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テーマ:経済分野の書籍のレビュー(50)
カテゴリ:経済
![]() ▼ 超大国は生まれるのか。今、話題になっている、次なる経済大国、ブラジル・ロシア・インド・中国。この4カ国の経済を2時間で理解できるという、かなりお得な新書が出版されています。ご興味のある方は、ぜひ、お買い求めください。 ▼ 内容は以下の通り。 第1章 なぜBRICsが注目されているのか? 第2章 台頭する中産階級 第3章 資源獲得競争 第4章 BRICsの軍事力 第5章 国際会議で影響力を増すBRICs 第6章 BRICsと日本の関係 第7章 ポストBRICsとして注目を浴びる国々 ▼ 近年BRICsが注目されているのは、天然資源と人口(生産年齢)の豊富さ、積極的な外資導入、購買力を持った中産階級の登場によって、豊かさでは先進国の水準にはかなわないものの、30年後にはG7を凌駕する経済規模になるためらしい。インドでも、対内直接投資の拡大によって、輸出や国内固定資本形成が促され、一人あたりのGNPの拡大が生じた。ただ、先進諸国よりも貧富の差が激しく、富裕層・ニューリッチは、欧米の比ではない。パソコン消費などにみられる、中産階級によるマクロ消費押し上げ効果は、限界が見える恐れがあるという。しかも、経済統計には問題が。インド・ロシアでも、経済統計は税逃れのため、付加価値の過少申告がなされやすい。ただ現在の資源価格高騰は、インフレ圧力を強め、成長の阻害要因にもなりはじめている。二酸化炭素排出量の激増は、地球環境問題を招いておきながら、ロシア以外は京都議定書に入っていない。確実に地位を低下させているG7に、あらためてBRICs諸国が加わる日は近いという。 ▼ 以下、国別にまとめてみよう。 ▼ ブラジルは、左派のルーラ大統領再選可能かどうかに対して、懸念材料があり「為替リスク」も抱えこんでいるものの、一次産品輸出が好調。1%の富裕層が5割の富を握る国で、富裕層の88%が白人であるという。パソコンの普及率は、2004年には、ロシアとならんで1割をこえ、中国の2倍、インドの5倍の水準だとか。ブラジルは、新規油田開発が盛んで、98年には外資系企業に参入が認められたこともあって、ここ25年の間に推定埋蔵量は8・5倍に膨れあがり、アルジェリアを抜きそうらしい。自給率も9割。しかもフレックス車(アルコール燃料)が普及していて、原油消費量が伸びていない利点があるという。意外なことにブラジルは、世界四位の航空機会社エンブラエルをかかえている武器輸出国。ところが、日本とブラジルの経済関係は、極めて見劣りがする現状にあるらしい。日本の対ブラジル・インドの貿易比率は、0.6%というお粗末さ。ブラジル第2位の貿易相手国に躍り出た中国。資源確保のためにも、中韓より先んじて、ブラジルとのFTA締結を急ぐべきだと提言されている。 ▼ ロシアは、先進国の矜持もあって、このBRICsの名称を嫌っているらしい。基本的に世界1位の産出量(2004年)を誇る石油価格に左右される不安定な経済構造であるものの、6%前後の成長が可能。ただ、マフィアが4割の経済活動を配下に納め、経済活動の7割が何らかの形で結びついているなど、リスクとして「治安面」の問題が大きい。人口の2割の富裕・ニューリッチ層は、2大都市に集中。輸出の6割が、石油関連商品。そのため、インフラ・鉄道整備が、急ピッチで進められているらしい。世界は、化石燃料の天然ガス化という流れ。世界生産量の2割、埋蔵量25%をもつロシアの天然ガスの日本への輸出は、敷設コストの高さから日本に大口需要者が現れない内に、「サハリン1」の利権は、中国に取られる形勢らしい。世界最大の天然ガス企業・ガスプロムは、欧米メジャー級の強力なエネルギー企業に成長。ただ近年、外資規制の強化にのりだしており、投資の落込みによる経済への悪影響が懸念されるらしい。プーチン政権は、武器輸出も強化。中国・インドに大量売り込みを図っている。一方日ロ経済関係は、ロシアWTO未加盟ということもあって、近い割には小さい(1%)が、資源価格高騰と加入を間近に控えて、近年急速に伸びているという。 ▼ インド経済は、印パ紛争の再燃や、頻発する労働争議、インフラの未整備、マンモハン・シン政権が共産党の圧力に耐え経済開放政策を続けられるか、というリスクをかかえるものの、もっとも成長が期待できる国であるらしい。民主国家であり、富裕層は、財閥経営者が多いという。ニューリッチ層は、7.3%。とはいえインドのカースト制は、貧富の差を拡大させており、経済発展の恩恵は、バラモン・クシャトリア・バイシャ層にしか行き渡っていない。下級カースト・指定カーストを中心とした貧困層の比率は、ネパール・バングラデッシュと、依然同じレベルなのだとか。富裕化の進展も、インドのみ飼料用作物需要を伸ばしていない。原油は輸入に依存。依存率は7割、使用量1億2000万トン。インド石油天然ガス公社は、世界各地に石油資源をもとめ、スーダン・リビア・ロシア・キューバ・ベトナムで開発を目指し、近年では中国とは資源外交でも歩み寄りを見せているという。インドの軍拡は、武器輸入途上国第1位にもあらわれている。