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ココロの森

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第2話(NEW)



    第2話  爪のおしゃれで搭乗拒否 



  波乱の出国審査も何とか無事に通過した。
 出発まであと20分ほど時間がある。
 搭乗ゲートに向かう途中のDFS(免税店)で、やまだが買い物がしたいと言いだした。
 ブランドものなどには一切興味の無い私達である。
 一体、免税店で何を買いたいというのだろうか?

 「爪ヤスリですよぉ。
  ほら、ヨーロッパの女性はマニキュアとか、爪の手入れをちゃんとしてるって言うでしょう?
  それも向こうではエチケットだって。
  だから今回は、私もマニキュア塗ってこようと思ったんだけど
  忘れちゃったから、せめて爪ヤスリでキレイに磨いておかないと、と思って。」

 ・・・全く、さっきまで半ベソをかいていたというのに、
 よくそんなこと思い出す余裕があるな、と変な感心をしながらも
 まあ、買うものが決まっているんだから、ことは早く済むだろうと思い、買い物に付き合うことにする。

  さて、あちこち探して爪ヤスリあることはあったのだが、結構大きい。
  12,3センチほどもあって、とても旅行用ではない。
  しかしそれしか置いていないので、やまだは仕方なくそれを買った。


  やまだが会計している間、店の外でぼおっと待っていると
 鮮やかなグリーンの制服のスチュワーデスさんが足早にやってきた。

 「お客様、アリタリア航空を御利用ですか?」
 「はい、そうですが・・・」
 「他にお客様はいらっしゃいますか?」
 「はい、あと一人。すぐ来ます。そこで会計してますので。」

 スチュワーデスさんは先程とは一転、険しい表情になりトランシーバーで何処かに連絡を取り始めた。

 ・・・あれ?もしかして、ヤバイ?

 「お買い物が御済みになりましたら、そちらで手荷物検査の後、
  スグに41番ゲートにお進み下さい。間もなく出発ですので」
  え?!でも、まだ15分以上、時間あるのに・・・
 などとのん気なことを考えているうちにやまだが出てきた。

 「急ごう!もうすぐ出発だって。」
 「え?!でも、まだ大丈夫ですよ?時間・・・」

 訳もわからず言いあいながら、目の前の手荷物検査へ向かう。

  私がゲートを通過すると

  ピーーーーーーーー!!

  鳴ってしまった・・・何だろう?

  そうだ!この妙に重量感のある銀のバレッタ!!
 前に羽田でも鳴らしてしまったことがあったっけ。
 ばか笑いするやまだの後ろから、バレッタを外しもう一度通過。
 よし、今度はOKだ。

  X線を通した手荷物を受け取ろうとすると、今度はやまだが呼び止められた。

 今度は何だ?
 「お客さん、果物ナイフ、持ってますね?」
 「失礼ですが 中を見せていただきます」
 男性係官とX線モニタを見ていた女性係官の2人が、緊張の面持ちでやまだの手荷物を検査し始めた。

  果物ナイフ?!
 何でやまだがそんなものを持っているのだ?
 機内にナイフ類を持ち込めないのは、いくら地球外生命体のような頭脳構造を持つやまだでも知っているはずだ。
 彼女の方を見やると 私は知らない、というような顔で首を横に振っている。


  一体何が…

  ・・・!!!

  そうだ! さっき買った爪ヤスリ!!

  確か形が果物ナイフにそっくりだ!
 慌てて係官に申告する。  「あの、それ、爪ヤスリだと思います。 
  さっき彼女がそこのDFSで買ったんです! 
  ナイフじゃありません!」
 係官が怪訝そうな顔でこちらを見やる。
 そりゃそうだ。なんで旅行にこんなデカイ爪ヤスリ・・・
 やまだにしまった爪ヤスリを提出させ再度説明。
   無事、爪ヤスリも没収されず、なんとか手荷物検査も終了した。


 「藤紫さん、よく思い出しましたね。
  私、爪ヤスリのことなんか、すっかり忘れてました。」
 「自分で買ったものなんだから、そのくらい思い出してよね!」
 2人で大笑いしながら搭乗口である41番ゲートに向かう。
 「それにしても形といい、素材といい、どう見てもX線では果物ナイフだよね」
 「ほんとほんと!
  え?ナイフなんて持ってないよ?って、また泣きそうになりましたぁ」
 「うん、また顔が青ざめていくの、私にもわかったもん」
 時折笑いすぎて歩けなくなるほど、ひぃひぃ転げまわるオンナふたり。

  と、そこへ眼鏡をかけたおじさんが走り寄ってきた。
 「君たち、アリタリア航空乗るの?」
   「はい、そうですけど」
 「だめだよ!遅刻だよ、遅刻! 走って走って!!」
 と言いながら、おじさんは搭乗口に向かって猛ダッシュを始める。

  え?遅刻? だって、まだ出発まで10分以上もあるよ??

  しかし、おじさんが早く早く!と攻め立てるので私たちも慌てて走る。

 「なんで走んなきゃいけないのぉ~?」
 「知らないよ、そんなの!とにかく走らないといけないらしい…」
  息せき切って搭乗予定のAZ789便に乗り込んだのは、出発予定時刻の10分前だった。

 ・・・のだが
 どうやら、出発時刻が搭乗券に書いてある予定時刻より10分早まっていたらしく
 私たちは正真正銘、遅刻ギリギリの最後の乗客だったようである。
 私たちが席に着くのとほぼ同時に、搭乗口は閉められた。

 「何だか まるで私たち、『弥次喜多珍道中』ですよねぇ~」

  ・・・やれやれ、全くその通り、と思いながら
 ゆっくりと動き出した機体のシートに、ほっと身体をうずめた私なのだった。




                       第3話 機内で旅行計画 につづく。


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