2007/04/03(火)15:00
『巨人傳』
ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』(「ああ無情」というタイトルの場合もあり)を翻案した作品。『赤西蠣太』などの監督作や『無法松の一生』『手をつなぐ子等』などの脚本を著した伊丹万作監督の遺作。
フィルムセンターで開催中の「シリーズ・日本の撮影監督(2)」にて鑑賞(2007/3/24)。
『巨人傳』 評価:☆☆☆☆
各種の映画データベースなどでは『巨人伝』としているが、映画は旧字の「傳」を使用していたので、タイトルはそれに従い旧字にした。
この手の翻案ものは外している場合が多いので、予想以上に面白かった。
(翻案とは違うが『レ・ミゼラブル』ものの最高傑作は、マンガ家のみなもと太郎による『レ・ミゼラブル』(潮出版社→ブッキング)だろう。ギャグマンガにアレンジで、小学生時分からの私の愛読書。)
ジャン・バルジャンにあたる役(怪力の三平、大沼町長)を大河内傳次郎、コゼットにあたる役(千代)を原節子、ジャベールにあたる役(曽我部弥次郎)を丸山定夫、マリウスにあたる役(清家龍馬)を佐山亮が演じ、フランス革命→西南戦争、司教→和尚(汐見洋)、盗んだパン→ニワトリ、マリウスを抱える地下下水道→小川、などに置き換えられている。
まずは、長大な原作を手際よく2時間強にまとめた脚本がよい。時系列通りではなく、一部を回想シーンとして処理した技法は見事。また、千代と龍馬のつながりを家庭教師にしたあたりも無理が無くて慧眼と思う。
大きく前半は「怪力の三平」が流刑地を抜け出して町長になり再び捕縛されるまで、後半は娘として引き取ったお千代と英語の家庭教師・龍馬との恋愛(にエポニーヌ役にあたる堤真佐子)が加わった三角関係)の行方が描かれるが、裁判所のシーンは喜劇調に、迷路のような町を逃げ回るあたりはサスペンス調にと、メリハリのきいた演出がとても良かった。
ただ、ラストがあれっという感じで終わってしまうのが残念。
全体的に映像もgood。
また原節子(この時18歳)の演技もかわいらしくて初々しい。龍馬との待ち合わせの時間を悩むシーンや密会の場面での恥じらう様子などは非常に印象的。
大河内傳次郎ははじめ鷹揚な喋り方が少し気になったが、和尚の話から改心して様子や徳のある町長として慕われる姿などを、やや愛嬌のある感じで好演している。裁判所の場面では一人二役(大沼町長と未決囚の三吉)を演じている。
丸山定夫は嫌なヤツを好演していたと思うが、やや一本調子で、後半の悩むところに深みがなかったのがもったいない。
【あらすじ】
ときは明治時代の初期、ところは九州のある町。町復興の立役者、大沼町長の胸像の除幕式が行なわれていた。ちょうどその日、曽我部弥次郎が警察署に赴任してきた。彼は大沼町長の顔を見て、ある逃亡囚のことを思い出して大沼を問いただすが、さりげなく交わされてしまう。その晩、大沼は過去を振り返る。
……貧しい家族に食べさせるためにニワトリを盗んだ怪力の三平は、島流しになるが、何度か逃亡を繰り返すうちに十数年が経っていた。ある晩、役人を殺して船を奪い、島を抜け出す。その身なりに何処の宿屋にも宿泊を断られるが、ある寺の和尚が宿と食事を提供してくれた。しかし、彼は燭台を盗んで逃げ出すが、村人に捕まって引き戻されたところ、和尚は自分が差し上げたものだと彼を解放する。そして「真正直に生きる」ことを約束させる。……
三平と思しき男が逮捕されたとの知らせが入る。人違いの人物を罪に陥れてはいけないと決めた大沼は、熊本の裁判所に出かけて、自分が三平だと名乗り出る。そして曽我部に逮捕される。
囚人を乗せて北海道の監獄へと向かった船が遭難してしまい、三平は死亡を装って逃亡する。彼は、死んだ女性との約束を守って、その娘の千代を、五郎・お仙夫妻から引き取って一緒に暮らし始める。千代の英語の過程教師に清家龍馬を雇うが、千代と龍馬は恋仲になり、やがて西南戦争が始まった……。
『巨人傳』
【製作年】1938年、日本
【製作】東宝映画(東京撮影所)
【監督・脚本】伊丹万作
【原作】ビクトル・ユゴー
【撮影】安本淳
【音楽】飯田信夫
【出演】大河内伝次郎、原節子、丸山定夫、佐山亮、堤真佐子、汐見洋、今泉啓、清川虹子 ほか