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2012/06/24(日)15:00

ラーメン一筋60年、つけ麺の生みの親が語る『東池袋大 勝軒 心の味』

「東池袋大勝軒」、それはラーメン好きには知らない人がいないほどの人気行列店。知らなくても、2007年3月の閉店時の大行列の光景はメディアで連日放送されていたので、そのニュースで知ったという人もいるかもしれない。 その「東池袋大勝軒」の創業者であり、「つけ麺」の生みの親とされる山岸一雄さん著書の『東池袋大勝軒 心の味』が発売された。本書は、2003年に『東池袋・大勝軒のオヤジさんが書いた これが俺の味』として発行されたものに、その後から現在にいたる「東池袋大勝軒」での話を加えた一冊。 山岸さんは1934年生まれの現在78歳、弟子の数は300人を超えるという。ラーメンに人生を60年以上捧げてきた山岸さんの子ども時代から、ラーメンの世界に足を踏み入れ店を切り盛りしていく話、闘病生活、現役引退後、ラーメンに対する想いまでが綴られている。 版元のあさ出版のPR担当・井手さんは、全国1000軒以上のラーメン屋を制覇、食べ歩き手帳を21冊執筆、東京ラーメンショーの審査員を務めたこともある大のラーメン好き。ブログ「隊長日誌 (ラーメンミュージシャンの日記)」では、日々のラーメンを食べた記録をアップしている。そんな井手さんいわく、 「一人のラーメン職人の人生でこれほどまでのドラマが他にあるでしょうか? ラーメンを愛する一人として、全国のラーメンファンに絶対に読んでいただきたい一冊です。山岸さんが『ラーメンの神様』と呼ばれる所以が数々のドラマを通じて知ることができます」 山岸さんがラーメンの世界に身を投じたのは17歳の時。1951年の当時、ラーメンは一杯35円の時代。10歳年上の「兄貴」と呼ぶ従兄弟に誘われて、阿佐ヶ谷の「永楽」(丸長グループ)で働き始める。その後、「兄貴」が独立して「中野大勝軒」をオープン。54年に「兄貴」が代々木上原に「大勝軒」を本店として出店、支店となった中野店を店長として任されるようになった。 そして、55年に「つけ麺」が誕生。東池袋大勝軒でいう「特製もりそば」がメニューに加わった話が興味深い。 その後、結婚を経て、61年についに独立を果たし「東池袋大勝軒」をオープン。 道のりは決して順風満帆ではない。サンシャイン60も首都高速も走っていない東池袋で、山岸さんと奥様、山岸さんの妹の3人、身内だけでのスタート。山岸さんは病気にも悩まされ、86年には「老後を楽しくやろう」を合い言葉に一緒に働いてきた奥様に先立たれてしまう。「お店を畳もう」と決意したものの、「しばらく休業します」という張り紙にびっしりと書き込まれたお客さんの応援メッセージを見て、半年間の休業後に再びお店をオープンさせる。 本書で一貫しているメッセージは、「研究を重ね、美味しいものをつくって、お客さんに満足してもらおう」ということ。「特製もりそば」もゆで上がった麺を冷水で締める工程が加わり、手間がかかるので反対の声もあったという。それでも「美味しいと思うものをお客さんに提供したい」と新メニューに加え、それが大ヒットに結びついた。 本書で驚いたのは、「弟子に限らず、誰からの質問にも可能な限り答えるようにしている」との言葉。弟子たちにラーメンづくりのノウハウを包み隠さず伝授、雑誌にレシピをすべて公開、さらには、お客さんの入りが悪いラーメン屋の店主からの電話にラーメンのつくり方を一から教えてあげたという話も。 それは「より美味いラーメンをお客さんが食べられるきっかけを提供したい」という思いから。ただし、「真似するだけではホンモノは生まれない。努力に努力をかさねて自分の味をつくるのは本人であり、成功するのは本人次第」と本書には書かれている。 2004年には、緊急入院から現役引退を決意。07年には再開発計画による立ち退きで46年間営業を続けてきた「東池袋大勝軒」がついに閉店に。その翌年、お客さんの声に応える形で、元の場所から100メートルほど離れたところに「大勝軒」本店がオープン。 現在の「東池袋大勝軒」はお弟子さんのひとり、「南池袋大勝軒」から移ってきた飯野敏彦さんが店主を務めている。 ドラマチックなのは、現在、山岸さんはかつての店舗跡地に立つ高層マンションの最上階に住んでいることだ。マンションに住む手はずを整えたのは弟子のみなさん。山岸さんはそこからお店を見守っているという。 「つけ麺を考案した人物として知られる山岸さんですが、山岸さんの人柄が家族やお弟子さん、たくさんのお客さんに愛され、心のふれあいがあったからこそ今の大勝軒があるんだということを思い知らされます。一人のラーメンファンとして、この本が世に残せたことを誇りに思います」と井手さん。 居ても立ってもいられなくなり、「東池袋大勝軒」に行ってきました! 頼むのはもちろん本書の表紙写真にも記載されている「特製もりそば」(700円)。店内に飾られている「東池袋大勝軒」オープン当初の写真を見つつ、本書の山岸さんのラーメンに対する想いに馳せながら食べるもりそばは、より心に染み渡った。 大勝軒の麺は量が多いのが特徴。現在の東池袋大勝軒のメニューを見ても、並盛りで他店の大盛相当の340グラム、中盛りは550グラム、大盛りは800グラムとなっている。戦時中から戦後の食糧難に育った山岸さんは美味しいものをおなかいっぱい食べるのが夢で、それをメニューに反映させたものが今も受け継がれている。 巻末には、全国各地の大勝軒の直営店舗などの店名・住所・電話番号を記載したリストが付いている。「東池袋は遠い……」という人でも、家から近い店舗をチェックしてぜひお店に足を運んでみて。

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