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書評日記  パペッティア通信

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Jun 7, 2007
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カテゴリ:社会
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▼    日本はどうして先の戦争に負けたのか。 この手の類は、本屋に氾濫しているけれど、ここまで充実した本はなかなかお目にかかれない。 現代におけるインテリジェンス活動のあるべき姿にも一石を投じうる、まさしく「史鑑」となりうる著作が上梓されている。 これを機会に、ご紹介しておきたい。 


▼    本書によれば、日本陸軍は、暗号解読など優れ、中国のみならずアメリカ暗号まで解していた。 にもかかわらず情報戦に敗北したのは、「作戦重視、情報軽視」「長期的視野の欠如」「セクショナリズム」にみられる、日本軍のインテリジェンス能力の欠如にあるという。 とくに、本来、インテリジェンス活動は、「情報の分析」と「情報の共有」が水平的に連携した形で行われなければならず、「中央情報部(CIA)」のような一元的な情報集約組織によってプールしないと、政策決定者の主観・推測が交じったり、組織間の軋轢で情報の鮮度が失われ、情報が雲散霧消してしまう。 しかし日本では、「作戦」と「情報」が垂直的関係におかれ、インテリジェンス活動がまともに機能しなかったらしい。


▼    第一次大戦によって、インテリジェンス(情報活動)の運用方法は大きく変容したにもかかわらず、日本軍はその変化についていけなかった。 とはいえ、急速に重要度を増したシギント(通信情報)については、相当の解読力を有しており、イギリスやドイツでさえ成しとげられなかった、アメリカの「ストリップ暗号の解読」に成功しているという。 防諜を担当する憲兵隊は、領事館に侵入して、暗号書を始めとする機密文書を盗みまくった。 英米も手を焼き、防諜能力が低い中国側から日本に情報が漏れるので、中国に重要情報を与えない措置さえとられたらしい。 「中ソ重視」の陸軍は、「支那通」などからの情報が多すぎて困るほどだったが、アメリカに対してはまったく逆。 アメリカは、海軍省や外務省の領域と判断、ヒューミント(人的情報)がなかったという。 とはいえ、「仮想敵」国、かつ、鉄壁の防諜能力をもつ対ソ情報収集活動は至難の業にもかかわらず健闘しており、1945年5月には、ソ連の対日参戦の徴候をつかんでいたと言うのだから驚く他はあるまい。


▼    一方、驚愕させられるのは、海軍の防諜・情報能力のお粗末さである。 アメリカ軍の暗号解読はできなかったので、商船運航量と米軍の作戦が連動していることに着目、連合国商船放送から通信量・方位測定によって、作戦地域を割り出していたという。 ヒューミント(人的情報)のため、イギリス人を雇うものの、イギリス側には筒抜け。 しかも、暗号書が盗まれても、自浄能力なし。 その防諜能力はお粗末さの極みで、山本五十六が撃墜死しただけでなく、陸軍がアメリカ・ストリップ暗号を解読していたことさえ、知らされてもらえなかったらしい。 「海軍善玉史観」をすり込まれていた人は、反省すべきであろう。


▼    なによりも、「情報分析」に関しての問題点として、作戦重視のため情報分析の専門家が養成されなかったことが挙げられる。 作戦部は、情報部の意見を参考にせず閉め出して作戦立案。 情報部は、作戦部から「要求」が来ないので、どのような情報を提供すればいいのか判断できず、ひたすら情報を集めて渡すのみだから、役に立たない情報しか上にあがってこない。 そのため作戦部は作戦情報を独自に集め出す。 そのため、ますます情報部は作戦に関与できない ……… 以下、無限ループが繰り返されたという。 陸海軍のセクショナリズムは、陸・海軍の情報部同士の提携もゆるさず、情報のプロ(情報部)からみれば「生データ」「偽情報」であるものが、「極秘情報」として上層部に出回ることさえあったという。 


▼    むろん、日中戦争から太平洋戦争初期かけては、戦術レベルでの効果的な情報収集と運用、英米の日本への過小評価もあって、大成功をおさめている。 英米は、しばしば不明瞭な部分を人種的偏見で歪曲して補うことで、空想的優越感に浸っていたからだ。 しかし、敗北の教訓から、頻繁に情報をアップデートして主観を排して迅速に戦場で使用した英米に対して、勝利に浮かれた日本は、陸軍の精神論、海軍の都合の良い楽観主義によって敗北を喫したのだという。 


