ベル姉の鯉する日常ときどき妄想

その2

           
ヘキサな刑事・羞と心
             (その2)



「懐かしいなぁ」
と、ユースケがぽつりと言った。
手には「現場」でユースケがみつけたものを持っている。
「これつる兄が描いたんだよね。シャレでさ。
あんまり頭にきたんで、逆に笑い飛ばそうってことでさ」
オレとユースケとナオキ。
この三人はこの署にとっては「お荷物」以外のなにものでもなかった。
ユースケは早とちりで粗忽だ。
ナオキは反対に慎重すぎて優柔不断だ。
そしてオレは上司に対しての「礼儀」を知らない。

この「お荷物」はよくドジを踏んだ。
ホシを逃したこともある。
しかし、これには、その後必ず係長の機嫌がヤケによくなるという
「オチ」がついていた。
その意味することとソイツがやったことはすぐにわかった。
「オレだけにならわかる。ユースケとナオキを巻き込むな!」


もうすぐ定年というオヤジさんがあの時、仲裁に入らなかったら、
オレは今でもここにいられたどうかわからない。
お陰でこれでも少しは大人になった。

「オマエらには羞恥心てもんがないのか?」
そっくりそのまま返してやりたい言葉を係長はよくオレたちに投げつけた。
「だからさぁ」
ユースケは思い出し笑いで言う。
「開き直って『羞恥心』ていうユニットにしちゃったんだよね、自分ら」
そして目を落とす。
あんまり、ナオキが真面目に落ち込むからさぁ・・・
ユースケの顔がだんだん曇る。
「それでさっ!」
そしてすぐ立ち直る。目が潤んでいるくせに。
「そのユニットのキャラをつる兄が考えて、描いたんだよね
オレたち3人のイラスト」
そして3人で飲んだ。
飲めないナオキにもむりやり飲ませた。
普段、署では言えないことを、ここぞとばかりに叫んだ。
「オレ、二人に出会えてほんとによかった」
ナオキは泣いていた。
ユースケもつられて泣いて、オレも不覚にも泣いてしまった。
冗談じゃない。酒だ、酒のせいだ。ばかやろう!

そのナオキがその翌日からいなくなった。

無断欠勤が続き、アパートの部屋ももぬけの殻だった。
忽然と、まさしく忽然とナオキは消えた。

「腰抜け野郎だ」
係長は、、いや、巌松は(もう呼び捨てで十分だ)吐き捨てた。
「やっと自分がクズだとわかって逃げやがった」
と笑った。
今度こそ、おやっさんに止められようがぶん殴ってやる!
と一歩足を前に踏み出したとき、そのおやっさんが前に現れた。
「邪魔すんな!!」
オレは「礼儀」を忘れて怒鳴った。
手をふりあげたと同時に巌松は壁に向かってすっ飛んでいった。
派手な音とともに巌松はもんどりうって転がった。
オレの手に感触はなかった。
その代わり、目の前のおやっさんが顔を真っ赤にし両手のこぶしを
わなわなと震わせていた。
署内の空気が一瞬かたまり、そしてなんともいえない無音の世界になった。

おやっさんの机は翌日きれいに片付けられた。
見送ったのはオレとユースケだけだった。
泣きじゃくるユースケにおやっさんは
「いい刑事(デカ)になれよ」とだけ言った。
オレには
「そんな怖い顔で睨むな」
と笑った。
オレはなにも言えなかった。
元気で、とも、ありがとう、とも、なにも言葉が出なかった。
「ナオキを探せ、オマエならできる。探してやってくれ」
そう言って、不自然なくらい威勢よく回れ右をしてそのまま
まっすぐ歩いていった。


「これはただオレたち自身をそのまま描いたんじゃない。
かなりキャラ化したから、まずオレたちと思うヤツはいない」
「意味わかんねえ『ゆるキャラ』だからねぇ」
「意味、わかんなくて悪かったな」
そしてそれぞれのイメージカラーをつくった。
オレは赤、ユースケは黄、そしてナオキは青だ。
ひとりひとり自分のものを持っている。
それがオレたちの友情だった。
青臭いが、確かにそうだったのだ。

あの現場に残されたのは「ナオキの青」。
あれはメッセージだろうか。
オレだよ、ここにオレはいるよ、と。
伝えたかったのだろうか。
「だからなんで、死体のそばなんだよ。
オレ、それ見たとき、心臓が飛び出そうだったよ」
「よく顔に出なかったな、オマエにしちゃ、上出来だ」
「アイツに気づかれたくなかったんだ」
ユースケはクチを真一文字に結んだ。
そんなときのユースケは実にいい顔になる。
そうだ、ナオキ、オレたちは絶対オマエをみつけ、そして汚名を晴らしてやる。


(つづく)



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