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カテゴリ:音楽・文化
![]() ▼ 本日は、2006年5月29日、逝去した、米原万里のロシア・エッセイをご紹介したい。 これ以上、ブログを更新しないと、読者に見捨てられてしまいかねないこともあるのだが、なかなか面白かった。 ▼ 希有のエッセイストにして、ロシア語同時通訳者だった、米原万里。 その文章は、スイスイ軽やかで実に楽しい、はずなのに、題材が「20世紀における最大の実験国家」ソビエト連邦という「悲哀さ」も手伝ってか、何かしら寂寥感や「後味の悪さ」すら感じさせるのである。 ▼ 冒頭から、ロシアの代名詞、「ウォトカ」についてのお話。 大作曲家ショスタコービッチがロシアの想像を絶する汚いトイレに落ちてしまい、病原菌への感染を怖れてウオッカを体中に塗りたくったら最後、あまりの「熱さ」に一睡もできなかったという。 「温湿布」や「保温」にも、ウォッカは不可欠の存在らしい。 チェルノブイリの事件では、ウォッカこそ放射能の特効薬とされた、という。 零下50度のシベリアでは、窓を拭くのにウォッカを使うとは …… ちなみにウォッカの等級は、純度、精製度で決まるのだとか。 ご存じでしたか? ▼ エリツィンの話も、つい最近死んだだけにいたたまれない。 結局、ロシア人を信用できず、一度も選挙の洗礼を受けることなく、アメリカや日本、西側に目が向いていたゴルバチョフ。 金目当てで、統一教会や創価学会会長との会見にも、時間を割いていたらしい。 かれに比べると、エリツィンは、いつも、選挙で信任をもとめたという。 4人に1人はアル中の国だけに、エリツィンは、ロシア人にとって「親父」みたいなもの。 率直すぎる物言い、海部首相やゴルバチョフから受けた仕打ちは忘れない執念深さ、意外とお金に対して清潔(側近や周囲は違う)など、面白い話が多い。 ▼ ソ連社会については、米原万里にとってオハコ。 ポルノには厳しくても、セックスとアルコールだけは、比較的自由な国家だったらしい。 ゴルバチョフは、節酒令と反アルコールキャンペーンを展開するものの、むしろ「まとめ買い」「原料の砂糖買占」をまねき、靴クリームからアルコールを染み出させることまで行われたのだとか。 貴族階級に担われていたがゆえに、「ひもじさ」という感覚とは無縁のロシア帝国時代の古典文芸。 ソ連社会では、文学・オペラ・バレエ・芝居を始めとするあらゆる領域で、古典が重要視されていたらしい。 社会主義下では、なおさら、文芸は庶民の現実を描くことができない。 かくて、「優雅な美意識」と「現実」との圧倒的「落差」にロシア人は苛まれ続けたという。 卓絶したロシア文化論ではないか。 ▼ すでに90年頃には、ソ連国家は、末端から機能不全に陥っていたらしい。 「まったく働かない」ように思われるロシア人たちは、ダーチャ(自宅菜園)で週末、クタクタになるまで農作業をする「1億5千万人総兼業農家」状態で、ソ連時代ジャガイモの6割はダーチャで採れていたらしい。 ロシア人の途方もなく「気が長い」一方、しばしば「過激に」なる心性は、ダーチャというバッファーが可能にしている、のだとか。 ロシア人は、義侠心旺盛で、金持ちからふんだくることに良心の呵責を感じないが、貧乏人からはとらない。 日本人がロシア人と商談するときは、「ウサギ小屋」にご招待すれば、成功間違いなし!!!らしい。 とかく、面白い小話に事欠かない。 ▼ 加えて、怪しげな豆知識も面白い。 フィンランドの禁酒法のため、フィンランド人が大挙売春婦とともにレニングラードに押し寄せたため、革命後、法律上の概念として存在しなかった「売春婦」が誕生したのだそうな。 キエフ大公ウラジミールは、キリスト教に改宗するが、それは「妻は4人娶れるけど酒が飲めない」イスラム教より、「妻は1人だけど酒が飲めるキリスト教」を選んだ結果、だという。 ソ連にも、郵便局による新聞宅配制度が存在していたため、郵便当局の思惑が絶大であったらしい。 「北の隣国」ロシア社会を理解したい人にとっては必見の書といえるだろう。 ▼ かつて「世界で社会主義を実現した唯一の国」なる称号をえたこともあった日本は、今や「格差社会」化の中で、沈没寸前である。 ロシア人は、「社会主義」をかかげた実験国家を消滅させ、資本主義の荒波に巻きこまれたことで、「社会主義70年」の間、まったく理解できなかった、≪社会主義の良さ≫を初めて認識できたという。 日本人も、ロシア人同様、「戦後レジーム」を消滅させることで、初めて「戦後レジーム」の良さを認識できることになるのであろうか。 ▼ 時は、まさに参議院選前夜。 悔いのない決断をしたいものである。 評価: ★★★☆ 価格: ¥ 520 (税込) ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jun 21, 2007 12:55:33 PM
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