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医者や夫には1箱と嘘をついてきたが、実は、私は妊娠判明前まで、雨の日も風の日も風邪の日も一日に3箱は必ず吸っていた元ヘビースモーカーである。それでもフランスに来てからはかなり控えていたほうだった。理由はフランスは紙巻き煙草高いから。煙草が安い日本にいた時は平均4~5箱、多い時(論文締め切り間近など)は1日6箱吸っていたこともあった。
妊娠が検査薬で判明しても数日間は煙草に火をつけていた。「妊娠には精神衛生も大事だから、煙草を無理にやめてストレスでいらいらするよりは、本数を減らして…」などと自分に言い訳しながら。しかし、なんだか不味い。しかも気が付いたら煙草を吸っているほうがかえってストレスになっていた。火をつけて「…煙草のせいで奇形児が生まれるかも(ちょっと大げさだが)」などとビクビクしながら2口ぐらい吸ってもみ消すのを繰り返したところで落ち着かないしつまらない。そんなわけで、たった数日のうちに、努力も苦労もせず、自然に、かつ、完全に煙草をやめることができた。今までニコチンパッチなどいろいろ試しても全くの無駄だったのに、とても得した気分だ。 ───煙草を吸わなくなって良かったこと 沢山ある。まず夫が大喜びし、服などをクリーニングに出さなければいけない回数が減り、出掛ける時に煙草の火を何回も気にしなくてもよくなり、まちがえて入れたばかりの珈琲の中に灰を落としてしまうこともなくなり、後頭部や胸が痺れる感覚がなくなって健康になった気がする等々、数限りない。だが、なによりも日曜日に惨めな煙草買い出しの列をつくらなくてよくなったことが一番嬉しい。 フランスは日曜日は大半の店が閉まってしまう。煙草屋も然りだ。日曜日に開店している煙草屋は数が限られているため、ここでまたもフランス名物長蛇の行列ができる。フランス人はケチなのに、煙草だけは高くても買うらしい。ひどい場合、灰色のスモーカーフェイスをしたニコチン中毒が50人くらい並んで外の通りまで延々と続いているので、観光客が「何あれ?」と立ち止まって写真を撮っているくらいだ。寒くてもショボショボと小雨が降っていても、煙草臭いブルゾンやコートの中に首を縮め背を丸めて、煙草を吸いながら惨めに並ぶフランス人たちや移民たち…貧乏臭く小汚い光景だ。そして私自身も何ヶ月か前まではその貧乏臭い光景の構成要素だったのだ。今となっては、日曜に煙草屋の出来ている列を見ると、優越感すら感じる。二度とあの列につくようなことがないように、このまま永久に喫煙再開しないですめばいいと思う。(でも、吸いたいとは思わないのに、どういうわけか、喫煙再開してしまって「あーあ、これでもう一生やめられないんだ」とがっかりしている自分の姿を頻繁に夢に見る。) ───煙草をやめて期待外れだったこと 別に節約にはならなかったこと。煙草をやめるまで一日3箱、毎日1500円ほど煙草に費やしていたことになる。私が煙草をやめたすぐ後に値上がりがあったそうで、現在フランスの煙草の平均価格は日本円にして600円前後だから、もし今も吸い続けていれば一日1800円。1800円x30日で一月につき5万4000円の節約、この他クリーニングも以前ほど頻繁に出さなくてよくなっているので、かなり金銭面に余裕ができているはずだし、喫煙していたときは「煙草をやめれば、さぞかしお金が浮くだろうな」とよく思ったものだ。 しかし、やめて何ヶ月もたつ今でも、以前より余裕が出たという実感が全然ない。それどころか逆に、金欠に…。 なぜだろう、と、よーく考えてみた。 すると、喫煙しないかわりに外食を頻繁にしている自分に気が付いた。ほぼ毎日外食。仕事が無い日で昼間一人でも外食。もともとグルメではないので贅沢はしてない。星付レストランなんて勿論行ってないのだ。でも、こちらでは日本に比べて安い外食の選択肢が少ない。