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シチリア人の魂を歌ったオペラ。 マスカーニ作曲の「カヴァレリア・ルスティカーナ」について、数年前に来日したシチリア、パレルモのマッシモ劇場の当時の総裁は、そう語っていました。 物語の舞台は実在します。シチリアの内陸部、荒涼とした丘陵地帯にへばりつくようにある寒村、ヴィッツィーニ。シチリア出身の作家ヴェルガによる原作の小説は、ここであった事件にもとづいて書かれたそうです。ヴィッツィーニを訪れた時にガイドさんからきいた話だと、ヴェルガは町の広場に陣取り、村人の話をいろいろ聞き集めたとか。 ただし、イタリアの専門家で、今回の新国立劇場のプログラムにエッセイを寄せている白崎容子さんは、ほんとうにそのような事件があったかはわからない、としていました。村には、「サントウッツァの家」や「アルフィオとローラの家」が残りますが、白崎氏によれば、それは1953年に「カヴァレリア」の映画がここで撮影された時に設定されたものではないか、という。 小説のモデルになった事件があったかどうかは別にして(私はあったと思いますが)、その手の事件がよくあること、であるのは、今でも変わらないと、パレルモ劇場の総裁が言っていたのは印象的でした。 シチリアの寒村の情痴事件を扱った「カヴァレリア」。80分くらいの作品なので、似たような内容でやはり同じような長さのレオンカヴァッロ「道化師」とあわせて、ダブルビルで上演されることが多いオペラです。今月、新国立劇場ではこの2作がやはりダブルビルとして新制作されました。 演出はベルギー生まれのジルベール・デフロ。イタリアでの活動も長く、イタリアオペラでは伝統的で美しい舞台を演出します。昨秋、日本で上演されたスカラ座の「リゴレット」もデフロのプロダクションで、スカラ座の定番。豪華絢爛、これぞイタリア・オペラという感じの舞台でした。 そのデフロ、今回の舞台も、作品のメッセージをきちんと伝えつつ、観客を「娯しませる」ことを忘れないプロダクションで、作品に集中できる歓びを与えてくれました。 大道具は、シチリアにいくつか残る、古代ギリシャ時代の野外劇場。合唱団は時に階段席に座る観客のように扱われて、半ば劇中劇のようにオペラの物語が進行します。黒ずくめの衣装も、シチリアのお決まり。旅回りの劇団がほんとうに劇中劇を行う設定の「道化師」では、村に到着した一座がその夜のお芝居を宣伝するシーンで、ソロ歌手に加えてバレエ団が扮した劇団のメンバーが、脇の扉から客席に侵入。ちらしをばらまきながら踊ったりはねまわったりして通路を練り歩き、客席を沸かせていました。夜行われる劇中劇の場面では、主役の道化師を象ったイルミネーションも美しく、観客を「娯しませる」ことを優先して、その目的を十分に達成したプロダクションでした。 世界中でイタリア・オペラの(いい意味での)職人として活躍するレナート・パルンボの指揮も、的を得た巧みなもの。歌手につけるのも、歌わせるのもほんとうに上手です。オーケストラの部分では歌心を忘れず、同時に出てくる音色はすっきりとクリアで、美しい。これも作品に集中させてくれる指揮でした。 歌手のレベルもまずまず高かったと思います。一番の「嬉しい計算外」は、「カヴァレリア」のサントウッツァを歌ったルクレツィア・ガルシア。このひと、ここ数年大活躍で、私の場合、とくにヴェルディ初期作品でよく出くわすのですが(「群盗」「2人のフォスカリ」などなど)、正直、あまりピンと来たことがなかったのです。高音がかすれたりと不安定で、響きも濁ることがあったからです。それなりに強い声で高音が出るから、ヴェルディ初期の強めのベルカントによく出てくのかなあ、と思っていたのですが、それにしても今回のキャスティングをきいたときはちょっと驚きました。だってサントウッツァといえばヴェリズモの典型的な役ですから、ベルカント作品に出ているガルシアに適切な役なのか?と疑問に思ったほどです。 これが、よかったのですね。 ガルシア、どうも中音域のほうが楽に出る様子。同時に、ベルカントで鍛えているので、声に透明感があり、きれいです。技術的にも高いレベルにある、ということが、今回の歌手陣のなかで歌っていてよくわかりました。やはり、繰り返しですがベルカントで鍛えているからでしょう。ヴェリズモ作品でも、これくらいベルカントで鍛えたひとがやったほうがいいのではないか、と思い直したほどです。ヴェリズモ作品では、とかく大きな声、朗々とした声がもてはやされがちですが、ガルシアは技術と声の明度と強さのバランスがよく、うまさが際だちます。それを聴いてしまうと、声の押しや強さで技術的な不安定さをカバーするやり方の粗が目立ってしまうのです。他のソリストのなかにその手の歌手が見受けられたことが、ガルシアがいたおかげでよくわかりました。 「道化師」では、悪役トニオのヴィッテリオ・ヴィッテッリが、整った声と安定した技術をベースに、善人面をした悪人(ヤーゴみたいですね)、を巧く演唱していました。日本人では、華のある容姿と、容姿と同じく存在感のある声で役柄にぴったりの「カヴァレリア」ローラ役の谷口睦美、張りのある声と優男らしいヴィジュアルでこちらも役柄にあった「道化師」シルヴィオ役の与那城敬が、外人主役陣に見劣りしない舞台人ぶりを発揮していました。 新国立劇場「カヴァレリア」「道化師」、公演は30日までです。 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/cavalleria/
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最終更新日
May 19, 2014 11:08:59 AM
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