第4話(NEW)第4話 イタリア時計事情 飛行機はヨーロッパ上空に差し掛かっていた。 10時間以上も座りっぱなしだと、もう『V字バランス』をやっていてもツライ。 狭いシートで様々な姿勢をとってみるのだが、足はむくみきってパッツンパッツン、肩は凝るわ、腰や背中は痛いわ、どうにもこうにも落ち着かない。 できることなら機内の通路を3往復くらいランニングしたい気分だが、当然のことながらできるわけない。 そんなこんなで、もぞもぞやっているうちに夕食の時間になった。 動かなくてもお腹が減る私達は、ワゴンが見える前から早々にテーブルを準備する。 夕食のメニューリストの中には 『デザート : キャラメルプリン』とあった。 出発早々、目ざとくその文字を見つけていた私達は なんだか機内食からイタリアン・テイストだね♪と わくわくしながら待っていた。 ・・・が 出てきたのは タカナシの『牛乳たっぷりプリン』だった。 いや、牛乳プリンは大好きだ。 私もやまだも、大好きなのだ。 でも・・・ 哀しい。 でも・・・ おいしい♪ その食事中に、機体が大きく揺れた。 ひどい揺れではなかったが、飛行機体験2度目のやまだは、少々ビビっているようだ。 「・・・これ(牛乳プリン)食べてるときに落ちたらイヤですよね」 「大丈夫大丈夫、今くらいの揺れなら全然へーき♪」 海外旅行7度目の私は、余裕で食べ続ける。 「・・・どうせ落ちるなら、これ食べ終わってから落ちて欲しいな・・・」 ・・・・どうせ落ちるなら、私はイタリアを一目見てから死にたい。 牛乳プリンもぺろりとたいらげも尚、キャラメルプリンに心を残しているうちに、飛行機はミラノに到着した。 さて、ここからが問題の乗り継ぎである。 ドキドキ、ドキドキ・・・ 乗り間違えたらどうしよう。 出発に間に合わなかったら・・・ が、そんな心配は取り越し苦労であった。 成田で旅行会社のお兄様に言われた通り、拍子抜けするほどカンタンだった。 まずゲート出口で、スチュワーデスさんが乗客ひとりひとりに 「Roma?」と訊ねてくれる。 (ローマ?、とは発音せず、ロマ?、というのだが、 最初に『ラバ?』と聞き間違え、何のことかわからず、 やまだとふたり、馬鹿みたいに口をあんぐりあけて 「はあ?」などと問い返してしまったが・・・) YES、と答えると、右腕側を示して 「ロクー」 (日本語の『6』) と、ゲートナンバーまで日本語で丁寧に教えてくれる。 おお! なんて親切なんだ! 私達も 「Grazie(グラーツェ=ありがとう)」 とお礼を言う。 イタリア人は、挨拶をとても大事にする。 挨拶は、イタリアの旅の基本なのである。 (↑本の受け売り) そして、イタリアでは 人や電車が遅れたりして待たされる、ということも日常茶飯事である。 なので怒ったり、焦ったりしてはいけない。 6番ゲートに向かう前に、手荷物検査の再チェック場所があった。 だが検査の列が一向に進んでいない。 飛行機は私達の便が着いた後からも続々と到着し、 列は どんどん長~くなる。 しかし審査の順番は一向にやってこない。 それもそのはず、 手荷物検査の係員が誰一人いないのである。 機械も当然のごとく、止まっている。 よって列は長~~~~~~~~~~~くなる一方なのである。 それに気づいたスチュワーデスが急いでやって来て 無線で何処かに連絡する。 15分ほど後、ようやくねぼけまなこの係員が2人やって来た。 『何だよ、仕事? めんどくせぇなあ』 と言わんばかりの顔つきで機械のスイッチを入れ、X線モニターを横目で見つつ 『早く終わらねぇかなあ・・・』って感じで仕事をしている。 ずーっとこんな調子であるから、成田の手荷物検査の際ひっかかった、 あの、やまだの持ち込んだ果物ナイフ・・・いや爪ヤスリも ミラノでは難なく通過してしまった。 ・・・きっとあの調子では、ダイナマイトを持ち込んでも無事通過してしまうに違いない。 恐るべしイタリア、である。 6番ゲートのあるロビーは、とてもキレイだった。 ベンチもおしゃれで座り心地がいい。 こういうインテリアや空間デザインのセンスが、日本の成田空港にも、かけらほどでもいいから欲しいものだ、とつくづく思う。 出発時刻の午後8時まで、まだ40分以上あったが 成田での遅刻事件の教訓を生かし、ゲートのすぐ側で待つことにした。 ここなら、時計もゲートも目の前だし・・・と目の前の壁のデジタル時計に目をやる。 ・・・え? 3時50分? 今は7時30分のはずだ。 さっき機内でイタリア時間に合わせた腕時計は、間違いなく7時半を指しているし、やまだの腕時計も同様である。 ということは。。。 そう、信じられないことに空港の出発ロビーにある時計が止まっているのだった。 このロビーには、他に何箇所か壁時計があったのだが 驚いたことに全部別々の時刻を指して止まっていた。 唯一、正確に動いているのは、ゲートの真上にあるデジタル時計だけだ。 しかも、この6番ゲートの上、たった一ヶ所だけ・・・。 後々、ローマに着いてからわかったのだが、こういうこともイタリアでは当たり前なのだ。 街角の時計の8割は、壊れているか10分以上遅れていた。 そんなわけで、乗り継ぎの飛行機は当然のようにかなり遅れて出発した。 さあ、目指すはローマ。 今度は約1時間のフライトである。 第5話 ローマ真夜中道路事情 につづく |