ファーストフード以外のものを食べようとすると、まずくて安いところでもランチで1600円~2000円といった感じである。 今までは「これだと煙草○箱買える。隣のカフェでコーヒー飲むだけにして、御飯のかわりに煙草を吸おう」と、煙草代が安易な外食に対する経済的抑制力となっていたし、また、コーヒーを飲みながら煙草を吸うのは簡単だが御飯を食べながら煙草を吸うのは結構難しい故、必然的に御飯を食べることを避けることになっていた。 今は食事の時間帯だと迷わずカフェではなくレストランのほうに入る。煙草を吸いながら御飯を食べる人は少ないので、カフェよりもレストランのほうが副流煙の量は少ないからだ。 ───社交好きな人が嫌煙家になるとフランス社会では… 煙草をやめても、他人の喫煙に寛容な非喫煙者になれるならそれが一番いい。しかし私の場合はおそれていた通り(*)、煙草をやめたら、あれほどのヘビースモーカーだったくせに嫌煙者になってしまった。(*私の父がそうで、煙草をやめてから超ファッショな嫌煙家に変身した。だから多分自分もそうなるだろうと思っていた。) まだやめて半年もたってないので、煙草の煙を吸うと、中毒症状かなにか知らないが、とにかく胸が締め付けられて息苦しいというのもある。でも、それに加え、折角自分がやめたのに、他人の副流煙をお腹の赤ちゃんに吸わせなければならないのか、と感情的にもムカムカ腹が立ってしまうのである。普段はお腹の赤ちゃんのことなんてすっかり忘れてうっかり10センチヒールのブーツで外出してしまったりしてるのだが、こういう時だけ急に愛おしくなる。 仕事場である大学の構内は、どうせ授業か会議に行くだけだし、それも毎日行くわけではない。しかも、昨年喘息持ちの学生たちが学長に直訴して以来、構内禁煙の取締が厳しくなっている。もともと大学構内はフランスの法律で禁煙ゾーンとなっていて罰金も制定されているのだが、実質的には取締が行われてなかっただけだ。事務室でも学生に書かせるための構内非喫煙宣誓書用紙を見かけた。だから嫌煙家になっても仕事場では殆ど問題ない。 しかし、交友関係では問題が生じる。友達と一緒に外出したり、フェット(パーティー)に行ったりすると、大抵の場合は、みなモクモク煙草を吸う。嫌煙家だけど社交好きな人には辛いに違いない。 でも、もともと外出するのが大嫌いな私にとっては好都合。最近は、妊娠と禁煙を口実に、誕生パーティーだのヴェルニサージュだの、ことごとく断って、夫一人にいかせている。この口実だと、一緒に行かなくても夫が「これじゃ結婚してる意味がない!」と文句を言わないので大変便利だ。 以前、みんなで集まっている時に臨月の妊婦がいあわせた。みんな喫煙者だったが、彼女のお腹は一目瞭然なので、誰も何もいわず喫煙を控えていた。ところが、その中で、おもむろに煙草を取り出して真っ先に火をつけたのは妊婦本人であった。そうしたらまわりの人間も、彼女の喫煙については何も指摘せずに、いっせいに煙草を取り出して火をつけた。やっぱりみんな吸いたくて仕方なかったのである。ちなみに、「妊婦なのに煙草吸うなんて相当教育のない人では?」と思う人もいるかもしれないが、彼女は物理学博士である。 要するにフランスは社会的にはまだまだ喫煙者社会。レストランやカフェで禁煙席でも、混んでくれば、ウェイターが「禁煙席」と書いてある三角のプレートをひょいとどかして喫煙席に早変わり。あまり喫煙についてガタガタ文句をつけると「心の狭い人」かアメリカ人扱いされることになっている。 (一方、私の友達ではフランス人でも煙草を吸わない人たちというのはいることにはいる。彼等は嫌煙者同士で自然に集まっているようだ。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2003年10月25日 06時30分34秒
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