2431397 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

楽天塾

楽天塾

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2012.05.02
XML
カテゴリ:健康・病気



■【359回】 隠れた喪失感に配慮したケアが必要 [12/03/25]





■「物盗られ妄想」の改善に向けて(その5)

さて、このような事例に対してはどのように関わっていけば、解決に向けての扉は開いていくのでしょうか。

地域包括支援センターの職員は、先ずは本人のこれまでの生い立ちを調査しました。その結果、次のようなことが分かってきました。

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「元来、行動的で、自立心旺盛な人のようである。幼少期よりスポーツ万能で、地区の陸上大会では走り幅跳びやリレーの選手に選ばれ、何度か優勝したことがある。女学校卒業後、小学校・中学校の教員を勤め、30代で職場の同僚と結婚、2子をもうけるが、62歳の定年時に夫と離婚。その後は単身で暮らすようになり、趣味の人形作りなどをしながら自由に暮らしていた。

しかし、詳細は不明であるが、これまでに近隣とのトラブルが相次ぎ、7回ほど転居し、現在のマンションには5年前に入居したということであった。既往歴としては、60代で大腸癌の手術を受け、その後は2年に1回の定期健診を受けているが再発は認めていない。アルコールは好きであるが機会飲酒程度。」
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

大腸癌の既往があり、2年に1回検査の必要があることが分かったことで、地域包括支援センター職員は、しばらく受けていなかった大腸癌の検診が必要であることを本人に伝え、職員同伴で認知症疾患医療センターの外来を受診することになりました。

認知症疾患医療センターについては、シリーズ第214回『医療機関の対応能力向上も必要』をご参照下さい。

診察の結果、脳血管障害を伴う「軽度アルツハイマー型認知症」と診断されました。

その後も困難な介護状況がしばらく続きましたが、X+1年1月、本人の体調不良(食中毒のためか便失禁、下痢が続く)を契機に、選任された後見人を保護者として認知症疾患医療センターに医療保護入院することになりました。

入院後ほどなくして退院要求が強まり、しばしば病棟内で興奮し、看護師を攻撃するようになります。しかし、体育の教師をしていたためか、病棟のレクリエーションには積極的に参加し、特に看護学生が実習に来ているときには機嫌がよく、スポーツ選手として活躍した学生時代の話や教員時代の話を繰り返し話し、看護学生も興味をもってこれに耳を傾けます。やがて、食事の際には他患の配膳・下膳を手伝ったり、重度認知症患者の介護を手伝おうとしたりする姿が見られるようになり、他の入院患者とも和やかに会話するようになったという経緯が紹介されております。

教員時代の思い出を回想しそれを看護学生が傾聴したこと、そして他の入院患者さんの介護を手伝うという社会的役割を担うことによって、認知症に伴う行動障害と精神症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)が改善していった貴重な事例紹介でしたね。

◇    ◇


この事例を通して分かりますように、認知症の人がデイサービスや医療機関の受診を拒否するケースは実に多く、しかもそれが独居の認知症患者さんとなると対応に苦慮することがしばしばです。しかし、地域包括支援センターなどの職員が訪問を継続してなじみの関係を構築することによって、そうした困難な課題も解決に向かっていくことはしばしば経験されます。

◇    ◇


「成年後見制度」「社会での役割」という工夫などにより、物盗られ妄想が改善していくケースがあることが示されました。

認知症における妄想の発生には、自分自身の能力や立場の喪失感、そしてその喪失感に対する自己防衛的な要素が強く関与しているケースが多いです。すなわち、喪失の不安を「盗られる」という他人への怒りにすり替えて心の平衡を保とうとしているのです。物盗られ妄想の根底に隠された喪失感に配慮したケアを行い、安心感を与えるように接していくという基本姿勢を忘れないようにして下さいね。

(つづく)














笠間 睦 (かさま・あつし)プロフィール




 1958年、三重県生まれ。藤田保健衛生大学医学部卒。振り出しは、脳神経外科医師。地元に戻って総合内科医を目指すも、脳ドックと関わっているうちに、認知症診療にどっぷりとはまり込んだ。名泉の誉れ高い榊原温泉の一角にある榊原白鳳病院(三重県津市)に勤務、診療情報部長を務める。認知症検診、病院初の外来カルテ開示、医療費の明細書解説パンフレット作成--こうした「全国初の業績」を3つ持つという。
 趣味はテニス。お酒も大好き。お笑い芸人の「突っ込み役」に挑戦したいといい、医療をテーマにしたお笑いで医療情報の公開を進められれば・・・と夢を膨らませる。もちろん、日々の診療でも、分かりやすく医療情報を提供していくことに取り組んでいる。









お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2012.05.12 05:18:22
コメント(0) | コメントを書く
[健康・病気] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.