初めてのアフリカ出張(4)ライベリア(リベリア)銃口と大蜘蛛の狭間で
High house, GO-! バーン、パシ―ンうぉー!Low house, GO-! バ―ン ここはライベリア奥地にある鉄鉱山の欧米人居住地区にあるシュ-ティングクラブの射撃場。誰かが打った銃弾がhigh houseから発射された皿に命中したみたいです。ここに着いて約1週間目の今日は休日で、朝から様々なクラブに顔を出して親交を深めているところです。この鉱山には、200人ほどの欧米人が居住しており、夫人または家族同伴の人も多いようです。別荘のような住居やゲストハウス、レストラン、バー、各種クラブが丘の上に点在するこの地は、言うなれば楽園のようなところでしょうか。今日はこれから宿舎のゲストハウスに戻り、レストランのテラスでオリ―ブとピーナッツをツマミにビールを飲み、その後はこのレストラン名物であるクラブサンドウィッチを食べるのが、来てからの習慣になってしまいました。しかし、ここの人たちに愛想を振りまいているのとは対照的に、Iさんと私の気持ちはそれ程弾んではいません。ライバル社がかなりの人物金をかけて、ここに食い込もうとしていることが分かったからです。うかうかしてはいられません。明日朝一に購買担当部長に面談し、ライバル社の動きを見極めなくてはなりません。それに実は、もう一つ気になることがあります。むしろこちらの動きがより心配なんですが。数日前に反大統領派がクーデタ-を起こし、首都は戦乱の中にあり、両派の争いが我々のいる北部地方に近づいているというのです。とはいうものの、先ずは腹ごしらえです。起こる前からあれこれと心配してもしょうがないですから。私は腹が満たされれば結構楽観的なんです。パ-ン、パーン急に花火のような乾いた破裂音が聞こえました。時計を見ると午前1時前です。夕食時にドイツ人のレストランオーナ-から、今晩は部屋から出ないほうが良い、と忠告を受けていました。物騒なことになるかもしれないから、と。パンパンパン、と今度は4,5発の銃声が聞こえます。チョッとやばいかも万が一に備えて、もう一度逃げ出すときの手荷物を確認します。とにかくパスポ-トと現金です。これさえあれば何とかなります。銃を突き付けられたらどうしたらいいんだろう。とにかく手を上げて動かないことだな。今夜は寝ることは諦めてじっと情勢を見守るしかないな、と思い先程迄読んでいた文庫本を読み始めます。好きなミステリー作家の小説なのですが、何人も殺されるので今晩は余り気が進みません。読むのを諦めて、横になっていたベッドの上で体を横にひねった時、「それ」が視界に入りました。「それ」は私のすぐ横のベッドの上をこちらに向けてゆっくりと歩いてくるところでした。今までに見たこともない大蜘蛛でした。大きさは私の大きな掌サイズだから、20cmくらいでしょうか。どうしようか。その時の私は結構落ち着いていたと思います。勿論、蜘蛛、それもこんな大蜘蛛は大嫌いですが、ゴキブ〇みたいに飛ばないし襲い掛かってくることもないので、そ-っとベッドから降りて洗面所にあるコップに水を注ぎます。雑誌か何かで叩くことも考えましたが、後始末が嫌なのでとにかく追い払う事に決めました。蜘蛛はベッドの上でじっとしているので、開いている手で風を送り蜘蛛に動け、とせかします。すると蜘蛛は動き出しベッドの端から下に回り込もうとするではないですか。正直ちょっとパ二クリました。ベッドの下にへばりついたままだとこちらは今晩ベッドで眠れません。慌てて持っているコップの水を手で撒き、蜘蛛がベッドの下に降りるよう誘導します。ベッドが濡れようが構うこっちゃありません。今はこちらも必至です。やっと床に降りてくれました。こうなればしめたもので、ここからはコップの水を手で派手にまき散らし、ドアに誘導します。ドアを開けて蜘蛛に水をかけ続けると、蜘蛛は慌てふためいてドアの外に出ていきました。私は静かにドアを閉めるとホッと息を吐きました。そしてゆっくり振り返ると、ベッド周りは勿論のこと、部屋中をチェックして何も生き物がいないことを確認してからベッドに入り、兎に角眠ろう、と考えました。あれから銃声らしきものは聞こえません。Iさんはどうしているのかな、とは考えましたが、部屋をノックするのはやめました。もう寝ている可能性もありますから。明日は朝からやることがあるので。起きていてもやることが無いのなら眠るしかない。何か起こったらその時はその時だ、と腹をくくることにしました。長い夜が明けました。何度か目が覚めましたが、銃声は聞こえませんでした。今は朝7時ですが何の音も聞こえません。やっとIさんの様子を見てみようという気になりました。3つ離れた彼の部屋をノックすると、入っていいぞ、という声が聞こえます。入ると既に着替え終わっており、さあ朝飯食べに行こう、と言います。食堂は別棟にありテラスからは眼下の村が見渡せますが、食堂内はもとよりそこから見える通りや村には人影や走っている車の姿は見つかりません。「まさか、皆何処かに逃げたってことないですよね?」「それは無いだろう。あと30分待って誰も来なければ事務所に行ってみよう」結局誰も来なかったので、車で事務所に向かいますが、道には人っ子一人いません。事務所にはかぎが掛かっており中には入れません。どう仕様もないので、またゲストハウスに戻りますが、そこにも誰もいません。Iさんの考えはこうです。ク-デターの勃発で非常事態宣言か戒厳令が敷かれて外出禁止になっている可能性があるから、このゲストハウスでじっとしていたほうが良いのではないか。下手に動いて拘束されでもしたら身の危険が危ない。確かにその通りかもしれません。そうだとすると朝食だけでなくランチも怪しくなります。もしかしたら夕食まで…。そこまで考えたら一気に体の力が抜けてしまいました。ここにきて初めて、事態が容易ならないところまで来ていることを悟りました。これは動かないでじっとしているしかないな。動けば腹が減るばかりだし。手持ちの食料で今日一杯何とか生き延びられそうだという事を、頭の中でざっと計算してまずホッとします。私はとにかく兵糧攻めに弱いんです!いくら何でも明日には何かまともなものが食べられるだろう、そう信じるほかありません。〈つづく〉2つのブログランキングに参加しています。↓ポチッと押していただけたら嬉しいですありがとうございますにほんブログ村にほんブログ村