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文の文

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木挽町





木挽町界隈

歌舞伎座入り口と切符売り場を通り過ぎ、「暫」なんて名前の喫茶店を見てなおも進むと木挽町通りにぶつかる。

木挽町というのは400年ほど前には江戸城造営関係の鋸匠を住まわせたところなのだという。

地名の由来にひとの息遣いが感じられると、なんだかうれしくなってしまう。

その地に住んだひとびとの暮らしがふわっと浮かんできて、朝な夕なに互いに掛け合う挨拶の声なんてひょいと聞こえてきそうなきがしてくるからだ。

先日の歌舞伎見物で、夜の部開演まで時間があったので、ここいらをぶらりと歩いた。何年も通っていながら、いつも時間がなくて歌舞伎座往復しかしていなかったが、気がつけばそのうかつさが口惜しいくらいに、ここはなんとも味わい深い通りである。

まずは歌舞伎座の脇腹に沿って歩く。するとこんなものを見つける。

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歌舞伎座の勝手口だ。玄関とは打って変わっての眺め。確認画面をのぞいているとき、大きなバッグを抱えた男性が扉を開けた。

目を上げるとその人が振り返った。引き締まった精悍な顔つきにどきりとする。

黒ずくめの服装からすると舞台関係者のひとか、と思うが、開演が迫るこの時刻に入っていくのは、どういうことか、とも思う。掛け持ちをする囃し方さんかな。

そのひとが入ったあと、扉がきちんとしまらず隙間ができている。ちょっと中をのぞいてみたいなあと思ったが、通りをいくひとがこちらをみるのであきらめた。

あーあと思ってうえをみると3階あたりの窓が開いていて、天井の配線が見えた。勝手口同様、それはいかにも古かった。それも歌舞伎座ならでは、なのかもしれない。

通りにはこんなものも並ぶ。

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Tシャツと足袋が並ぶのが歌舞伎座らしい。なんとなく巡業みたいな感じもする。

通りの詳細はこちらにあるが、なんだかただものじゃないよな、と感じさせる店舗が並んでいた。

古きよき時代というのがいつのことをさすのかはよくわからないが、ここはたぶんよき時代の名残が誇りとともにのこされているのだろうと思われる。そんな自負の感じられる通りなのだ。

そのなかの一軒、アクセサリー屋の前で足が止まってしまった。なんとなく店頭のワゴンを見てしまう。と、店員さんに声をかけられ、中に入ってしまう。一瞬前までそんなつもりは毛頭なかったのになんだかそこで話し込んでしまう。

ふっくらとした店員さんも感じのよいひとだったが、奥にいた男性、店長さんだと思うが、またなんだかさわやかなひとだった。

その店は天然石を多く扱っていて、40台前後で育ちのよさそうな顔立ちの店長さんが石のもつパワー、さまざまな不思議について穏やかに、しかし、熱心に話された。

「自分の本来持っていて気づいていない力を石が引き出してくれるのです」
「宗教と同じで、信じるも信じないもあなたしだいですが、確かに石の力は存在し、素直にそれを信じ、学んだ人はしあわせになれます」

「ふむふむふむ」と相槌をうち続け、それでもわたしが買ったのは千円の木のビーズのブレスレットだった。素直じゃないね。

よい喫茶店が並んでいた。日本茶の飲める店もあった。ああ、いいねえ、入りたいねえと思いつつも、開演の時刻が迫っていたので素通りした。

いつかだれかを誘ってたずねよう。話のおもしろいひとがいいな。喫茶店をはしごしても話のタネのつきないひと。





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