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カテゴリ:美輪明宏
数年前に初体験した「黒蜥蜴」。大好きな大好きなこの舞台に再会できて、心躍った。不思議だけれど「帰ってきたなあ」という感慨が起こった。「黒蜥蜴」というおもちゃ箱がまたぱあっと開いて、抱えきれないほどの宝物が飛び出してくる。息もつかせぬ勢いで。
今回のパンフレットで、松岡正剛校長が「美的恐怖恋愛劇という謎」と題して舞台「黒蜥蜴」を明智探偵のごとく解明している。休憩時間に買って、うれしくなって一番に読んだ。三島の戯曲が旧仮名遣いだったということで、松岡校長も旧仮名で揃え、懐古的雰囲気をパンフレットに添えている。校長の旧仮名遣いの文章、初めてです。麗しく感動。 その中にある「三島は当初この戯曲をバレエのようなものにしたかった」という箇所を読んで、文意とはずれているかも知れないけれど、ためしにバレエの観方で芝居を観てみると、あら不思議、前回に比べ非常にスムーズに観ることができた。前回はとてもびっくりすることが多かったのである。 美輪さんのきめ細やかな演出により、俳優の立ち位置、ポーズ、発声、ニュアンス、舞台装置、音楽が、観客からの観え方を熟知した上で計算され、すべては「ここしかない」ところでびしっびしっと決められていく。歌舞伎の割台詞や、水葬礼の列を成す歩き方、ステージクラフトというのだろうか、再演を重ね続けたことでさらに練り上げられた様式美は古典の完成度にまで高められている。 バレエは美しい。ただひたすらに美しい。しかしこの芝居は乱歩の世界だからそこに少しグロが加わる。(深作欣二監督で撮られた映画版「黒蜥蜴」は、グロ8:美2だったというのが美輪談)黒蜥蜴のタトゥー、しわくちゃな顔の小人(もう大好き)、せむしの醜い老人。生き人形。宝石「エジプトの星」を収めた黒い花。このグロテスクな闇に私の中の何かが惹き込まれる。「不安にゆらめくことで美しさを増した早苗」のごとく、舞台がゆらめいて極美の世界を作り出す。 三島の紡ぐセリフは両腕に抱えきれないほどの薔薇あるいは宝石を投げ込まれているようで、客席に座る私はある時は口をあんぐり開け、ある時はため息をつき、ある時は思わず両手で顔を覆い、ある時は両腕で体をそっとかき抱いた。三島由紀夫に飢えていたんだなあ。 高嶋さん演じる明智小五郎の存在感がいや増していて驚かされた。大躍進だ。高嶋版明智探偵は品のよさと優しさが色気となって英知の輝きの中に香る。乱歩の描く明智よりも私は素敵だと思う(明智よりは金田一の方が結構好きだったりする。美輪さんと逆ですが)。それから、早苗役の早瀬さん、この人はすごく好きです。きれいで上手で、オーラもある。 美輪さん演じる黒蜥蜴が恋情を抑えきれずに乱れるところは、前回よりなりふり構わず、切なく、しみじみ悲しかった。美しいものに魂を明け渡した悪の華。欲しいものには構わず手を伸ばすわがままな子供。サディスティックで傲慢で、それなのに私は彼女を愛している。彼女の心は本物のダイヤ。その輝きを守るために、肉体を捨てた彼女を愛している。 カーテンコールでの美輪さんの表情は感謝に満ち満ちていた。こらえたはずの涙がまた落ちた。ああ。おもちゃ箱のふたが閉じた。いつでも開けられるよう、こっそり手の中に守っておかなくちゃ。美輪さん、ありがとう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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