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ヴェネツィアの獅子たち

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Reiko Fujiwara Marini

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2008/07/25
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カテゴリ:人物伝
 年が明けた1623年1月、七十歳のサルピに最後の時間が近づいていました。
 
 12日になって、容態が悪化した彼は、修道院長を呼びます。自分の持ち物すべてを修道院に寄付することを伝え、臨終の聖体を依頼しました。服を着替えベットの上に座り、修道院の僧たちが集い見守る中、臨終の聖体を受けました。
 
 14日になると、もう起き上がることは出来ませんでした。しかし精神はとてもクリアで、知らせを受けて最後の挨拶に訪れた多くの要人たちに、いつもの明るさで対応したといいます。
 
 サルピのベットを取り囲み、涙を流す修道士たちに『おやおや皆さん、そんな湿った顔をして。私は今まで、あなた方を出来る限り慰めたり、勇気づけたりしてきましたよ。今こそあなた方の番ではないですか、私を励ましてくれるのは』と、冗談まじりに言ったそうです。
 
 医師が診察に訪れ、サルピに残り時間がわずかであることを告げます。すると彼は、微笑みながら医師にこう言いました。『神がお望みになるのなら、この最後の仕事(死ぬこと)を、きちんと成し遂げましょう。』
 
 「信仰」というものは、このためにあるのか。これほどまでに心おだやかに、むしろ喜びさえともなって、人生の幕を引くために、存在しているのかと、信仰というものを持たない私などに思わせるほど、死を前にしたサルピの心は、晴れ晴れとしたもののようでした。
 
 しばらくしてほんの少しの間、サルピは意識を失います。そしてうわ言で『サンマルコへ急ぎましょう。たくさんの処理すべき交渉があるのです。』とつぶやいた後、我に返ります。時計を見るともう夜の12時を過ぎていました。そしてこう言ったのでした。『さあさあ皆さん、もうお休みになって下さい。私は以前いた場所―神のところへ帰りますから。』
 
 誰もその場所を動く者はいません。そしてそれが最後の言葉になりました。僧たちの祈りとすすり泣きの中、サルピは息をひきとりました。1623年、日付は1月15日になっていました。
 
 
 神学者でもあり、サルピの愛弟子であったミカンツィオが、後に『パオロ・サルピ神父の生涯』という伝記の本を出版しています。その後19世紀後半に再評価のブームがあったのか、多くのサルピに関する研究や伝記本が出されました。その中で1894年にロンドンで出版された、ロバートソンの『サルピ神父~The Greatest of The Venetians~』で、「サルピは、最大で最後の偉大なヴェネツィア人であった」と、締めくくっています。
 
 実際、ヴェネツィア共和国がサルピと組んで、法王庁と対決した1606年の出来事は、おそらく最後のヴェネツィアらしいエピソードという気がします。
 
 最後まで、サルピを全面的に信頼しサポートし続けたヴェネツィア。信念と行動で、ヴェネツィアの一番大切なもの―「誇り」を守り通したサルピ。
 パオロ・サルピを失ったヴェネツィアは、まるで誇りまで一緒に無くしてしまったかのように、国としての力を少しずつ後退させてゆき、国際舞台から遠ざかって行きます。
 
 時代はすでに、建築様式から大げさなカツラの流行まで、これでもかと誇張され飾り立てられた、バロックへと移り始めていました。
  
 パオロ・サルピという人は、ヴェネツィアという独特の沼沢地の中に、ずっと昔に蒔かれた種が満を持して咲いた、奇跡の蓮の花ではなかったか、と思うときがあります。
(写真はカンナレージョ地区にあるサンタ・フォスカ広場の、サルピの銅像)





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Last updated  2008/07/25 03:49:50 PM
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Re:ヴェネツィアのパオロ・サルピ(その10)(07/25)   ペッシェクルード さん
長い連載、ご苦労様でした。サルピの人となりを勉強させて頂きました。他のイタリアでは見かけない、愛国者というのか、ヴェネツィアのために働いた人達が目白押しのこの共和国のことを知るにつれて、unica citta` al mondo の意味はこの事なのだと思いたいです。有り難うございました。 (2008/07/25 07:26:07 PM)

ペッシェクルード様   Reiko Fujiwara Marini さん
いつも心強い応援ありがとうございます。はじめはサルピのシリーズが(その10)にまでなるとは思っていなかったのですが、あれこれ調べているうちに長くなってしまいました。最後まできっちりと読んで下さり、感謝です。御指摘の通り、初めて愛国心の概念を持った国であることが、ヴェネツィアの大きな価値だと思いますから。 (2008/07/25 10:34:57 PM)


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