ロビー活動は、1億ドルにも及び、イリノイ州選出議員などを中心として、「中国研究会」などの親中派議連が出現しているという。意外なことに、2005年10月の「神舟6号」打ち上げは、ステーション技術と偵察技術ゆえに、アメリカは「軍事的行動」と捉えて脅威に感じているらしい。核融合の原料となる「ヘリウム3」の争奪戦を防ぐためにも、月の所有権争いを解決する動きがあるというのだから驚くほかはない。弾圧を受けながらも増殖する共産党の統制下にない地下教会。民主化運動の指導者も、国外に出てしまえば、影響力を失ってしまう。何清蓮氏の今後の中国分析は、必見といえる。 ▼ とくに細かいマメ知識は面白かった。「八」が大好きな中国では、北京オリンピックは、2008年8月8日午後8時に開催され、28種目が行われるらしい。スポーツにおける観戦マナーの悪さに、啓蒙を施そうとする当局も大変そうだ。局長などのポストが賄賂で売買。「切り上げ」観測から輸入商品の「買い控え」が広まり、意外に自動車とか売れていないのだとか。2005年には、17万3000台を輸出し、自動車輸入国から輸出国へ転換していたという。 他にも、「香港返還記念日」における民主化デモの参列者数は、香港支配が順調かどうかを知るためのバロメーター。「六カ国協議」の裏側で着々とすすむ、レアメタルなど鉱山資源を狙っての北朝鮮「経済植民地化」。広東華僑の出身のタイのタクシン首相。英語授業をおこなうためシンガポールに留学する中国人。韓国における中国語学習熱と中国における韓流ブーム。華僑の中国Uターンとアメリカにおける中国語ブーム ………… アジア・世界における、中国の息吹は凄まじい。日本のプレゼンスのなさは、呆れかえる位である。「靖国参拝」などで喧嘩しても、中国に絶対勝てないことは、これを読めば良くわかるに違いない。 ▼ ただ総じて感じたことは、読売新聞をあげた中国総力取材の結果が、この程度の内容なのかという、失望感と驚きであろうか。とにかく、清水美和の一連の著作を読んだ人には、ヌルくてタルくて仕方がないばかりか、第1章の新ナショナリズムの冒頭の「反日デモ」部分は、清水の著作の盗作としか言いようがない。本当にいいのか?参考文献に清水の名前をあげずに、そんなことして。てか、既存の新書や専門書から、ツギハキのように引用しているだけ。政治の裏面への洞察力もなければ、社会や経済についての、新味が何もない。まず題名からして笑えてしまう。「歪んだ成長」―――そもそも、日本といい、イギリスといい、歪まない成長ってあっただろうか?? この表題からみても、中国への「偏見」を告白しているようなものだ。おまけに、朝日新聞のように、決して主流になることはないであろうからこそ、記憶に留めてめておくべき、中国社会の変革の萌芽―――環境問題への取組、草の根民主主義 etc. ―――の摘出もなく、ただ既報の中国社会像を焼きなおしてなぞるだけ。いったい何を伝えたくてこんな取材をしたのか、深刻な疑問を抱かざるを得ない。 ▼ おそらく、中国社会について何も知らない人しか、この本は読む価値がない。これまでの中国イメージのベクトルに従い、取材した事実を集め、並べただけにすぎないからだ。ただ、経済関連記事を中心に光るものがあるとはいえ、この本を読むくらいなら、清水美和を読んだ方がずっと良いとおもう。ここまで下らない特集だったとは、新聞紙上でこの特集をしばしば読んでいたものの、一冊の本に纏められるまでまったく気づかなかったネ。 つくづく使えない新聞社であるというか、使えない記者しかいない新聞社であることがわかる「使える新書」というか ……… 少なくとも、読売新聞取材団は、清水美和一人に及ばないことが良くわかる≪良書≫とは言えるかもしれない。 ▼ マジに読売新聞中国支局の奮起を期待したい。 評価 ★★☆ 価格: ¥777 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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