編集者となったからには、少しでも早く自分の企画を立てたいと思うのは ごく自然なことで、新人の私も、 何か新しいアイディアを思いつくと、 それをノートに書き溜めていました。 いま思えば、それはまさに単なるアイディアで、企画といえるものではなかったのですが、 “アイディアと企画の違い” がわかっていなかった私は、 書き込んだノートを眺めては、 「この企画はいける!」 と大きな勘違いをしていました。
ノートに書き溜めたことをただ清書するような気持ちで企画書にまとめて上司のところへもっていくと決まって、 「これは君のアイディアであって、企画になっていない」 とダメ出しされました。 そして、 「アイディアと企画の違いは自分自身で掴みなさい」 と言われたことを覚えています。
先輩の編集者たちが書いた企画書を何枚も読み、 「企画の立て方」 の類の本も何冊か読みましたが、自分の書いた企画書との違い (正確には、自分の企画には何が足りないのか) がなかなか掴めず、 「私の企画書のどこが悪いのですか?」 と上司に詰め寄るような聞き方をしてしまったこともありました。
いまとなっては、何かの本から得たのか、誰かからアドバイスを受けたのか、それとも自分なりに掴んだのか定かではないのですが、 「アイディアと企画の違いは?」 と問われると、 私は
“アイディアは自分のわがままでいいけど、企画には読者への思いやりが大切”
と答えるようになりました。
アイディアというのは、自分が好きなこと、興味を持っていること、読みたいと思うことなどを思いつく (ひらめく) ままに挙げているに過ぎず、 自分が中心にいます。 そして、自分は面白いと思うのだから読者もそのように感じてくれるはず、と勝手に考えている段階です。
それに対して、企画に練り上げる段階では、そのアイディアを読者 (自分ではない、他者) が受け入れてくれるようにするにはどうしたらよいかと、自分が、読者という見えない海の中に潜って行くというか、読者のことを徹底的に思いやる (考える) 姿勢が大切だと思います。
実際には、アイディアを企画に昇華させるためには様々なことを考えなければならないことは言うまでもありませんが、両者の違いを私なりにはこのように捉えています。 と、さもわかったかのように書きましたが、 “企画を立てるというのは、楽しいながらも、本当に難しい” ことです。
アイディアと企画の違いがわからずに悩んだ新人時代、 私は同期の編集者より1歩も2歩も出遅れていたかもしれませんが、このときの経験は いまの自分にとって大きなプラスになっていると思います。