3308230 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
July 13, 2013
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
 ローマでの大トラブルを乗り越えて、たどりついたヴェローナ。
 ホテルも快適で(音楽祭の時期ですから高いのではありますが。。。)ほっと一息。出かける前に雨と予測されていたお天気も、どうやら持ちそうな気配です。
 ホテルのなかのレストランで、美味しいお昼ご飯を食べ(あさりとからすみのスパゲッティは最高!でした)、しばし休息。わざわざツアーより早く出てきた理由である夜に備えます。
 夜の目的。それは、このブログでもさんざん書いているイタリアの若手指揮者(87年生まれ!)の、アンドレア・バッティストーニが指揮する「椿姫」の公演。5月に来日した時、彼は「椿姫」を、「室内的なオペラだからアレーナには向かない」というようなことを言っていたのですが、なんだか気になり、日程を調べてみたら、ツアーより3日ほど早く出れば観劇できることがわかったので、思い切って聴きにくることにしたのでした。「室内的」なオペラを、彼がどう料理?するのかなあ、と思ったのです。
 
  夕方、チケットを買いに、音楽祭会場のチケット売り場へ。ご存知の方もあると思いますが、ヴェローナの音楽祭はローマ時代の闘技場が会場で、野外オペラです。この手のフェスティバルで有名なのは、ここと南仏のオランジュ音楽祭でしょうか。
  
 ヴェローナは久しぶりです。10年くらい前には何度も来たのですが、その後ちょっと足が遠のいていました。観光的な面が強くて(まあ当然ですが)、音楽的には必ずしもいつもレベルが高いわけではない、ということもありましたし。その点では、やはりザルツブルクやペーザロとは違います。最後に来たのは6、7年前でしょうか。
 
  とはいえ、今年はヴェルディ生誕200年。生誕100年記念に始まったこのフェスティバルも100周年。というわけで、今年は、と思ってはいました。ツアーには、いわゆる中期三大傑作のハイライトを上演する「ヴェルディ・ガラ」(これは一晩だけ)と、ここの最大の名物である「アイーダ」を組み込んであります。
 
 さて、ローマでよけいな出費をしたこともあり、チケットは安めの階段席に。席が狭いことを別にすれば、舞台もよく見えるし、音響も平土間よりいいくらい。もっと上のほうの石段に直接座る席だと10ユーロ、20ユーロ代で見られますが、いちおう椅子つきの席を購入。明日はここで、チョンミョンフン指揮の「レクイエム」があり、そのチケットも買いました。これもなかなか豪華キャストです。
 
 ヴェローナ音楽祭の大きな魅力は、独特の雰囲気です。大らかで、オペラの間も曲が終わるとどんどん拍手が出るし、かけ声もかかるし。夏らしい。かけ声で、「viva verdi」とか、歌手の名前を直接呼ぶのも楽しい。まあ「さくら」という説もありますが、それも一興でしょう。
 一方で、上演中でも写真を撮りまくるようなこともわりと一般的で、そこがちょっと苦手だなあ、と思っていた理由でもあります。集中できないのでねえ、はい。
 
 フーゴ・デ・アナによるプロダクションは再演。舞台上に大きな額縁がいくつか置かれていて、花柳界?の退廃的な雰囲気を伝えます。どうやらヴィオレッタの贅沢の名残らしい額縁は、前奏曲の間、シルクハット姿の男性たちにより、彼女の死後のありさまを暗示するように「売り物」の紙を張られていました。
 
  見物だったのは、第一幕の終わり、ヴィオレッタの大アリアの最後で、ヴィオレッタが腰掛けた額縁のひとつがシーソーの片方のように空中に上がって行き、彼女の声を響かせるのに貢献したと同時に、会場にふさわしいスペクタクルな雰囲気を出して目も楽しませてくれたことと、第2幕のパーティの場面のクライマックスで、舞台後方のアレーナの階段にいくつか並んでしつらえられていたシャンデリア風の照明から花火が上がったこと。両方とも、お客さんは大喜びです。「室内的」な作品でも、アレーナにふさわしい見所を創ることはできるのだな、と思いました。
 また、一番メインになる額縁の後ろには温室のような透き通ったパネルがあり、その向こうでたとえば第3幕の謝肉祭のシーン、第1幕のパーティのシーンなど、舞台裏で進行している出来事をやっていたのもおもしろかった。こういうのは上の席だからこそよく見えます。
 
