加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

2005/04/09(土)13:50

ダイアナ妃とマリア・カラス

人(58)

 イギリスのチャールズ皇太子の「再婚」が、えらく不評らしい。  ダイアナ元妃との離婚の原因となった、カミラさんと再婚するというので、世間の非難を浴びているようだ。  もう、いいんじゃない?結婚させてあげても、と私などは思うのだが、どうやら「ダイアナがかわいそう、これでは浮かばれない」というダイアナ派の方が、多数派のようなのである。  まあ、火種は結婚前から撒かれていたらしいから、やはり一番の責任はチャールズ皇太子にあるのだろう。  でもねえ、亭主が浮気していると分かったからといって、自分もあちこちの男性と関係を持ったり(しかもその男性が、暴露本を書くようなたちの人だったりする)、あるいはテレビ放送の電波でだんなの浮気をばらして、家庭問題を電波で流すなんて、そうそう褒められた行為じゃない。なんだかんだいっても王室のことであり、芸能人とはわけが違うのだから(日本の皇室じゃまず考えられないですよね)。ブレア首相も、これには苦言を呈したというし。  なのになぜか、一般からはあまり非難されず、チャールズの方にブーイングが集まってしまった。ちょっと不公平なんじゃないだろうか。  最後は最後で、大富豪の恋人とデートの帰りに事故にあってしまった。悲劇的だし、ドラマチックだからよけい人気が出たのだろうけれど、この非業の死がなければ、オナシスと結婚したジャクリーン夫人みたいな評判になっていたかもしれない。  地雷撤去運動に参加したことも人気の秘密だったというが・・・その種のボランティアは「ノーブレス・オブリージェ」というものでしょう。分野は違っても、身分のあるひとならその種のことはみんなやっているはずだ。それでも、彼女がやると人気の種になる。一方ではハリウッド俳優なみに、衣装や宝石にお金を使っていたのに、それはあまり非難されないで、憧れの的になるというわけ。  ダイアナ元妃は常に「人気」というものに恵まれる運命だったのだろうか。  ジャクリーン夫人の名前が出たから言うわけではないが、ダイアナ元妃は、ちょっと(ソプラノ歌手の)マリア・カラスに似ているな、と思うことがある。  もちろん2人の職業はまったく違う。ダイアナ妃はお嬢様からシンデレラ・ガールになり、マリア・カラスは「醜いアヒルの子」(彼女はとても太っていた)から、才能と努力で超一流の歌手になった。最後にはダイエットに成功して、美しい容姿も手に入れた。  おそらくその美貌の力もあって、ダイアナ妃とマリア・カラスは、王室とオペラ歌手という自分の枠組みをはるかに越えた名声を人気(ハリウッドスターのような)を獲得した。  そして人生がドラマティックだったことが、人気と名声に輪をかけたのである。    マリア・カラスなど、オペラ歌手にしてはまれなことに何冊も伝記が出版されている。そしてその大半は、彼女の音楽の秘密などではなく、恵まれなかった少女時代や年上の夫メネギ-ニとの確執、大富豪オナシスとの恋と別れなどに費やされている。私など、なぜ彼女があんな表現ができたのか、そういうことを解説した本があってもいいと思うのだが、その欲求が満たされたためしはない。「オナシスってひどい男なんだな。なんでカラスはそんな男に惚れたのかな」と思うのが関の山だ。    私には、彼女たちが幸せだったとは思えない。自分の求めたものーダイアナ妃はシンデレラの地位を、マリア・カラスは歌手としての比類ない名声を-を手に入れたのに、いつも何かを求め、飢えていた。それを「愛」だと言うのはたやすいし、何もかも手に入れたけれど「愛」には恵まれなかったというストーリーはとてもわかりやすい。でも、それは彼女たちの弱さから来る部分もあったと思う。彼女たちは最後のところで、自分とは何かを見失ってしまったのではないだろうか。

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