風鈴文楽夢綴り🌸 🌸 今日も笑顔で毎日ルンルンスキップ しよう🌸

2022/02/21(月)14:46

あ る 兵 士 を 支 え た も の 松 本 清 張( 作 家 )  そ の 5

元 日 本 兵 ・ 横  井  庄 一(33)

​​​​​あ る 兵 士 を 支 え た も の 戦 陣 訓 と 生 へ の 執 着 ​頼 ら れ て は 危 険 ​ 軍隊では、器用な兵に、そうでない他の兵たちが何かと依存しがちである。 平時はそれでもよいが、食糧や生活具を自ら生産せねば自分が生きて ゆけない状況の場合は、そうした他の依存者は負担になるだけである。 戦友愛とか同志愛とかいう通常観念ではこの場合を批評できない。​​​ 拾った針金で縫針ををつくるような辛苦の物品などを分け与える ことは、自己の生命を分与するようなものである。 孤絶した密林の中でも、人間が2人以上いる限り、 極限的な人間ドラマは生じる。 前の皆川さんの談話にも梅野さんという人と3人で住んでいたとき、 仲間割れが起り、伊藤さんが1人で離れて住むようになった、 と述べている。 新聞が伝える今度の横井さんの話にもそれらしい 「 葛藤 」がうがえる。 ( ロビンソン・クルーソーの場合は、従者だったから、 作者は2人の間に面倒をひき起させる必要はなかった ) だが、これを通常の意味の「 エゴ 」にとっていっては決してならない。 木の実一つ、川エビ一つ採るのにも命がけで、その貯蔵には 文字通り生命がかかっている。 他に分与する行為は自分の生命を短縮することなのだ。 横井さんは内向型の性格のようだが、この「 頑固 」な 性格が生命の持続につながっていたと思われる。 ​家 族 制 度 の 暗 さ も また、​横井さんが密林から出て行くのをためらった気持の一つには、 実家に「 厄介もの 」視されるという気おくれもどこかにあったのでは なかろうか。 ​親族の録音テープに答える横井さんの言葉にそれが感じられる。 戦前の家族制度のきびしさは、現在の核家族状態からは想像されない。 実印を肌身はなさず持っていたという横井さんの内向的な 性格には旧(ふる)い家族制度との関連をみるような気がする。 老後の横井さんに十分な安楽を享けてもらうことが、28年間の 超人的な苦労に対するいちばんの慰めであろう。 マスコミが、もの珍しさを主に扱うのは忍びないことである。               お  わ り 上記、記述は、1972年(  昭和47 )1月、 新聞に掲載されたものです。​

続きを読む

総合記事ランキング

もっと見る