オペラは地物。
イタリアに来ると、とくにそう思います。
食べ物のように、劇場にその土地土地のカラーがあるのです。
とりわけここパルマの劇場は、その想いを味あわせてくれる、最高峰かもしれません。
食べ物がおいしいだけに、なおさら?でしょうか。パルミジャーノ(チーズ)、プロシュート(生ハム)、そしてオペラ。
ヴェルディの地元ですから、ヴェルディはもちろんですが、とくに「ナブッコ」は燃えるようです。
今回のパルマでのハイライトも「ナブッコ」でした。チケットはもちろん完売。
演目の初日は、地元のテレビで同時中継されていましたが、昨今の(どこでもそうですが)カジュアルな雰囲気が嘘のように、聴衆がドレッシーなのが印象的でした。やはり特別なオペラなのでしょうか。
今回の一番の楽しみは、タイトルロールのヌッチ。イタリアの国宝ともいわれるという大ベテランも、最近はさすがにしばしばキャンセルがあるようですが、初日につづいて今日も、ちゃんと登場してくれました。
やはり貫禄です。色味のある美声、声量も十二分、何より声による演技がすばらしい。心をつかまれてしまいます。、
アビガイツレ役はテオドッシュウ。これも「2人のフォスカリ」のルクレツィアと同じく、なかなか歌えるひとのいない難役。テオドッシュウは、セルjジャンよりは高低でむらがあるのですが、声全般の魅力、とくに弱音の美しさでははるかに上です。総合して、より魅力的。
フェネーナのアンナ・マリア・キウリは、かなり国際的に活躍し、新国でアズチェーナなども歌っているメッゾ。このひともなかなか魅力的です。声につやがあり、まだ若々しいのでその魅力とあいまって、聴かせます。
そしてイズマエーレのブルーノ・リベイロ。実は今回のフェスティバルで、一番注目していたテノール。昨年、このフェスティバルで「海賊」のタイトルロールを歌って注目され、今回メインの出しものにに抜擢されました。ポルトガル!のテノールで、トリノの「サロメ」(!)ナラボートでデビューしたそうですが、「海賊」で初めてヴェルディの本格的な役を歌い、「ヴェルディは自分に向いていると思った」(ある新聞のインタビュー)だそうです。芯のある素直な美声。劇的な力もある。何より輝きがあります。
さて、今回。さすがにまだちょっと弱くはありますが、将来性は十分に感じました。いつか彼のマンリーコなどを聴きたいものです。
しかし、今日、最大の拍手を浴びていたのは、指揮のミケーレ・マリオッティでした。
まだ30歳の若さで、2005年にオペラデビューしたばかりだそうですが、ボローニャの劇場の指揮者になり、この先パリやウィーン、そして東京でも相次いでデビューするという、注目指揮者です。
このひと、とにかく大胆。あおるときはあおるし、強弱やテンポのつけ方もかなり極端で、どきどきはらはらしてしまうほどですが、「ナブッコ」なんていうオペラはそんな演奏が面白いオペラでもあるのです。
カーテンコールではやんやの喝采、という感じでした。
そして、もちろん、合唱は迫力満点。正確無比というわけではないですが、色鮮やかなフレスコ画のように、ざくざくくっきりと鮮やかなのです。
「行け、わが想いよ」の合唱は、もちろんアンコール。それも第1回目はフォルテ気味、アンコールではぐっと弱く。これはマリオツティの指示でしょう。面白かった。
けれど一番面白かったのは、聴衆です。
とにかく反応がビンビンで、劇場がひとつになる快感に浸りました。ヴェルディの劇場ということもありますが、席数1000という規模も大いに関係しています。スカラでは、とくに今日びなかなか。
たとえば、「行け、わが想いよ」の第1回目が終わると、「viva verdi」とまずひそやかなつぶやき声。
拍手がわき、そして「ビス!(アンコール)」に変わり、それがやや続いて、本当のアンコールが始まる。
これが、イタリアです。オペラが生きている、イタリアです。