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ココロの森

ココロの森

あまのじゃく

 18から22の5年間、
  
 アタシは 片想いしてた。



同級生で 後ろの席でいつも寝ていたヤツに。


彼も私も 希望する大学にスベって
都内の とある専門学校に入って
そこで出会った。


彼は 一浪してたので
ひとつ 年上だった。


その学校は いわゆる『ゲイジュツ系』で
ちょっと変わったのが いっぱいいた。
彼もちょっと 偏屈なとこがあったけど
彼の友達の方が 相当変わってて
そのクラスの中でも 際立って個性的な奴等ばかりだった。

クラスは圧倒的に男子が多く
女子は1割程度しかいなくて
その1割程度の10人余りの中でも
私は目立たない存在だった。


私は 仲のいい女の子4人同士で
いつも 教室の中ほどの同じ席に 並んで座ってた。

その後ろにいつも 彼がいた。







彼は授業中 寝てることが多かった。
寝ていなければ 友達と喋ってた。
音楽の話、バイトの話、家賃の話、
故郷の話、バンドの話、昨夜の出来事、


  そして
  
  昔の彼女。



聞くともなく 聞いていた
スグ後ろで話す 彼の声。

ノートを取りながら
友達と話しながら
時には
彼らと冗談を言い合いながら・・・。



私の記憶の限りでは
彼がまともに授業聞いてたのは
年2,3回くらいだったように思う。

それでも 実習の時は
誰よりも上手くできるヤツだった。
ノートが必要なテストの時は
前日に私のノートを丸コピーして
それでもって 私よりいい点取っちゃうヤツだった。



  『センス』があるのだ。
       私と違って。



それでちょっと カチン☆!ときて
2年になったら もうノートは貸さないと決めた。




2年になって
クラスは入学当初の約半分の人数になっていた。
随分と厳しい学校だった。
当然 座る席も変わった。
でも 彼らは何故か
私達の後ろに陣取っていた。
多分 出席率のいい私達が壁になって
寝ていてもバレにくいと思っていたんだろう。


進級しても相変わらず 
テスト前になって 彼に
「ノート貸して」 と言われた。
他の人に借りなよ、と私は言った。
他の人だって ノート取ってるじゃん、
私だって今日帰ってから勉強したいの!
 
でも 彼は言うんだ。

 「お前のノートが一番見やすい。
  自分でちゃんと まとめて書いてる。
  他のやつのは ただ黒板のを書き写してるだけだから
  わかんないんだよ、あれじゃダメなんだ」



   ・・・   ふぅ~~ん   ・・・






    わかったよ、




私は ちょっと不貞腐れたみたいに言った。
 でも私も帰って勉強したいから
 5時までにコピーして返してね。

「うん、わりぃな。
 ありがと。急いでコピーしてくっから!」




で、結局 私は1時間ほど 
友達とお茶しながらノートを待ってた。
ノートを持ってくる人を待ってた。

 『なんで こうなっちゃうんだろうね』

友達と苦笑しながら。




ノートを返しに来たのは
彼の友達だった。

「あ、これ。返してきてって頼まれたから。
 サンキュ! ついでに俺もコピーさせてもらった♪」





明くる日、教室に行ってみて驚いた。
クラスの9割が 私のノートのコピーを持っていた。
自分の席に辿り着くまでに
あちこちから声がかかる。
「Fさん、ありがと!」
「Fさん、助かるよ!」
「すげぇわかりやすいよ! 次も頼む!」







・・・ちっとも嬉しくない。
   
 

   なんなんだ、アイツ!!
   
   
   ナンナンダ!! アイツ!!!





結局 そのテストも
ヤツは ほぼ満点で 
私は8割そこそこだった。






 ・・・イッタイ ナンナンダ! アイツハ!!
    








