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書評日記  パペッティア通信

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Feb 4, 2007
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▼   お会いしたこともないのに、勝手に「先生」と呼びならわして、私淑・傾倒している人は、みなさんにも何人かいるだろう。 私にもそんな「心の師」は、2名いる。 1人は由貴香織里先生、1人は大西巨人先生である。 ウソのような本当の話だ。  いや、マジで。


▼   それで悪名高い本書を読んでみることにした。


    読んでみた…


    読んでみた…


    読んでみた…

    …
    …
    …


    何だ、これは!!!!!


▼   「AMAZON」の読者レビューのひどさは、ひろく知られたことだけど、誉めている奴をつるし上げてやりたいよ。 まったく。 てか、巨人先生を甘やかすのも、お前らいい加減にしろ!!。 可愛さ転じて憎さ百倍、であろうか。


▼   そもそも、冒頭から不吉な予感が漂う。 いきなり、大西巨人の既刊小説から引用される一点からして、「堕落」の臭いを嗅ぎとれる訳だが、その予感は最後まで離れずに、とうとう、実現してしまう。 自作を引用してはいかんでしょう、大西先生。


▼   なによりも、小説としても、完全に破綻しているのがイタイ。 母子草(御形)から始まる、樋口一葉の引用も、何ひとつ効果的ではない。 破綻を隠蔽するため、最後「題意」において、付け足しのように付け加えられるのは、以下の文章である。
 

    大方の読者の中には、本編の表題『縮図・インコ道理教』を「インコ道理
    教という宗教団体の縮図」と読解(誤解)した向きも、なかなかあるらし
    い。そのような人々は、『なんだ?インコ道理教のミニアチュアーなんか、
    ほとんど書かれてないじゃないか!』その他肩透かしを食らったような
    違和感的読後感を持ったとみえる。(中略)。そもそも、本編の表題は、
    『「皇国」の縮図・インコ道理教』であった。しかし、それでは、あまり
    に説明的な・曲もない表題、と作者ないし語り手は、考えたので、現在の
    形にきりつめた。
     「皇国」すなわち天皇制国家は、神道系であり、インコ道理教は、仏教
    系である。神道系と仏教系との相違ならびに規模の大小の差異はあれ、
    両者は、いずれも宗教団体・無差別大量殺人組織であり、前者の頭
    首は、天皇にほかならず、後者の頭首は深山秘陰にほかならぬ。
     かくて「宗教団体インコ道理教は、『皇国』日本の縮図である。」とい
    う命題と、宗教団体インコ道理教にたいする国家権力の出方を、人が、
    ≪近親憎悪≫なる言葉で理会する。」という命題とは、いかにも彼此照応
    する。



▼   笑うべし、というしかない。 この一文は、まったくもって、的確にこの小説の主題を表現している。 アルファにして、オメガ。 この小説には、他に何も残らない。 みごとな、というよりも、「身も蓋もない整理」という他はない。 もともと、オウム真理教を題材に、日本社会に巣くうものを摘出しようとする、気宇壮大な構想なのだが、それなら何も、小説にする必要はないのであって、最初から評論にしてもかまうまい。 しかし、これが評論のすべてだとすれば、あまりにも、貧相かつ使い古しになってしまう。 だからこそ、小説にしようとして、大失敗した、とみるしかないわけだ。


▼   「題意」における補足は、小説としての表現の失敗を自覚してのことだと思うが、どうせ、生活保護を受けているのだし、絶版にしても何も問題は無かったのではないか?。 金を惜しむより名を惜しめ、とはよくぞ言ったものである。 昔、『三位一体の神話』を読了したときにも思ったが、いくら何でもあんまり、である。 大西先生は、こんな本を書いてはいけない。 


▼   とはいえ、何も収穫がない訳ではないのだ。 以下は、中野重治が島崎藤村『破戒』を評した一節の引用であるのだが、部落差別問題の本質を言い当てていて、涙がでるくらい素晴らしい。


   『新しいということは、現代では恥づべき何者をもいみしない。さういふ中に
    あって独り新しい平民のみが特別の眼をもって見られて来たのは何故で
    あるか。』 それは、古いということが誇るべき何物をも意味しない
    ときに、古いという理由での誇りを暴力的に基礎づけねばならない
    『現代』そのものの性質から理解される
のであろう
 



▼   これだから、大西巨人は止められない。 鷲田小弥太は、中野重治について、「俺こそ、より正しき革命的主体!」という欲望に囚われた人物と断じている。 そのためか、近年はとみに評価が低い。 中野重治は、古本屋に行けば、宮本百合子、野間宏とともに山積みにされているが、読むに値するものもそれなりに多いのであろう。 天皇制の永続は、ライ病への偏見、被差別部落の偏見と同様、その卓越性、有意義性、有益性の証明ではない、という言明と同様、心して起きたい一文である。 きちんと小説となっていれば、どれほど面白い作品だっただろうか。

    
▼   一ファンとして、心を鬼にして評価した。 次回作を神にも祈りながら期待する他はない。 とにかく、お体を大切にしてほしい。


▼   なぜなら今年、大西巨人先生は、88歳になられるのだ。


評価  ★☆
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Last updated  Apr 1, 2007 12:37:22 PM
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