▼    しかし、それとても、戦略的情報利用の欠如に比べれば、どうでも良くなるほどの些細な過ちにすぎない。 なんと、安倍首相の親戚、松岡洋右外相や陸軍首脳部が推し進めた三国同盟の政策決定の場には、参謀本部の情報部長がいなかったと言うではないか!!!!!  「ドイツの勝利はない」といった駐英武官報告が、握りつぶされていただけではない。 なんと、驚く無かれ。 「独ソ戦が勃発する!」という駐独武官情報は、日本暗号の解読を通してチャーチルがその事実を知って、英米ソの結束に利用したにもかかわらず、日本では「情報を信じない首脳」だらけだったというのだ。 日本では、どんなに決定的な情報を得たとしても、調整によって政策決定をくだす時に間に合わないと、有効活用できないのである。 日本は、独ソ参戦を知らされつつ、南進論を決定したのだ。 また、太平洋戦争開戦直前の対米交渉でも、「情報の政治化」を防ぐための客観的情報評価部署がないため、政権首脳部はオシント(公開情報)で右往左往した挙句、ハル・ノートで観念。 ここまでくると、日本政治は自殺したのだと考える他はない。  

▼    とにかく、『「情報局の世界」の教科書』という趣があるのが嬉しい。 ヒューミント(人的情報)は、シギントの及ばない領域をカバーとかは、素人にはたいへんありがたい指摘であろう。 第一次大戦という総力戦を戦わなかった日本陸軍は、シンガポール攻略までしか計画しておらず、軍事作戦情報しか入手しようとせず、短期的な情報運用しかしなかった。 また政治サイドも情報に基づいて政策決定を行わなかった。 現代日本のインテリジェンス活動にもつながる問題点として、

  A  組織化されないインテリジェンス  各自てんでバラバラ
  B  情報部の地位の低さ
  C  防諜の不徹底
  D  目先の情報運用
  E  情報集約機関の不在とセクショナリズム
  F  長期的視野の欠如による情報要求の不在  
       (情報を必要とする政治の創設がないと宝の持ち腐れ)

を訴えて本書は締めくくられる。



▼    なによりも、ソ連との諜報合戦は、スパイ小説さながらの、手に汗を握る凄まじさであるのが楽しい。 スパイは、潜入後、1週間でつかまるソ連KGBの凄さには驚くほかはないだろう。 ポーランドとの盛んな情報交流をおこなうもままならない。 ソ連のスパイを泳がした挙句、密かに逮捕して、逆スパイにしてソ連に送り返しても、NKVD(KGBの前身)にとっつかまってしまう。 関東軍の情報が筒抜けになってしまうことを知るくだりは、たいへん面白い。 また、雑学もかなり面白い。 インテリジェンスを重視していたイギリスは、大学出のインテリに協力をもとめたのに対して、日本は大学生を最前線に送り込んだ。 精神論が大好きな日本陸軍は、敵軍分析も、使う人間が弱いなら弱兵である式精神論で、敵より優位に立てると分析していたりしてなかなか楽しめる。
 

▼    ただ、この本を読んで、日本のインテリジェンス活動の弱さが分かった所で、何の対策も打てそうにないのが気にかかる。 本書によれば、情報の水平共有、一元的評価機関の重要性など、「情報を政策に生かす」ことがさかんに唱えられるが、さりとて実践に移すとなるとどうすればいいのか、定かではない。 形式だけなら、AからFまでのことは、明日にでもただち実践に移せるだろう。 いや、実践に移されている内容も多い。 しかし内実はどうなのか? イギリスと日本の違いを、制度の差異に還元するのはたやすいが、制度の実際の運用方法を把握するのは、困難を極める。 戦前のイギリスの情報活動は、実際、どのように運用されていたのか。 本書を読んでもブラックボックスのままなのは、そのせいだろう。 制度を運用するのは、人間であることを忘れているのではないか、と思わないでもない。


▼    たまたま、本日の朝刊では、本来、自衛隊の防諜のためのインテリジェンス機関である情報保全隊が、「市民への監視活動」をおこなっていたことが、大々的に伝えられた。 既報によると、イラク派兵反対者を「新左翼系」「共産党系」「民主系」とラベルを貼って諜報活動をおこなっていたという。 何のことはない。 このことは、自衛隊が「自民党系」、いいかえれば「自衛隊は、「自民党の党軍」 ――― あたかも、『中国人民解放軍』が中国共産党の軍隊であるがごとき ――― であることを満天下のうちに知らしめたといえるだろう。 「自衛隊とは自民党の軍隊」であって、日本の軍隊ではないのである。 この厳粛な事実から目をそむけて、だれが「自民党の諜報機関」によるインテリジェンス活動を支持すると言うのか。 インテリジェンス活動は誰のためか。 「国民」「国家」のためとは、「自民党のため」という事実から目をそむけるためのデコイにすぎないのではないか。 その疑問は、本書を最後まで読んでもぬぐうことはできない。


▼    とはいえ水準以上のできである。 一読をお薦めしておきたい


評価: ★★★★
価格: ¥ 1,680 (税込)

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Last updated  Aug 2, 2007 01:48:28 PM
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