1988341 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

April 22, 2013
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類

 久しぶりに、体験しました。

 これぞイタリア!これぞオペラ!と言いたくなる舞台。

 トリノ王立劇場「ドン・カルロ」です。

 ご存知のように、ヴェルディ生誕200年の今年。ツアーも何本か企画していますが、その第1弾として、トリノ、ミラノ、モンテカルロでヴェルディのオペラを聴くツアーが始まりました。そのツアーで聴いた第1本目、それがトリノの「ドン・カルロ」だったのです。

 この公演、公表されたときから注目の的だったようです。理由は何より豪華なキャスト。エリザベッタにフリットリ、カルロにヴァルガス、エボリ公女にバルチェッローナ、フィリッポ2世にアブドラザコフ、ロドリーゴにテジエという配役は、まさにスター勢揃い。しかもそのうちの何人かは、それぞれの役で定評のある歌手です。この役に挑戦し始めたばかりという歌手、たとえばバルチェッローナも、ロッシーニのメッゾとして最高峰であり、ヴェルディにも適性を発揮し始めたところ。(彼女にはインタビューできたのでまた改めて)。

 とにかく、この歌手、この役、これは聴かねば!というひとたちばかりだった。指揮は音楽監督のノセダですしね。『ドン・カルロ」という演目じたいも壮大で、歌手が揃わなければできないオペラだし。今シーズンのハイライト公演のひとつなのではないか、と思ったのでした。

 今回はツアーなので、公演の前にはまずバックステージツアー。そしてさらに、芸術部長のガロッピーニ氏による作品解説。これが素晴らしかった。コレペティでもあり、指揮もするガロッピーニ氏は、ピアノを使って、ライトモティフ〜カルロの愛のテーマなど〜や調性の説明を交えながらの解説。長調と短調の組み合わせの斬新さ〜それがリヒャルト・シュトラウスにこだましている点も〜、ヴェルディ特有の「運命」の動機〜ベートーヴェンやミケランジェロの作品のように力強い〜などなど、深くそして的をついたお話で、40分あまりがあっという間でした。「ドンカルロ」を、「ヴェルディのキャリアでもっとも重要なオペラ」と語っていた点も興味深かった。参加者の方もとても満足してくださったようでした。そうそう、「ロドリーゴの死」のメロディを、「イタリア・オペラの大傑作」である美しさ、と言っていたのも印象に残りました。

 準備万端で、午後3時からの公演に臨んだメンバー。もうもう、ただただ、音楽と舞台の豪華さに圧倒される4時間(休憩含む。4幕版)でした。

  今回のプロダクションは再演ですが、トリノ王立劇場再建40周年記念と位置づけられただけあって、これでもか、というほど壮麗なもの(ウーゴ・デ・アナ)。第1幕のカルロ5世の霊廟の荘厳な雰囲気が、全体を通して貫かれていました。衣装もベラスケスの絵から抜け出した来たような沈んだ華麗さ。そう、豪華といっても16世紀のスペインですから、雰囲気は重々しく、暗いのです。舞台のはるか高みまでのぼりつめるように建つ石柱、彫像が上下にびっしりと並ぶ祭壇。第3幕のフィリッポ2世の書斎では、帝国の運命を暗示するように棚に並ぶ書物が傾く。そして、オーケストラピットからチェロの独奏が立ち上ります。ガロッピーニ氏が、フィリッポ2世の「苦しみ」を、眠れない夜が明けた雰囲気を描写したと解説した音楽が。

 それに対して、王冠や杓のような小道具はこれでもか、というくらい華やかで、眼福といいたくなるほど見とれてしまいました。 

 それぞれに葛藤を抱えた人物は、すぐに剣を抜きます。第3幕、宗教裁判長のロドリーゴを殺せという指令に逆上したフィリッポ2世は、裁判長が盲目なのをいいことに?剣を抜いてしまいます。もちろんすぐ収めはしますが。けれどその暗い激情は、音楽に内在しているのです。

 歌手たちもほんとうに素晴らしかった。

 一番魅了されたのは、エボリを歌ったバルチェッローナ。ロッシーニ歌いからヴェルディにシフトしてきた点はフェニーチェの来日公演でオテロを歌ったクンデと一緒です。だから、うまい。やっぱりロッシーニのセリアで鍛えている技術は完璧です。加えてバルチェッローナは声と容姿に華と押し出し(体格がいいという意味ではありません)があるから、ほんとうに映えます。「ヴェールの歌」の喝采はすごかった。

 もうひとり、つくづく見直してしまったのは、フィリッポ役のアブドラザコフ。これまでにも何度も聴いていますが、もちろん立派でいい声だと思うのですが、苦手なロシア系ということもあって今ひとつピンと来ませんでした。でも今回は凄かった。暗く荘厳な空間に似つかわしい、暗く荘厳な声。霊廟のなかから響いてくるような冷たさと、朗々とした声がかもしだす熱さ、それが理想的に調和して、国王の冷淡と情熱を十全に伝えてくれました。

 彼とすさまじいバスの二重唱を繰り広げる、宗教裁判長役のヴィノグラードフもすごかった。このひとは初めて聴きましたが、やはりロシアのバスらしい深い音が、裁判長の冷酷にあうのです。アブドラザコフとは同じ歳らしいですが、ウーム、知らなかったなあ。

 ロドリーゴ役のテジエ。このところヴェルディでも大活躍。ジェルモンだとちょっと重すぎるのですが、この役だとちょうどいい。美声です。華があるし、余裕があって。旋律線の歌わせ方もすごくうまい。

 で、そのうまさを統率していたのが、指揮なのですね。

 音楽に語らせ、歌手に歌わせる指揮。けっしてやりすぎないけれど、その場その場の雰囲気を的確に写し取る指揮。オペラ指揮者ノセダ、だんだん貫禄がついてきました。

 エリザベッタ役のフリットリは、今回調子を崩して降板したこともあったそうで、今ひとつ本調子ではなかったのが残念なところ。でもうまさはあります。品格もあります。そこはさすが、フリットリです。第4幕のアリアは泣けましたね。

 カルロ役のヴァルガスも、うまいのです。ただこのメンバーにまじってしまうとちょっとかすんでしまうのは、上品系だからしかたないかもしれません。カルロという役も大変なわりに報われない役のようですし。とはいえエリザベッタとの幕切れの二重唱はほんとうに美しかった。天国を向いた2人の気持ちが伝わってきました。

 石造りのスペイン、石造りの帝国、そのなかに閉じ込められた悲劇的な葛藤。ノセダの指揮は、幕切れのほんの数小節で、その音の、人間の大伽藍を、いかんなく語ってくれたのでした。

 オペラのあり方は、昨今いろいろです。はやりの演劇的オペラだって、当たれ場素晴らしい体験ができる。コンヴィチュニーやカーセンの舞台は私も好きです。でも、やっぱり、美しい声と美しい舞台が織りなす大伽藍は、イタリア・オペラの大きな魅力です。
 

 

  







最終更新日  April 26, 2013 09:40:43 PM
コメント(4) | コメントを書く

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

プロフィール


CasaHIRO

フリーページ

コメント新着

バックナンバー


Copyright (c) 1997-2019 Rakuten, Inc. All Rights Reserved.