ココロの森

2008/05/18(日)14:38

『落窪物語』花村えい子/画

読書のココロ(エッセイ・その他)(116)

  (マンガ『日本の古典』シリーズ) 学生時代、あんなに好きだった古典文学から離れて久しい。 『落窪物語』も、タイトルを見て、どんな話だったか咄嗟に思い出せない自分に 軽くショックをうけて、読んでみることに(笑) ああ、そうだった。 日本版シンデレラだったわ。 <あらすじ> 容姿もこころも美しい姫は、母親を亡くし、父親の中納言家で暮らしているが 継母に虐げられていた。 几帳も御簾も道具もなにもない、屋敷の隅の落窪んだ一角が姫の部屋。 (故に継母は姫を「落窪の君」と周囲のものに呼ばせている) 手先の器用な姫は、普通なら下働きのものの仕事である裁縫が上手で 継母はこれ幸いと家のものの装束をすべて姫にいいつけて縫わせている。 継ぎはぎだらけの着物をまとって、寝る間も与えられず異母兄弟の衣装を縫い続ける日々。 そんな姫にたったひとり仕えていた賢い女房の阿漕(あこぎ)まで、 継母の言いつけによって引き離されてしまう。 何とか姫を助けたい阿漕は夫に相談、 夫の主人である少将は、可哀想な姫の話を聞いて心惹かれる。 姫の元に通うようになった少将の存在に気づいた継母は、 少将が思いもかけず立派で美男子なので 少将を自分の娘と結婚させようと企み、落窪を納屋へ閉じ込め 好色で有名な老人と結婚させてしまおうとする。 そのひどいやり口に憤然とした少将は、ついに屋敷から姫を救い出し、 自分の屋敷へと連れ帰る。。。 ・・・と、ここから少将の、継母への復讐劇が始まるのだけれど これがまあ、マンガで描かれているからまだ軽いタッチで読めるものの 相当いぢわるで、巧妙。 原文で読んだら、さぞや恐い言い回しなんだろうな  相手(継母)の面目丸つぶれ話の連続で もう、こんなやつ、絶対敵に回したくない!と心底思う(笑) 一方、姫は本当にココロが清らかで優しいので、復讐心は一切ない。 なき母の形見を取られても 「気に入っていらっしゃるのだから、よいではありませんか」 夫の策略で、牛車のなかで一夜をあかすこととなった継母一団にも 「お車の中で一晩過ごすなんて、おいたわしい」 挙げ句に、乳母の策略で夫が他のオンナと結婚するという噂を耳にした時も ひとことも夫を責めず 「お相手の方の婚礼衣装を縫って差し上げようと思って・・・」 あまりにもいい人すぎて、もはやホラーの域。 うがった見方をすれば、 これだけのいぢわるが出来る男と、ホラー的献身女というのは 現代でもよく見かけるような、 ある意味、お似合いのカップルなのかもしれない それでも丁寧に縫い上げられた美しい装束を見て、少将が 『ひと針ひと針に、縫い上げた人のこころがこもり  そのこころが美しさとなって表れるのでしょう』 なんて第三者に(自分にしかわからないように)ノロけ気味いう表現は、 やっぱり昔ながらのあまやかさがあらわれていて、いいなあと思う。 ひと針ひと針、丁寧に縫い上げた着物が美しいように いち日いち日、丁寧に生きていけば きっと着心地のいい日々という「着物」を、まとえるに違いない。

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