ベル姉の鯉する日常ときどき妄想

家政婦は見た(その5)

2003/05/14/(Wed)

台所でなにか音がするのでオレとタカヤはバットを持ってそろ~っと様子を伺った。
「ねぇ、ど、どろぼう?」とタカヤがオレの腕を掴んで囁く。
「ば、ばか!そうやってオレを前に出すんじゃねぇよ、オマエ先行け」
「え~~っ!」
「大きな声出すなっ!」

こんな真夜中にいったいナニモンだ?
この屋敷は今夜でまた貯金はすっからかんになったんだから取るものはなにもないぞ。
あろうことかなけなしの貯金をふんだくっていったのは去年名古屋からから大阪に行った親父の昔の親友センイチ親分だった。
まったく義理も人情も血も涙もないヤツだ。
男の風上にも置けない。

しかしなんの策もなくみすみすふんだくられた親父も情けない。
今日なんか米子にいってるはずの玉木の兄さんが帰ってきた。
オレは目を疑った。
玉木兄さんが帰ってきたら他に頼りになる中継ぎがいないじゃないか。
澤崎の兄さんだってそう酷使はできないのだ。
今夜もあまのっちがあの細っこい腕でけなげに投げている。
佐々岡の兄さんが思いよらぬ6回6失点で降板したとき、あ~今夜もダメかと思った。
タカヤは青い顔をして今にも倒れそうだった。
「しっかりしろタカヤ!あまのっちのあとの2失点はしょうがない、なんとか後続は押さえた」
タカヤはなんとか持ちこたえた。
しかし7回から河野の兄さんがマウンドに上がったのを目の当たりしたとき、タカヤは失神寸前だった。
「おい!タカヤしっかりしろ~~っ!!」
テツト、もうダメ、なんか動悸が・・」
オレが手首を掴むと脈が早くなっている。
ヤバイ!
「家政婦さ~~~ん!!」
オレは叫んだが、こういうときすぐ駆けつけてくれるはずの家政婦さんの姿が見当たらない。
「ったくもうなにしてんだよ~」
タカヤは「もうこのお屋敷は終わりだ~」と泣いている。
「しっかりしろよ、まだ終わったわけじゃ・・・」とオレが言いかけてる間に四球は出すわタイムリーは打たれるわ・・
「やっぱりこのお屋敷はもう破産するんだ~・・」タカヤが放心状態でつぶやく。
河野の兄さんは7回1イニングだけでお役ご免になった。
よかった。これ以上見つづけるのは心臓に悪い。
8回はだれだ?
酒井の兄さんだ」
「ぎえ~~~~~っ!!」タカヤは泡をふいた。
「しっかりしろタカヤ、気持はわかるがもう他にいないんだ」
とにかくもう運を天に任せるしかない。
オレは胸の前で十字を切った。べつにクリスチャンではないがいちおうクリスマスには毎年誕生日を祝ってやってるんだ、
少しはご利益があるだろう・・と思ったのがバチあたりだったらしくワイルドピッチにツーベースヒット、タイムリーエラーと
なんでもありで、しっかり火に油をそそいで炎上してかえってしまった。
9回も酒井の兄さんは投げつづけたがおれたちはもうどうでもよくなってテレビを消した。
「やっぱりこのお屋敷は没落するんだ、うっうっ」とタカヤはまだ泣いている。
「くそ~、この大阪の一家だけには負けたくなかったのに」

ここには長いことウチで若頭として一家をひっぱっていたカネモト兄貴がいる。
複雑だ。
4年前オレたちがこの屋敷にひきとられたときの主だったT川さんもここにいるのだ。
あのひとの広島弁には当初びっくらこいたものだったが、今も「あのねぇあのねぇ、ほいじゃけぇねぇ」とやっているのだろうか。
複雑だ。。。

オレとタカヤはそんなこんなで眠れぬ夜を過ごした。
寝つけなくて寝返りをうっていたら台所から不審な音が耳に入ったきたのだ。
そしてそこから話は最初の部分に戻る。

おそるおそるドアをあけると人影がした。
バットを掴むオレの手も少し震えた。
呼吸を整えて近づくとその影はいきなり振り向いた。

「ぎゃ~っ!!」タカヤが叫ぶ。
「だだだだだだ、誰だっ」
と叫んで灯りをつけると・・・・そこには・・・

空の一升瓶を持って立っている家政婦さんがいた。
目がすわっている。完全にデキアガッテいる。
「テ、テツト、、こ、こわいよ」


「ま~~ったく、この屋敷の連中ときたら、どいつもこいつも情けない!30年近くもこのお屋敷を見守りつづけてこんな不甲斐ないことはないっ!」
といって一升瓶をぶん回し始めた。
(やばいっ!)

「うん、うんわかるよ家政婦さん、今夜の試合はひどかった」
オレがなんとかなだめるように言うと、家政婦さんはこっちをぎろっと睨み、
「なに言ってんの!アンタたちふたりがこんなとこにいるのがそもそもおかしいでしょっ!早く上に上がって仕事しろ、この親不幸ものっ!!」
と言って一升瓶を振り上げて追いかけてきた。
「ぎえ~~~っ!」
(知らなかった、酒乱だったんだ)

オレとタカヤは結局一晩中、家政婦さんから身を守るため走りつづけた。
疲れた。
早く上に上がりたい。。。


            終わり


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