就職の時期になった。


彼は 大手レコード会社を希望していた。
彼の実力なら 当然
この難関企業も受かるだろうと思った。
成績よりも技術が要求される職場でもあったから。



試験の日、クラス一の才媛と共に 彼は試験に望んだ。



そして 才媛嬢だけが受かった。






私は ラジオ局の仕事を希望していた。
テレビ局は 嫌だった。
私には派手すぎる世界だし 
そこでは本当のことは伝えられない気がした。
ラジオの方が 
受け手の心に届くことが出来そうな気がした。

でもラジオ局は TVより門戸が狭く
私のような専門卒には 狭き門だった。



ラジオ局の他に 
もうひとつ やりたい仕事があった。
その仕事を 最初に選ばなかったのは
彼の方が ずっとずっと 
その仕事のセンスがあったのに
彼が その仕事を選ばなかったからだ。


 でも


「俺 地元のバイトで
 その仕事やってたんだ。
 社長にも気に入られて
 卒業したら社員になれって言われてる。
 でも キツイよ、あの仕事は。
 すごく キツイ。
 男でもキツイんだ。
 お前は やめといたほうがイイ。」




レコード会社に落ちた彼にそう言われて 
私は俄然、やる気になった。




 その仕事をしているプロの女性は
   当時 まだいなかった。


それでも どうしてもやりたいと担任に頼み込み
何とか女性を受け入れてくれそうな会社を一社、
紹介してもらった。



その会社の面接には
クラスからあと3人 面接希望者がでているという。
小さい会社だけに
新入りにもガンガン仕事を任せる所で 人気があった。
私を入れて 4人面接に行って
3人採用される予定だという。




 落とされるのは 私だろう。




そう思った。
落とされるとわかってて行くのは 嫌な気分だったけど 
開き直ったら かえって緊張しなくていい。


そう思ったら 何だか気が楽になって
妙にニコニコしていたらしい。
気分よく歩いてる私のところに 友達がやってきて
意味あり気に笑って こう言った。



 「彼と同じトコ、 受けるんだって?」

  


    ・・・え?
    




    うそお!!!




そんなはずない!
彼は あんな仕事はゴメンだと言ってたんだ。
私のこと 物好きだって言いたげに見てたんだ。
そんな彼が 同じ会社 受けるわけがない!
おんなじ仕事、 選ぶワケないじゃない!!



私の狼狽ぶりに 友達はさらに確信を持った笑みを浮かべて
 
 頑張ってね、

といって 行ってしまった。




 なんで? なんで?? 
 
  なんで??? なんで????

    


   なんでなのよお!!!!!!!








結局 その音響照明会社に入社したのは
彼と いつも彼の隣に座ってたギタリストと 私だった。


私は おそらく
5月で結婚退職する事務員の後がまを兼任するのに適当
という理由で 採用された。
他の二人は 初日から毎日現場に出て仕事をし、
私は事務所で 電話番やらお茶くみやら掃除やらをして過ごし
現場に出して貰えるのは ひと月のうち1/3くらいなものだった。

もともとアルバイト等で仕事のノウハウを覚えていた彼等は
仕事の覚えも早かった。
現場に出して貰えない私との技術の差は どんどんつき
1年経った頃には もうおそらく追いつけないだろうな、
と感じるまでにその差はひらいていた。



丁度その頃、
元同級生で親友のT子が中途採用された。
TV現場の仕事の連続で 体調を崩したT子に
「ウチなら女子は事務と現場と交互だから 幾分楽だよ」と
私が薦めたのだ。


