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去年の終わりから、毎月のように、時には月に数本、楽しんできたメトロポリタンオペラのライブビューイング。 今シーズンも終わりに近づいてきて、ちょっと寂しくもあります。 昨日は12本にのぼる作品の最後から2本目、ザンドナーイの「フランチェスカ・ダ・リミニ」を見てきました。 ザンドナーイは20世紀のイタリア、ポスト・プッチーニ時代の作曲家。何作かオペラは書いていますが、今でもレパートリーに残っているのはおそらく「フランチェスカ」だけでしょう。イタリアをはじめ、時々は舞台にかかる作品です。私は見ていないのですが、何年か前にもマチェラータ音楽祭で、たしかデッシー&アルミリアートの夫婦共演でやったはず。 物語は、13世紀のラヴェンナを舞台にした悲恋物語。醜い男と政略結婚させられたフランチェスカが、結婚の使者として訪れた夫の弟の美男パオロと恋に落ち、結婚後に一線を越えてしまって、現場を押さえた夫にパオロともども殺される、というストーリーです。ダンテの「神曲」に出てくる物語じたいは名高く、音楽ではチャイコフスキーもオーケストラ作品(幻想曲)にしています。音楽ファンにはこちらのほうが有名かもしれません。何とラフマニノフのオペラもあるそうですが、残念ながら未見。ロシア人好みの題材なのでしょうか。 この物語のハイライトは、アーサー王物語を読みながら、フランチェスカとパオロが思わず接吻をしてしまうところ。ロダンの「接吻」も、これがヒントになっているそうです。 私が思い浮かべてしまうのは、19世紀イタリアの画家アイエツの「接吻」。たぶん見たことのある方が多い作品だと思います。アイエツはヴェルディとも親交があり、「シチリアの晩鐘」とか、「フランチェスコ・フォスカリ」とか、オペラになった歴史的事件や人物の作品でも知られます。どうみても人目をしのぶ恋人たちの姿を描いた『接吻」も、パオロとフランチェスカのそれを連想してしまうのです。 「接吻」はこの絵です。 http://www.salvastyle.com/menu_romantic/hayez_bacio.html さて、このオペラ、メトでは、今シーズンが27年ぶりの上演とか。前回の上演は映像にもなっており、スコットとドミンゴという、2大スターの共演でした。それはすごい、鬼気迫る映像です。今回の主演歌手の2人、ヴエストブロックとジョルダーニも、この映像を繰り返し観たとインタビューで語っていました。 これは再演でも楽しめる、と思った大きな理由は、豪華な舞台です。演出はイタリアの名匠、ピエロ・ファッジョーニ。新国立劇場でも「ドン・キショット」を上演したことがありますが、幻想的で美しい名舞台でした。 今回の「フランチェスカ」は、もっと明晰な美しさをたたえた舞台です。第1幕の庭園の緑、第3幕の窓の外の空の淡い青。第1幕と第3幕の明、第2幕と第4幕の暗と、コントラストもはっきりして、明るい幕の美しさがよけい際立ちました。衣装の豪華さ、趣味のよさ、色彩のヴァリエーションは言うまでもありません。この美的感覚は、さすがイタリア人です。 オペラに、豪華な歴史絵巻を求めるなら、絶対におすすめです。今シーズンの演目のなかで、これ以外に歴史絵巻的な演出というと、モシンスキー演出の「オテロ」が思い当たりますが、やはりファッジョーニのイタリア的美的感覚は、視覚的な「美」では一枚上です。 加えて、今回の映像での発見は、映画に限りなく近い感覚で楽しめる、ということでした。 物語の設定や内容は、何となくベルカントオペラ、とくにベッリーニやドニゼッティのそれを思わせます。始まった当初は、ベッリーニ向きの題材かも、と考えながら見ていましたが、次第にその気持ちは消えました。歌唱美中心のベルカントではなく、ドラマ中心のヴェルディ以後の20世紀のオペラだからこそ、映画を見ているように引き込まれたのです。最終幕、フランチェスカたちが夫に踏み込まれる場面では、夫が入ってくるのが今か今かとはらはらしてしまいました。緊迫した場面でも歌の美に酔いしれてしまうベルカントオペラでは、ありえないことですね。 ザンドナーイの音楽も多彩です。いろんな作曲家の影響を受けているようですが、第1幕の美しい場面ではプッチーニの後期、「トゥーランドット」のような響きが、第2幕の緊迫した場面ではワーグナーの大オーケストラ付きの絶叫が、第4幕のマラテスティーノが囚人の首を切る場面ではシュトラウスの「サロメ」の余韻が聴こえました。けれど一番印象に残ったのは、出会いや愛に関連する幸福なシーンにこだますドビュッシーの響きです。そう、「ペレアスとメリザンド」みたいな。 歌手のいちばんは、ヒロインを歌ったヴエストブルック。ワーグナー歌いとして大活躍ですが、2008年にモネ劇場で観た「運命の力」も熱唱で、イタリアオペラのドラマティックな役柄にも向いています。情熱的なヒロインを、ひたむきに歌い上げて心を揺さぶりました。相手役のジョルダーニは、ここのところちょっと本調子ではないようでしたが、今回はイタリア的な甘い声もよく生きていましたから、調子はかなり戻ったようです。悪役の2人、デラヴァンとブルーベイカーもうまかった。とくにマラテスティーノ役のブルーベイカーは声の力もあってしびれました。 指揮のアルミリアートは膨大なレパートリーを持つ歌劇場指揮者ですが、何と本作は初めて振るということで、もりだくさんのスコアを十二分に開花させてくれたように思いました。 「フランチェスカ・ダ・リミニ」は明日までです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
April 20, 2013 12:19:55 AM
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