★ 根岸隆 『経済学史24の謎』 有斐閣 2004年9月
いやあ、実にスリリングなコラム集です(でいいのかな?)。有斐閣『書斎の窓』の連載コラム「経済学史の謎」の拡充版。本にするには、ちょっと量が足りない。そこで、ペーパーのダイジェストまで入れたので、必ずしも「謎」ばかりではなくなってしまった、とお嘆きのご様子。とはいえ、大御所の理論経済学者が、経済学史の難問に現代経済理論から取り組んでみようという姿は、なかなか面白い。文章も「ふんわり」しているので、初心者が読んでみても、なかなか面白い本になっているのがありがたい。<目次>1 『経済表』は重農主義なのか2 規模の経済か、不均衡分析か3 農業では牛も働く4 リカードウの変な経済地理5 リカードウでもできる!6 困るのは機械ではなく過剰投資7 過少消費論者ではなくサプライサイダー8 敵は本能寺(均衡理論)9 いつまでも面倒はみられない10 マルクスのサービス残業論11 マルクスの国際的搾取論12 ワルラスでマルクスを解明する13 墓誌銘は何を最大化しているのか14 企業数が大事ですか?15 ワルラス先生いわく、答えだけ合っても駄目!16 方程式が余った!17 方程式が足りない!18 返す刀でベーム・バヴェルクも19 マーシャルが生産者余剰を忘れた?20 売り家と唐様で書く三代目21 不安定ではダメですか?22 アメリカは労働集約的な財を輸出している!23 輸出が伸びるとその国は窮乏化する?24 うっかり展望論文など書くものではない!なかなか秀逸な、経済学史の「エッセイ集」になっていることがわかるのではないか? たとえば、2章。外生的な国際貿易の理論は、リカードやヘクシャー・オリーンに始まるが、クルーグマンによれば、「規模の経済」による同質国間同士の内生的国際貿易の理論も、ヘクシャー・オリーンに始まるらしい。ならば、アダム・スミスの「分業は市場の広さに制約される」こそ、内生的国際貿易論の開祖ではないか?と問題を提起。そこから、なめらかにスミスの分業論の「需要増加⇒超過供給⇒市場不均衡⇒予想外の分業促進」という、予想外の「不均衡動学」の側面を切り出してゆく。スミスが示唆するのは、不均衡状態の企業間競争から、内生的に発生する比較優位にもとづく同質国間の国際貿易論なのだ… へえ、へえ、へえ、ってなもんである。なんだか、うまく言いくるめられてしまった気がしてしまう。数式モデル付きなのに、なぜだか面白い。マルサスはケインズの先駆ではなく、サプライサイドの先駆者だ!マルクスの躓きは「時間」にある!(これは、どいつも同じだろう【笑】)リカードの分業論で出された、ポルトガルとイギリスの数字は、平均生産性ではなく、資本を含めた限界生産性の数字と見なければならないらしい。(これは、初め見たときには、僕も「変だな?」と思った【笑】)。また、アメリカは労働集約的な財を輸出して、資本集約的な財を輸入している、レオンティエフ・パラドクスはなぜ起きたのか??というのも新鮮。どうでしょう、なかなか面白い内容とは思いませんか?経済学の教科書的側面も、無くなってはいません。数式証明部分は、飛ばしてもらってもかまわない。かなり読みごたえのありますが、それにふさわしい得るものも大きい、一冊になっています。貯蓄をこえる過剰投資は、消費者が強制貯蓄という形で犠牲を強いられる。ワルラス体系では、利潤率低下の法則法則は否定される。競争を不完全にするのは、企業数そのものよりも、情報・通信・交渉・組織化コストである。収穫逓増と競争均衡の両立可能性は、収穫逓増は外部経済によるもので内部経済ではないから(マーシャルの外部経済)以外にも、生産費低下(内部経済)以上の価格低下によるもの、企業の寿命なども考えられていたという。輸出窮乏化論、輸出補助金否定論は、「2財モデル」という限界性から来ている部分が大きいという。輸出財の範囲を拡大させるならば、輸出補助金は経済的厚生を改善させるというのは、我々の実感とも一致していて、たいへん刺激的でしょう。経済学なんて知らなくても、人は生きていけます。ただ、新聞の経済欄を読みこなすには必要なもの。肩肘はらずに、いつのまにか経済学的思考に親しめる本書。秋の夜長に、ぜひ皆さんもお求めになってはいかがでしょうか。評価 ★★★☆価格: ¥2,205 (税込) ←このブログを応援してくれる方は、クリックして頂ければ幸いです 追伸そんなことよりも、経済学的な思考の技術を磨きたい!!いう方は、これがたいへんタメになってお勧めです。↓評価 ★★★★価格: ¥2,100 (税込)