元々 社交的なT子に
元々 内弁慶なアタシ。


同級生との久々の再会で
話題に欠くことのない彼らとT子。

競馬も F1も ゲームも パチンコも
T子と彼等は 話が合う。


私は どの話題にも入れなかった。

入ろうと しなかった。




自分で自分がイヤになる程
自分の中で イライラが募っていった。






仕事にも自分にも限界を感じ、
私が会社を辞めると決めた翌年の秋

何故か 彼とT子と私と3人で飲みに行く羽目になった。
たった 3人。
同期だけの 特別送別会。



 行きたくない。

 こんなメンツで 行きたくない。




T子と2人で飲むことはよくあったけど
アタシはいつも彼の愚痴ばかりこぼしていて
T子はいつも聞いててくれて 慰めてくれて
アタシと彼は相変わらずで

こんな3人で飲んでたら 自分がどうなるかくらい
いくら馬鹿なアタシでも 見当がついた。

行きたくない、行きたくないよ。。。





オープンしたばかりの
新宿のカフェバーに行った。
T子と彼は 楽しそうに盛り上がってて
アタシは隣で なるべく口を挟まずに黙って飲んだ。

自慢じゃないけど 酒は強い。
こんな店の 薄いカクテルじゃ
何杯飲んでも ちっとも酔わなかった。


時々T子が気を使って 話を振ってくれたけど
「ああ」とか「うん」とか返事をするだけで
ロクに目も合わさなかった。


 そんな私を 彼がからかう。




 「今日 <は> 御機嫌 斜めらしいね」





 それでも アタシは黙ってた。



 口を開けば ケンカになる。

 彼に 目茶苦茶八つ当たりして 
 
 場をぶち壊してしまうだろう。




 黙ってグラスを口に運ぶ。





 ── どうしようもない。


    どうしようもない。


   どうしようもないのよ、
    
     この気持ち。





 ── どうしたらいいの?

      
    どうしたらいいの?


    
    どうして 素直になれないの??

    

    どうして 意地悪ばかりするの?






ひとりよがりの 空回り。
頭の中で ぐるぐる回る。



 だから 黙ってた。

 黙って 飲んでた。








彼は ずっと前から

アタシの気持ちを知っている。


知ってて知らないふりしてる。

おそらく ノートを貸してた頃から

彼は アタシの気持ちを知っていた。


それでも 知らないふりしてる。


今でも 知らないふりしてる。



知らないふりして 楽しんでる。




そんな彼が どうしても許せなくって
身勝手な理由だけども 許せなくって
涙がでそうになるのを こらえて飲んでた。






 彼は 益々酔ってきた。
 
 酔って益々 調子づいてきた。



 T子の肩に手を回して やたらちょっかい出しはじめた。

 T子は慌てて振りほどいたけど
 彼は構わず また手をまわす。




 そんなことをしながら彼は 
 ちらりと 私の方を見るのだ。










 
    ・・・切れた。











  プッチン、と 音を立てて

  アタシの理性が切れた。








 ガタン、と立ち上がった次の瞬間
 
 アタシは 
 
 自分でも信じられないくらいの大声で 怒鳴った。







 「バカヤロー!! 
  
  アンタなんて アンタなんて
 
  何にもわかってないじゃない!!!」
 






店中の客が振り返った。

アタシは 泣きそうになりながら

でも不思議と冷静に 

今度は落ち着いて言った。



 
 「あんたって ホントに何にもわかってない。


  最ッッッ低!!」





鞄とジャケットをひっつかんで
アタシは外に出た。

T子が慌てて 追いかけてきた。


 彼は 呆然と見送っていた。








泣きながら駅に向かった。

歩きながら 何だかドラマみたいだなって思って
そう思ったらおかしくって 
ちょっと笑った。


T子が追いついて 謝ってきた。
アタシ以上に動揺してた。


 ううん、ちがうよ
 違うんだよ、T子。
 あんたのこと 怒ってるんじゃない。
 
 アイツがイヤなの。
 アイツのことが許せないの。



 アイツ ずるいよ。
 アタシの気持ち知ってて
 あんたにあんなことしてさ、


 ずるいよ!

 ずるいんだよ!

 許せないんだよ!







・・・ でも 好きなんだよ ・・・



    どうしたらいいの?







その後、T子と私は
いつもの店で飲み直し


彼は 記憶が無くなるまでひとりで飲んでいた、と

後から人づてに聞いた。










10年後  ──



彼はギタリストの結婚式に出席し
偶然再会した専門学校時代の同級生と結婚した。

再会からわずか3ヶ月のスピード結婚だったそうだ。

その話を聞いたときは
私も心底 驚いた。

その彼女は
彼のことが好きだって言ったアタシを
一番「物好き」って目で見てた子だったのだ。





   人生 何があるか わからない。

  

   人生 何がどうなるか わからない。



   だから 恋も人生も 楽しいんだ。






                


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