 さて、音楽ですね。
 
 よかったですよ。「室内的」な作品の雰囲気が巨大なアレーナを満たして、ちっとも不満を感じませんでした。
 
 前奏曲から、「椿姫」の世界に引き込まれます。ヴィオレッタの薄幸の運命の暗示。「椿姫」の音楽はほんとうにシンプルですが、ほんとうに美しい。「ウンパッパ」ばかりですが、それに息を吹き込めるかどうかは指揮者次第。よく「音符が多い」曲のほうが面白いと言われたりしますが、「椿姫」をうまく聴かせられなくてオペラ指揮者もないでしょう、と私なんぞは思います。
 実際、そんな指揮者は多くありません。これまで聴いたなかでいちばん印象に残っているのは、オランジュ音楽祭でのチョンミョンフンの「椿姫」でしょうか。音楽がずっと呼吸していて、物語っていた、それが古代劇場のてっぺんまで生き物のように満たしていました。チョン氏の、作品への共感も凄く感じました。
 
 今回も、それと同じくらい、「椿姫」のドラマと感情を体験することができました。とにかくオーケストラがずっと語っているのです。一方で、歌うところはもちろんよく歌いますが、 それがとても洗練されている。決して演歌みたいにならない。これはバッティストーニの才能だと思います。美しく、積極的に歌わせるのですが、知的なのです。バランスがいい。そして音が生きている。これがいちばんの魅力ですね。
  
 第2幕、手紙を書くヴィオレッタに伴うクラリネットの切なく美しかったこと、第3幕、再会した恋人同士が近づき抱き合う音楽の歓びにあふれた盛り上がり。このあたりは、今まで聴いた指揮者のなかでベストだったと思います。アレーナの巨大さなんてまったく感じませんでした。
 
 実はバッティストーニは地元ヴェローナの出身。それも無関係ではなかったと思いますが、開演前には「マエストロ!」のかけ声しきり、そして終演後には大喝采を受けていました。 
  
  歌手で最高だったのは、ヴィオレッタを歌ったエレナ・モシュク。この役は新国でも歌っている得意の役です。彼女にインタビューした時、ヴィオレッタは「死ぬほど好き!」(morireという言葉が出てきて何かと思ったらそういう意味でした)と言っていたのが忘れられないのですが、役を自分のものにしている、という感じでした。女らしい、しっとり感のある、はかなくてチャーミングなヴィオレッタ。これが私のヴィオレッタよ、という感じ。彼女はけっこうよく聴くのですが(最近はスカラ座のルイザミラー、リゴレットなど)、ここのところ好調のようでばらつきがありません。小柄ですが舞台姿もチャーミングで、今乗っているソプラノのひとりかもしれない。
 今回は、彼女の武器でもある高音の、しっとりやわらかな美しさが十全で、額縁に乗って上がりながら歌う第1幕のアリアのフィナーレでの高音もばっちり決め、やんやの喝采。第3幕のアリアも思い切り高く、長く、美しくひっぱって、またもややんやの喝采を受けていました。
 9月にはスカラ座と来日して「リゴレット」を歌いますが、期待できそうです。 
 アルフレード役のジョン・オズボーンはベルカントからここのところヴェルディへと進出してきたテノール。まずまず聴かせました。
 物足りなかったのはジェルモン役のルチンスキ。他の主役2人に比べて抜けの悪い声。これは発声の問題でしょうか。徐々によくなりましたが。
 
 というわけで、十二分に満足できた公演。夜中から降るかも、と言われた雨も来ず、やっぱりローマで厄落としできたと悦に入った一夜。バッティストーニにも挨拶できて、ああやっぱりこのひとはいい感じだなあ、大らかで素直で、このまま行ってくれたらとても楽しみだなあ、と、夜中の寒風でちょっと冷えた身体と心があったまるのを感じつつ、アレーナを後にしたのでした。 
 
 
 





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  July 14, 2013 12:54:10 AM


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

プロフィール

CasaHIRO

CasaHIRO

フリーページ

コメント新着

バックナンバー

April , 2024

© Rakuten Group, Inc.