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書評日記  パペッティア通信

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Sep 23, 2006
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カテゴリ:社会

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(この日記は1からの続きですので、こちらからお読みください)


▼   かくて後半生、「人間改造という実験」が開始される。日本人による収奪に加えて、内戦と天候不順で、飢餓に苦しんだ、撫順戦犯管理所の所員たち。 親類・知人を殺した日本人戦犯たちは、シベリア抑留時代の「卑屈さ」とはうってかわって、「戦争捕虜であって戦犯ではない」「新成立の国家に収監権限はない」などと居丈高に所員に議論をふっかけた。 「コーリャン飯」を出した日には、これ見よがしに捨てたという。 中国は、朝鮮戦争で、負けるかも知れない。 そうなると、日本人戦犯の自己確認の手段は、シベリアでは読経・謡曲の歌唱にすぎなかったのに、中国では「宮城遙拝」「君が代合唱」「教育勅語暗唱」という、大日本帝国のシンボルに変容させ、かつての支配者意識を剥き出しにするようになる。 なんでこんな奴らに、「白飯」「一汁三菜」を与えなければならないのか。 周辺の農民が、管理所から見たこともないような豪華な残飯を発見してしまい、管理所に苦情が殺到した。 管理所所員の9割が、「こんな人間を矯正することなんてできません」と転勤願いを出す始末。 周恩来に辞表を提出した所長は、懸命に慰留されるありさまだという。 管理所所員の懸命の努力(いったん土葬した死体の火葬改装ほか)や管理所の状況がわかるにつれて、日本人戦犯は徐々に心を開いてゆき、有名な「認罪運動」「告発大会」へとつながることになる。 日本人戦犯よりも真摯に自己を改造したのは、管理所の所員であったという指摘は、感動的というほかはない。 もっとも、人間改造の最大のターゲットは、溥儀その人。 その詳しい状況は、確認してほしい。 人間改造に尽力した、李文達、金源といった人々は、皆、文革で失脚させられるのだが。

 

▼  とにかく、20世紀中国史を網羅するスケールの大きさには、感嘆させられる。 清朝の皇位継承が、「公開建儲制」→「秘密建儲制」→「懿旨建儲制」と移行したこと、「輩字」による一世代一皇帝制だったことは、指摘されるまで気付かなかった。 袁世凱は、帝制運動の際、袁世凱家と清朝皇族の間に縁戚関係を取り結び、「溥儀の岳父」になって「清朝へ大政奉還」しようとしている、と遺臣たちに思わせていたらしい。 その手練手管には、あきれかえるだろう。 シノアズリー(東洋趣味)をもつジョンストンは、溥儀の近眼に気付き、後にトレードマークとなる、丸「眼鏡」をかけさせたことで、家庭教師には収まらない信頼を溥儀から勝ちえたという。 また、満州国の皇室は、イザナギ・イザナミを模して、溥儀と婉容から開始される、としたため、かの溥傑でさえ、皇族ではなかった。 譚玉齢病死後、不特定日本皇族との婚姻(指婚)をもとめたものの果たせなかった溥儀は、最終的に子供を産むのをあきらめ、「幼い少女を自分の手で養育する」ことを願い、李玉琴をめとったという。 東京裁判で溥儀を偽証まがいの弾劾に駆り立てたのは、ソ連側の教唆ではなく、信頼した皇室や自己を利用した日本人が、「漢刊」として裁かれる自分に対して、慰めの言葉をかけるどころか、弁護に名を借りて糾弾をおこなう日本人への嫌悪にあった、という指摘には、あらためてうならされるほかはない。 


▼   また、人間改造後帰国するまで、自主的な食事管理が認められて、温室野菜栽培をおこなっていた日本人戦犯は、国民党系戦犯たちとは違い、管理所の外側での「大躍進」による大飢饉によって、管理所所員が次々と倒れていたことに、まったく気付かなかったという。 溥儀夫妻は、旧い身分意識を決して捨てようとしない、日本人嵯峨浩を妻に持つ溥傑夫妻と、「新中国」成立後、感情的仲違いしていたこと。 溥儀が、腎臓ガンにおかされる中で、前妻と後妻がいがみあってしまい、「一緒に入れないでほしい」という遺言を守って、結局3度移転した溥儀の墓所と違う所に、後妻李淑賢は埋葬されているという。 こうした秘話は、なかなか面白い。

 

▼  なによりも、前半生では「復辟」、後半生では「自己の生存」のため、「権力」をもつものにすりよってゆく溥儀の姿は、あたかもカメレオンのようだ。 溥儀も共産党も、「改造された溥儀」を必要とするためお互い演出をいとわない。 その真摯な姿は、滑稽みさえ帯びてくる。 主演・溥儀のメンツに配慮しながら、脚本・共産党は「改造」をすすめるものの、もともと改造されていないため、溥儀はそのシグナルを理解できない。 認罪運動を始めとして、失敗をかさねてしまう。やがて、薫陶よろしく、「共産党の期待を先取りすることができる人間にきちんと改造」される、溥儀。 李玉琴とは離縁するものの、「改造された家庭」をもってほしい、当局期待に応え、溥儀はさっそく看護婦李淑賢と結婚する。そのため、彼の認罪書である「自伝」は、ドキュメントとして面白くするためにも、溥儀の行動の整合性のためにも改訂がおこなわれざるをえなかったという。 しかし、そのような生き様は、「日本の期待を先取り」できるような人間、すなわち漢奸とどのような質の変化があるというのだろうか

 

▼  もはや、冒頭の問いは、とっくにでているのだろう。 溥儀は、なにひとつ「人間改造」されていない。 そもそも、かれが退位後、紫禁城の奥で学んだ「帝王学」とは、いったい何なんだろう。 「帝王学」とやらは、この世に存在するのだろうか。 あるというなら、マニュアルとしてまとめられば良いだろうに、そんなものは、つゆ聞かない、帝王学。愛子内親王、悠仁(ひさひと)の教育に必要といわれ、本来皇太子とは違い受けていないはずの秋篠宮が、近年、天皇の側にいることで、いつのまにか「伝授され」「身につけた」とされる、摩訶不思議な「帝王学」。 「帝王学」をまとう王者も、人間改造をうけた公民も、この世には存在しない。 あるのは、「関係」によってそのたびごと規定される、「私」だけなのではないか。 溥儀の生涯をみて感じるのは、溥儀の中にある、途方もない「空虚」である。

 

▼  そのため本書は、溥儀の2面性に着目するというものの、どこがどう2面性をもっていたのか、最後まで分からなかったのが惜しまれる。とはいえ、力作の本書。秋の夜長に一読されてみてはいかがだろうか。



評価 ★★★★
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Last updated  Nov 2, 2006 12:10:10 AM
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