ベル姉の鯉する日常ときどき妄想

(その4 ケン兄さんの作戦?)NEW

Only Yesterday (ヤマモト家の60’s)

(4)


「トモコ~!オレの靴下知らないかぁ」
アンタの汗臭い靴下なんか知らん!
「父さんのハンカチはどこだ?トモコ」
自分のモンだろ!
「ワシのめがね知らんか?」
頭にのっかてるよ!爺ちゃん。
まったくなんでウチの男共は自分の世話が自分でできないんだ。
と、トモコは朝からイライラしている。
昨夜の一件で母さんは家事を一切拒否してしまった。

みんないい顔ばっかりして無責任な、どうせわたしのことも使い勝手のいい家政婦だと思ってるんでしょ!と
何故か理論がそんなところにまで飛躍して母さんはバリケードこそ張らないが部屋の中に篭城してしまった。

「おい、トモコ」
昨日の騒動の主役のケン兄さんが呼んでいる。
(まったくもう、ケン兄ぃまでかよ)
「タカヒロの靴下と父さんのハンカチだ、それから味噌汁できたから爺ちゃん呼んできてくれ」
「は?」
ケン兄さんはいつの間にか朝ご飯までつくり父さんに
「今日弁当ないみたいだから、トモコとタカヒロにパン代渡してよ」
と指示している。
「今日は授業、午後からなんだ」
「あ、あ、そう」
トモコはちょっと唖然としている。
こんなにケン兄さんがコマメだとは知らなかった。
しかし、これじゃ母さんの立場が全然ない。
「お、美味そうジャン」とタカ兄ぃは相変わらずノーテンキだ。
「いや~昨夜はどうなるかと思ったけどよ~、一件落着だな」
「そうかなぁ、ますます険悪になるような気がするけど」
とトモコが言うと、
「しばらくはおとなしくするよ」
とケン兄さんは言った。
「自分の好きなことするのはいいが大学だけはちゃんと出てくれよ」
と父さんが言う。
昨夜よりちょっと引いた態度だ。
父さんは何事も穏便にという性格なので母さんの実力行使に中立の立場をとったほうが賢明だと思ったようだった。
「ハセガワくんは、ちょっとな」
髪の毛真っ赤ッ赤なハセガワといっしょにいると同類に見られると心配している。
「あの子はおもしろいなぁ」と爺ちゃんが言う。
「こんど家に連れてこい」
げっ!!
「爺ちゃん、やめてよ~、母さん倒れちゃうよ」
「な~に実際会ったらイイヤツかもしれんぞ、ワシは会って見たいのぉ」
爺ちゃんの発想は変わっている。
隣のホシノの爺ちゃんはハセガワのような人種を蛇蝎のごとく嫌っていて「根性叩きなおしてやる」といつも息巻いている。
「じゃ、こんど連れてくるよ」
とケン兄さんはあっさりと答えた。
「え~~?まじ?」
また一騒動おこるぞとトモコはげんなりした。
タカ兄ぃはなにやら楽しそうな顔をしている。
トモコは(ば~か)と睨んでやった。

                            ★

トモコの中学では生徒会の代表を決める選挙が近づいている。
選挙といってもいつだって教師が頭のいい生徒に立候補するよう「指導」するのだ。
要するに「ヤラセ」である。
生徒のほうもあんなのは頭のいいヤツがやればいんで自分たちには関係ないと思っている。
別の人種だからなぁ、ああいう秀才組は。
定数分の生徒が立候補しこれでしゃんしゃんと終わるはずだった。
しかし今回は違った。
頭のよくない連中が名乗りをあげたのである。
世間では先に参議院の選挙があり作家やタレントやあろうことかお笑い芸人まで立候補し、みんなアッと驚いたものだった。
そしてそれが当選してしまい、特に絶対落ちると占い師までが請合った芸人サンまで当選してしまい、世間はもっとアッと驚いたのであった。
世も末だと嘆く知識人も多かった。
中学生にもそれは影響したらしく、授業中より休み時間になると俄然はりきる連中がノッテしまったのであった。
掃除の時間にほうきを斜めにもってエレキの真似をするヤツ、色紙で作ったワッカを学生服に首からぶらせげてジュリーになったつもりの
アホちゃうか~なヤツらが生徒会に立候補したのであった。
トモコの担任は「まぁ、アイツらはいわゆるタレント候補ってとこだな」と言った。
トモコはなんだかその言い方がすごくイヤな感じだったので密かにアホな彼らを応援していた。
しかし、クラスメートにそんなことを言ったことはない。
だが、同じことを考えてる生徒はけっこう多かったようでその「タレント候補」たちはなんと当選してしまったのであった。
教師は苦笑いをしていた。
めでたく当選した「タレント議員」たちはさっそく「坊主頭反対運動」を始めた。
この時代、男子は中学に上がると強制的に坊主頭になるという不文律があった。
今考えるとむちゃくちゃである。よく暴動がおきなかったものだ。
「そう」決まっていることなのでみんな「そう」したのであった。従順なものである。
が、この時当選した異分子たちは「本音」をちょっと言ってみようかと思ったのだった。
しかし、それはあっけなく却下された。
そして、教室にバリケードを張ってシュプレヒコールを叫ぶこともなく「運動」は解散したのであった。
あの頃、中学生はまだまだ素直な子供であった。

