パットの距離感と小脳の関係
めでたく、栃木の勉強会も立ち上がりホッとしてますだから、と云うわけではないけれどちょっとだけgolfの話題もっとも、golfだけのことではなくて人の行動の全てに影響している小脳のお話ですあるゴルファーが、朝の練習グリーンにやって来た。ボールを一つ、ポトリとグリーン上に落として、素振りもせず、やおら構え、カップに向かってこつんと打った。ボールは緩やかにカーブしながらカップに向かっていく。ゴルファーは『なんだかいい感じだな、入るかも・・』と感じながらボールの行方を目で追っている。ボールは静かにカップの中に消えた。朝一の練習パットの1個目が入ってしまった事のあるゴルファーは多いと思う。素振りさえしなかったのに。それに対して、ラウンド中のパットは真剣にラインを読み、素振りをして打っても、入らないどころか、距離さえ合わないことがまま有る。さて、カップにボールを入れるために、脳はどんな仕事をしているのだろうか。まず、目から入った情報を処理する。傾斜が右流れだ。ちょっと登っている。芝目は逆目。これらの情報で『2カップ左にちょっと強めに』などと方針を決める。これは大脳によって行われている情報処理で、実はあまり役に立たない。ゴルファーはこの後、カップとボールの間に目印(スパット)を決めてボール後方からカップを見ながら数回の素振りをする。このときも大脳が素振りの強さを、手のひらの皮膚から来る情報から『むっ、これじゃちょっと強い、おっと、これじゃちょっと弱いか』などと処理している。これもあまり役に立たない。素振りという動作は、リハーサルではあるけれどイメージの中だけで正確な距離のシュミレーションは出来ない。たぶん出来ているのはスムーズなストロークをする為の体の使い方のチェックだけだ。話は変わるが、紙くずを丸めて屑篭に放り投げる時にスパットを後方から決めてスタンスを決め素振りまでして投げる人はいない。椅子に腰掛け、デスクに向かったまま、小さな的に物を入れるという非常に高度で難易度の高い作業をするにしては、あまりにも無造作にポンッ と 投げるそう、朝一のあの練習クリーンの、一個目のパットのようにそうめったには入らないが・・ここで、科学者としては、注意して見なければならない点がある。紙くずは入らなかったけれど、あわやぎりぎり、屑篭の縁に蹴られたのだ。素振りもせず椅子に腰掛けたまま体をひねった無理な体勢で投げたにしては精度が良すぎるいつも真剣に同じルーティンでスタンスを決めてパットしているゴルファーから見れば神業に近い。さて、この作業の精度は、何処から来るのだろう。大脳には出来ないジャンルだ。紙くずを投げる動作を大脳がやろうとすると距離が3ヤード屑篭の直径が20センチメートルこの距離から入れるには高い弾道で紙くずがかごの上から落ちていく必要がある等と考える。そして手に紙くずを持ちダーツゲームよろしく的に向かって腕を屈伸させ素振りを開始する。このとき、距離を合わせるには、これくらいかな、などと思っている。大脳は有る意味、言葉で考えているといってもいい。入るはずがない。何気なく投げた時の距離感は小脳が処理している。小脳の処理速度は速い。言葉に変換していないからだ。空間を空間のまま処理している。いや、これじゃ言葉が足りない。空間は縦横高さの有る3次元だけれどその空間を紙くずが放物線を描いて目的の穴に向かって飛ぶということはまず、手が屈伸し加速し手から放たれた紙くずは減速しながら上昇し運動エネルギーの減少から下降を開始し加速しながら穴に向かって落ちていく。この時、紙くずの飛行速度の変化は複雑だ。3次元中を飛行速度を変えながら上昇下降をしていく運動処理は速度の処理を入れて4次元処理となる。小脳はこのような物体の移動経路と速度変化を瞬時にシュミレーションし驚異的な精度で把握する。この精度は、ほぼ完璧といっていい。紙くずを手に持ち『これを、あれに、入れるんだ。』という、意思決定がなされた直後にはすでに情報処理は終わっているのである。そのまま投げれば、うまくいく。入らないまでも距離が合っているはずだ。さて、ゴルファー諸君グリーン上の素振りはどんな意味があるだろう。先の、スムーズなストロークをする為の素振りは良いのだけれど距離を合わせる為の素振りをしてはいけない。小脳が折角正確に準備した距離とボールの打ち出し速度を素振りをすることで台無しにしてしまう。運動処理を言葉で考えてはいけないのである。なんとなく感じていただけたら幸いである。