(2)よく話しをきいてみるとうろたえた理由は店主が推測したものと違った。 テツトが自分を捜していると思っている人間は店主が知っている男よりずいぶんと若かった。 まだ学生だ。 当のテツトは自分の想像が間違っていたことにほっとしているようだった。 だが本当に捜しにきた人間がこの店のオヤジと知り合いだったということには驚いていた。 「まったく世の中、イヤになるくらい狭いな」 テツトはうんざりしたように言った。 「だけどさぁ、あのおっさんもたいしたタマだな。まぁ普通のオヤジじゃないとは思ってたけど」 「そのたいしたたタマが直々にオマエさんを捜してるんだ。よっぽどだな」 「よっぽど、なんなんだよ」 「気になるってことだ。赤の他人なのによ。1ヶ月しか居なかったくせに騒ぎだけは一人前に起こして出てった。せいせいしたろうによ」 テツトはぶすっとした表情だ。 「あのオヤジのそばに居ればなんとか安全だぜ、帰る気はないのか」 「ねぇよ」 「強情なヤツだな。なんならオレが匿ってやってもいいぜ」 「いらねぇよ、どうしてどいつもこいつも、こうお節介なんだ」 オマエがそうして強がるからだ、と店主は言おうとした。 強いのではなく強がっているからだ。 そのくせたやすい生き方を選ばなかったからだ。 組にそのまま懐柔されてしまったほうが楽だろうにオマエはそれを蹴った。 勝ち目のないほうを選んだ大馬鹿モノだからだ。 だからアイツはオマエのことが気になってしょうがないのだ。 まるで昔の自分を見ているようなのだろう。 どっちにしても、と店主は思った。 このへんはアイツのシマだった。 現にすでにコイツとはもう出会っているらしい。 それでもこうして放っているのならどこかで見ているに違いない。 「だから、言わねぇよ、今日のことは」 「話しがわかるな、おっさん」 「だが学生サンのほうはどうする」 その言葉にテツトは店主がびっくるするほど反応した。 「アイツは関係ない。オレのこと話したら殺してやる」 「おいおい、物騒だな、そんなにムキになることはないだろう」 テツトは我に返ったのかすこし顔が赤くなった。 「わかったよ、言わねえよ」 コイツは思ったよりアブナイと店主は思った。 コイツのこんなところは今に命取りになる。 「ごっそさん」と言ってテツトは帰っていった。 店主はなにか一言声をかけたかったがなにを言っていいかわからず止めた。 また会えそうな気がする。 そういうカンはけっこう当たるのだ。 そう言えばまだ暖簾を出してなかった、と戸をがらっと開けたとき突っ立ってる人間とぶつかった。 電信柱のようにひょろっとしている若者だ。 店主の顔を見てびくっとしている。 「あの・・」とおずおずと声をかける。 「なんだ?」 「人を探してるんです。こういうひと見かけませんでしたか?」 と言って紙を広げて見せた。 似顔絵だ。 ヘタクソだが特徴はよく掴んでいる。 さっき帰ったばかりのあの男だ。 店主はむしろその絵よりそれを描いたであろう本人のほうをしげしげと見た。 若者はその視線に押し倒されまいと律儀なまでに踏ん張っているような気がした。 (なるほどな)と店主は思った。 (コイツか。なるほどな) そして絵の方に目を戻した。 「この男がなんかしたのか?」 「え?」 「指名手配かなんかか?」 「ち、違いますよ、そんなんじゃないです。ともだちなんです。ちょっと行方がわからなくて」 「やばいことしてるわけ?」 「違います、いいヤツなんです。ただ、ちょっと」 「ちょっとなんだ?」 「あの、、正直言うと悪いヤツに追われててちょっと危ないんです。だからどうしても早く探さないと」 ほんとに正直だ。店主は笑いそうになった。 このへんは悪いヤツがごろごろいるんだぜ、ぼっちゃん。 焼き鳥屋のオヤジがいいひととは限らないぜ。 つづく ジャンル別一覧
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