ベル姉の鯉する日常ときどき妄想

(その3)

ヘキサな刑事・羞と心
(その3)



死体は解剖に回された。
意外だった。
無視されることは覚悟していたからだ。
巌松の真意がどこにあるのか測りかねたが
何にしても捜査に当たれるということはオレとユースケにとっては朗報だった。
外傷はなかったが、量は少なかったが「睡眠導入剤」が検出されたのだ。
それがないと眠れないという性格の人間ではないということは関わった人間から
それはそれはイヤになるほど聞き出した。
「そんなタマじゃないっすよ」
仕事はなにをしてたんだ?
「芸能事務所をやってるっていってましたよ」
芸能事務所?
「でも、まぁ、その看板でナニやってたかはホントのところは知りませんがね」
よく飲みにくるという店のマスターは意味深な笑みを浮かべた。
その「意味」はこちらにもわかる。
「やっぱ、アレっすかね」
ユースケが言う。
「許せねぇな、そういうのいちばん」
ユースケもオレもそういうところは潔癖だ。
そして巌松にバカにされる。
声をかけられた女の子はかなりいるに違いない。
キャバクラ関係を当たれば収穫は得られるだろう。

そして得られた。
あまりに定石どおりにことが運ぶので担がれてるのかと
思ったぐらいだ。
「カシアス島田」は女の子たちのあいだでは驚いたことに評判は悪くなかった。
それどころか、彼のために泣く子もいたのだ。
しかも、決して少なくはない。
「アンタたち警察が考えてるようなそんなことはしてない。むしろ、わたしたちの
救世主だもの」
きゅーせいしゅ?
ユースケとオレはそれに合う漢字を当てはめようと苦労した。
ガイシャのイメージにあうものから選択しようとしたがどうしてもみつからない。
「『きゅーせいしゅ』って他に意味のある言葉あったっけ、つる兄」
「あるんだろ、でなきゃ、世の中おかしいぞ」
しかし、結局、妥当なところで落ち着かせざるを得なかった。
オレたちとしては府に落ちなかったが。
「ヤミ金にね」
その彼女は言った。
「お金を借りてたコがそりゃぁもうひどい取立てにあって」
「あのねぇ、そんなとこから借りちゃぁダメなのよ」
オレは呆れた。そこからの転落の道は決まっている。
ヤミ金にくっついているものはなにか。
こわ~いお兄さん方だ。
そして某島田の「芸能事務所」を通して、、、、いや、待て、
彼は「救世主」だった。
どういうことだ?

「おもしろい人だった」
彼女は笑った。
話をきいている中で初めて笑った。
「ヤクザ相手に詐欺をするのよ」
「はぁあ!」
思わず叫んだのはユースケだ。
詐欺だって?
「あるコがそれこそ売り飛ばされそうになったとき、警察だって中に入ってきたの」
あの風体で?
「それはちゃんと考えてるわよ。風貌も服装も言葉遣いも完璧だった。警察手帳もちゃんと持ってた」
「て、てちょ・・・」
「ユースケ、それぐらい今のご時勢なら簡単に手に入る。それぐらい知ってるだろ」
彼女は続ける。
「わたし、そのとき、ちょうどいっしょに居たんだけど、ドラマを見てるみたいだった。
あのひと、天才!」
オレとユースケは顔を見合わせた。
オレのプロファイリング、「口八丁で生きてきた」
当たってたな。
しかし、と疑問もわく。
「それでガイシャはなんの得になったんだ」
「ほんの少しの謝礼」
ほんの少し?
「変わったひとだった。もうヤバイもんにかかわるんやないでってお説教までして」
関西弁?
「たぶん、大阪のひとじゃないかな。ノリがそうだもん」


オレとユースケは混乱した頭を抱えたまま署に戻った。
「芸能事務所」
それは結局トラブルを抱えた女の子たちの「駆け込み寺」だった。
「それじゃ、まるでボランティアじゃないっすか」
まったくだ。
ガイシャのイメージがまるで変わってきた。
これは一度、リセットしてとっかかる必要がありそうだ。

「おつかれさ~~ん」
混乱しているオレたちの中に入ってきたのは小島だった。
お調子者で要領がいい。
なんの実績もあげたことはないが、なぜか上には可愛がられていた。
「はい、コーヒー。なんか収穫はあった?」
コイツに話す気にはなれないが、なにしろコイツを「チーム」に
入れたのは巌松なのだ。
「若いもんで勉強してこい」
巌松はそういった。
最初からこの事件に対して投げているも同然だ。
しかし、「チーム」の仲間として情報は共有しなければならない。
オレはおおまかに説明した。
「ふ~ん。変わってますねぇ」
「それだけか?」
「ただの変わりモンじゃないですか?」


オレとユースケはコーヒーを途中で捨てて部屋から出た。
「バカかあいつ」
「どうせ、巌松のスパイだろ」
「え?ほんと?つる兄」
巌松はオレたちの失点を狙ってる。
「適当にあしらおうぜ、無視だ、無視」
そのとき、オレのケータイが鳴った。
相手は今日、聞き込みをした女の子だった。
「思い出したんだけど」
「うん、なに?」
「カシアスさん、よく若い男性といたの。あの人とはちょっと似つかわしくない
すごく真面目なカンジの、、、、」
「ちょっと!!」
途中で大声をあげたのでユースケが怪訝そうな顔をした。
「今、どこにいるの?」
「お店」
「すぐ行くから待ってて」
オレはナオキの写真を持ってユースケに怒鳴った。
「ビンゴの最初の番号だ、行くぞ!」


(つづく)











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