仮想的国「中国」とパ3度の印パ紛争をおこした核保有国パキスタンが連携していては、インドの核廃棄はありえない。政治・経済両面でアメリカ・インドの幅広い提携がおこなわれている反面、非常に遅れている日印関係。日本は、日系企業の対インド投資にともなう、中長期的な貿易拡大にまかせるだけではいけない。インドからのサービス輸入も日本側輸出に均衡するように増やさねばならない。そのためにも、ソフトウェア・サービス取引のおける源泉課税問題を解決しなければならないという。 ▼ 中国は、現在BRICs諸国の中で、最も高い経済成長率を誇っている。経済成長率は9%以上。目立ったリスクは、鳥インフルエンザと「法令・運用の不透明性」。2005年12月の統計大改訂で、2004年末のGNPは、16.8%も上方修正された。富裕層は、不動産・自動車・海外旅行といったものに走るものの、都市部では耐久消費財消費が一巡。後は、農村部にどれだけ売れるのか、にかかっているのだという。資源問題は、深刻のひと言。年間使用量、現在3億2000万トン。2020年の石油依存率7割の予測。推定埋蔵量7・5年分しかない石油は、近年1ヶ月を目標とした石油備蓄政策を始めているらしい。インドと激しい石油争奪戦は、資金力の差で連戦連勝。中国人民解放軍は、装備面でも近代化がすすみ、台湾海峡ではすでに台湾に対して圧倒的優位を築きつつあるという。 ▼ ポスト4カ国としては、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、メキシコ、トルコ、中東欧三カ国(ポーランド、チェコ、ハンガリー)、インドネシア、ベトナムなのだとか。ベトナムは、政治不安もなく、中国沿海部における労賃の高騰を受けて、良質かつ均質な労働力を手配できる魅力から、生産基地を移転する動きが活発化しているという。南アフリカは、豊富な天然資源とW杯開催もあって、5%成長を続け黒人中産階級も形成されつつあるが、通貨ラントの値上がりと深刻な失業率に喘いでいるという。ナイジェリアは、インドの主要石油供給基地となりつつあるが、反政府組織との深刻な政情不安にあるらしい。トルコもインフレ抑制に成功。天然資源に恵まれないものの人口増加も激しく、高い成長率にあるのだとか。東欧では、ポーランドがEU向け生産基地の地位にあるものの、2005年10月に誕生した現政権は、民族主義的で投資には慎重さがもとめられるという。 ▼ 楽しめた点としては、筆者の手際のいい分析手法。経済の実態に比例して変動する電力需要量の動向で、経済成長率の統計が正しいかをチェックすると、中国では20世紀には「成長率>電力」と過大申告気味だったのに対して、21世紀以降「電力>成長率」で、かなり乖離しているのだとか。ロシアの株価指数が原油価格と連動している、という指摘も面白い。他にも豆知識も、豊富。天然ガスがもてはやされているのは、環境保護の観点でクリーンで効率の良い燃料である上に、各地に点在しているので中東依存の必要がないためだという。中国・ロシアの乳製品需要激増が、世界のチーズ価格を押し上げる。2006年1月下旬のダボス会議(世界経済フォーラム年次会合)でも、テーマは「インドと中国」の台頭。244もある分科会の内、日本絡みは1つしか開かれなかったというから、その存在感の希薄さには恐れ入る。 ▼ ただ、中国経済については、他の新書でも色々語られている。この本では、初心者向けの入門書の域をこえていない。インドも、『週刊東洋経済』のインド特集と、いい勝負でしかないでしょう。ところが、ブラジル・ロシアは、大変面白かった………これって、評者の知識量の差に、由来しているのは、あまりにも明らか。つまり、これは4カ国の個人投資家・機関投資家になるための、入門書というのが一番実態にちかい。しかも、当該国経済についての詳しい解説・説明をぬきにした、発展可能性のみにしぼったもの。分かりやすくいえば、この本の使い道は、あなたが海外に株式・ファンド投資をおこなう際、どの国を選ぶか、目鼻をつけるために使うものでしかありえない。てか使い道がない。当該地域の詳しい経済状況を知りたければ、別の新書・専門書を探すべき。断じて、こんな本を読んではいけない。あくまで、次の投資先はどこがいいだろうか……につかう投資案内であります。その意味で、たいへん微妙。 ▼ インドや中国よりもずっと経済水準の高い、南アフリカ・インドネシアがなぜ、ポストBRICsなのか。アルゼンチンとかパキスタン、イランとかは、入れなくていいの? 当然、こんな深刻な違和感を感じない訳にはいかないだろう。むろん、投資案内として近年推奨される諸国を解説するという本書の性格からすれば、そうならない方が可笑しい。 そんな疑問を感じたものの、割合面白かったのも事実。 ▼ とりあえず、4カ国知らない人には星3つ半。4カ国とも知ってるよ、という人には、星2つ半。真ん中をとって3つと採点した。ご参考にしてください。 評価 ★★★ 価格: ¥798 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Nov 21, 2006 09:06:30 PM
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