出版社に就職して、自ら望んでいた編集者という職に就いたばかりの頃というのは、一日も早く仕事を覚えて 「自分なりのスタイル」 を確立し、「自分が企画した本を出版したい」 と思うものです。 私も新人の頃は、まさにそんな気持ちを持って日々仕事をしていたように思います。
でも、入社してしばらくの間は、
・ 原稿のコピー
・ 原稿を読んで、その評価 (自分の意見) を上司に述べる。
・ 初校の作業をする。
・ 上司が校正した再校・三校の校正刷を読み、赤字の入れ方を学ぶ。
といったことが、私の主な仕事であったように記憶しています。
そして、 「自分で企画を立てて、本を出版する」 ということよりも、目の前の仕事をこなすだけで精一杯の状態でした。 また当時は、自分が行なっている仕事の一つ一つが単なる 「点」 としてしか捉えられず、編集者の仕事の全体像 ( 「線」 としての繋がり) が見えていなかったことも確かです。
1冊の本ができるまでの仕事の流れを把握し、著者とのやり取りの基本的な作法を覚え、先を読んで仕事ができるようになるまでに、私の場合は3年ぐらいはかかったのではないかと思います。 そして、編集者として独り立ちするまでには、さらに数年の月日が経っていました。
いまとなっては良い思い出ですが、当時は、なかなか独り立ちできないことに悩むこともありました。 でも、次第に自分が企画した本を出版するようになり、それなりの評価を頂く中で、少しずつ自分に自信を持つことができるようになりました。 と同時に、自分なりのスタイルもできてきたように思います。
そんなわけで、私自身を振り返ってみると、入社したばかりの頃に安易に思い描いていた 「自分なりのスタイル」 というものは、そう簡単には掴めるものではありませんでした。 拙い経験に照らして言えば、自身のスタイルは、基本となることをきちんと身に付けた上で、そこに自分なりの工夫や方法を加えていく中で、少しずつ自身の中に形作られていくものではないかと思います。
そして大切なことは、一度自分の中に形作られた 「自分なりのスタイル」 を過去の成功体験や経験に頼っていつまでも変えずにいるのではなく、柔軟に変化をさせること、自ら変化を求めることで、常に新しいことに挑戦していくことだと思っています。