加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

2005/03/31(木)01:14

「有名」ということ その2ーオペラについて

音楽(438)

 昨日は今回の旅の一番のお目当て、ニコラウス・アーノンクール指揮のモンテヴェルディのオペラ「ポッペアの戴冠」(チューリヒ歌劇場)だった。  期待通りの充実した公演。音楽も演出(ユルゲン・フリム)もすばらしかった(詳しくはHP「コンサート日記」を見てくださいね)。  そもそもアーノンクールは、1980年代に、このチューリヒ歌劇場で、それまではほとんど埋もれていた(演奏法も分からなかったため)17世紀のオペラの大家、モンテヴェルディの現存するオペラを上演し、モンテヴェルディ・オペラの復活に大いに貢献したひと。その彼が、ほぼ30年ぶりに「ポッペアの戴冠」を取り上げるということで、一部の人間の間ではかなり話題になっていた。会場で、日本人の批評家の知人に会ったりもした(世界は狭いものです)。    今回、チューリヒでは、旅のはじめに「マクベス」、そして終わりに「ポッペア」を見た。「マクベス」は大好きなヴェルディのオペラで、もちろんとてもよかったのだが、もしどちらかひとつだけしか見られないとしたら「ポッペア」を選ぶ。アーノンクールの30年ぶりの「ポッペア」というのは、すごく話題性があると感じるので。  けれど、多くのオペラファンは、そうでもないんですよね、きっと。  私はオペラツアーのオーガナイズもやっているのだが、よくツアーに来てくれる方々に、今回の「ポッペア」を打診してみたのだが、ほとんど無反応だったのだ。  どうせ海外で見るなら、スター歌手で、それなりにメジャーな演目を見たい、ということらしい。  それも分かるのだけれど、私などは、このような、ここでしか見られないもの、そしてその劇場が力を入れているもの(今回は明らかに力を入れていた)を見たい、と思うのだけれど。    オペラといえば「椿姫」「カルメン」・・・それも分かる。たしかに名作だし、音楽も美しい。でも人気が高いがゆえに、「椿姫」「カルメン」などの公演には、はっきり言ってつまらないものも多い。個人的には「椿姫」など、よほど演出が面白いか指揮者がいいか歌手がいいか、でなければ見る気がしない。  それはオペラマニアの言い分でしょ、と思われるかもしれない。でも今回のチューリヒの「ポッペア」など、オペラ初心者でもたぶん楽しめると思う。話も分かりやすいし、演出が気がきいていて、人物の感情をよく補ってくれていたから、字幕がちんぷんかんぷんでもなんとなく分かるはずだ。音楽も、17世紀(バロック時代)とは思えないほど迫力があり、美しい。  以前「有名」ということについて書いたが、これも結局、同じようなことだと思う。有名な「椿姫」を聴くのか、そのとき評価されているプロダクション(演目、演奏者、演出を含め)を聴くのか。。。私に言わせれば、前者はお手軽なユニクロの服を買うようなもの、後者は思い切ってデザイナーズブランドの服を買うようなものだ。値段も5倍くらい違ったりするし。  値段のことを考えるとあまりいえないのだが、本音を言えば、ナビゲーターとしては、初心者の方にこそ「いいもの」を聴いて欲しい。(あまりに暗い内容の演目は、オペラが嫌いになりそうだから避けたほうがいいかも知れないが)「オペラって、すごいものですね」という公演に触れて欲しい。「ホンモノ」のよさは、やっぱりある。  

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