                            ★

トモコの母さんはケン兄さんのバンド活動に難色を示していたが、いちばん恐れていたのは「学生運動にのぼせ上る」ことだった。
だから、それさえしなければ、とバンドのほうは譲歩してもいいかなと思い始めていたのだが、髪の毛真っ赤っ赤のハセガワはまずい。
ケンはちゃんと立派な学校の先生にするのだ。それなのにあんな常識はずれの不良とつきあって、道を誤ったらどうするのだ。
だからケン兄さんがハセガワを今夜家に連れてくるときいて母さんはびっくりした。
トモコじゃないが倒れるかと思うほど。
「ヤスコさん、べつにとって食われるわけじゃなし、ケンと同じ子供だ」と爺ちゃんは言った。
(こ、子供か?)
そうこうしているうちに玄関のドアがガラッと開いた。
「来たっ!!」と身構える、母さん、父さん、爺ちゃん、タカ兄ぃ、トモコ。。
入ってきたのはしかし、ケン兄さんとハセガワの二人だけではなかった。もう一人いた。
「あ、マエダさん!」とタカ兄ぃが叫んだ?
「マエダ?」父さんと母さんと爺ちゃんとトモコがハモった。
マエダさんはタカ兄ぃのライバルの高校の野球部で天才と呼ばれた4番バッターだった。
それを買われ、大学も野球の強いところに行った。ケン兄さんが通っているところだ。
タカ兄ィは目が遠くにイッテいる。伝説の憧れの選手なのだ。
しかも、寡黙で硬派なのだ。ハセガワのようにもちろんチャラチャラしてない
トモコはちょっと近づきがたくて怖い感じがいつもしていた。
ケン兄さんと友達だったのか。でもハセガワとはとても気があうようには思えない。
3人とも同い年だが、なんだかミスマッチな取り合わせだ。
でもトモコはケン兄さんは考えたな、と思った。
母さんはマエダさんならいいと思うだろう。ハセガワの毒がだいぶ中和される。
「失礼します」とマエダさんは言って家に入った。
「っす」と挨拶にもならないような声を出したのはハセガワだ。
細くて足が長い、端正な顔だちだ。が、着てるものがケバイ。
サイケデリックってヤツだ。母さんは眉をひそめる。
髪は相変わらず真っ赤っ赤である。
母さんの手がワナワナ震える。
トモコは正直言ってハセガワはかっこいいと思っている。
ただ自分の兄貴にしたいかというと話はベツだ。兄貴の友達にしたいとも思わなかったが、なっているのでしょうがない。
テレビで見たらきっとファンになっていただろう。
トモコは化粧したピーターという少年が現れたときすぐファンになった。
どうしてああいうタイプに惹かれるのか自分でもよくわからない。
友達にもけっこうファンが多い。男子は気持悪がっている。
偉い大人達もいろいろ分析したりして話題になっている。
分析したってわかるもんか。
カッコイイものはカッコイイのだ。
しかし、母さんはそういうわけにはいかないだろう。
さぁ、どうなるんだろう。
トモコはちょっとおもしろくなってきた。


    つづく



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